第27話 ご案内

夜。太陽とは違い眩しくない月がでる時間だ。冷静に考えると、夜というのは我々人類が太陽から唯一隠れられる、つかの間の安息である。しかしその間に月は太陽の光で焼かれた面を見せてくるという妨害行為を行ってくる。だが俺は全く嫌な気持ちにはならない。不思議だ。生々しい傷跡を見るのとプレイの縄跡?を見る違いだろうか?


話し合いの結果、教授の誘拐は家族の目の前で行うこととなった。


 理由としては時間稼ぎだ。復讐屋の業務は数日かけて行うらしい。よって教授を誘拐してから警察に連絡されると面倒なので、前もって家族に連れていきますねと言っておくのだ。もちろん、普通に言うだけではない。


 今俺は教授の家にいる。リビングを覗くと中では暢気に奥さんと高校生の子どもと一緒にテレビを見ながら夕食を食べている。セクハラしながら稼いだ金でずいぶんいい暮らしだな?


さあ、開始だ。


 だが突然テレビの画面が消え、家族全員のスマホが鳴る。つい見たくなるように音楽は緊急警報を選択した。全員がスマホを見る。そして三つのスマホとテレビからことなる映像が流れる。どれも教授のセクハラの映像だ。信じられるか? それお前らのとこの父ちゃんがやったことなんだぜ?


「なんだこれは!?」


「なに、これ?」


「え?」


 全員が声がだせるくらいには冷静になったようなので次にいく。


 テレビが突然切り替わる。ここからは俺が音声で行う。


『これは教授のセクハラの映像です』


 テレビから合成音が流れる。突然のことに家族全員そちらを向く。これからは教授はいらないので、家族の意識がそれているうちに誘拐する。タコ足鉤縄で音もなくドアを開け、教授を縛り上げ、こちらに移動させ、ドアを閉める。もちろん教授は能力で軽くしている。騒がれないように催眠スプレーをかけておく。


 任務、完了! いやまだやること残ってんだけどな。


もちろんこれは訓練済み。訓練なしで気づかれることなくすぐ近くの人間を攫うなんて無理だ。しかし俺今めっちゃ忍者ムーブしてるな。


『私達は確認がしたいのです。もちろんセクハラの確認ではありません。教授の奥さんとお子さんの意思の確認です』


「どういうことなんですか?」


 奥さんは混乱しているであろうに冷静にこちらに尋ねてくる。


『教授とはもう会うことはないでしょう。そして、貴女達に聞きたいのは教授の遺産がいくらほしいかです』


「「…………」」


『安心してください。教授は法で裁かれることはありません。なので教授のセクハラは表沙汰にはなりません』


「あの、父さんは本当にこんなことしていたんですか?」


 子どもが泣きそうな顔と声で聞いてくる。


『信じたくないかもしれませんがセクハラは事実です。そしてそれ以外にも相当悪いことをしてましたよ。というより本当にしていないなら、どうして教授は一人で逃げだしたと思うんですか?』


「「え?」」


 そういって二人は教授のいた場所へ振り向くが当然そこには誰もいない。俺が攫ったからね。でも家族にはこう説明する。


『教授はばれたとわかると素早く逃げていきましたよ。まあ、私達の仲間が捕まえたのでなんの問題もありませんが』


 まあ、本当は俺が音もなく攫っただけなんだが。


『お仲間に助けを求めようとしたのでしょうね。スマホはダメだと思い直接行こうとしたようですが無駄でしたね』


「「…………」」


 二人は言葉もでないようだ。まあ、いきなり父さんがセクハラなどの悪事をしていて逃げ出しましたなんて言われても反応しづらいよな。


『さて、では改めて聞きましょう。教授の遺産はいくらほしいですか? ああ、そうそう。この家などは最初から貴女方の所有物としてみなしているので安心してください』


「こんなやつの金なんて要らないよ!」


「……」


 おっと息子さんは潔癖な回答。しかし奥さんは色々と考えている様子。そうだよな。これからいきなり金がなくなりますは困るだろう。


『では奥さんはどうですか? べつにここで決めなくても結構ですよ? 何日か時間を空けましょうか?』


「……あの、本当に表沙汰にはならないのでしょうか?」


「母さん?」


『ええ。ですのでこれから息子さんが性犯罪者の子どもと見られることはありませんよ』


 本人は悪くなくても親類のせいで悪者扱いされることはあるからな。心配だろう。


「では遺産は要りません」


『本当にそれでいいのですか? あとから要ると言われても応じられませんよ?』


「「はい」」


『そうですか。それは残念です』


 ではここでの用事は終わりだ。


 家から出て恵空と一緒にコミナミとの待ち合わせの場所に向かう。


「ごめんな恵空。実験材料二人分逃したわ」


 あそこでもらうという選択をしていたら、実験材料にしていたのに。遺産というのはなにもいいものだけでない。負の遺産もそうだ。教授がやったことは、とても教授だけでは弁償できないので相続者にも手伝ってもらう予定だったのだが。


「いえいえ、構いませんよ。今回のことでいっぱい見つけましたから。しかしあなた見事な隠密行動でしたね。どんどんクライム系のスキルが上がりますね」


「それ気にしてるから言わないでくれる?」


「嘘ですね」


「それ、久々に聞いた気がするな」







 コミナミとの待ち合わせの場所についた。音楽スタジオだ。入り口でコミナミが待っていた。コミナミに先導されスタジオに入り、関係者以外立ち入り禁止の扉を抜ける。そこから地下に降り、見えたのは牢屋だった。そこには先客が一人いて、銀髪で黒い服を着ている。ヴィジュアル系ってやつかな? 中性的な感じだ。


「やあ、流石天麩羅くん。無事に捕まえてきてくれたみたいだね」


「ああ。もちろんハッキングもしてある」


 本来ならそれだけでは足りないかもしれないが、道中、恵空が全部確認したので大丈夫だ。


「素晴らしい。あとは僕たちに任せてくれ。そう言えば紹介していなかったね。彼女が復讐屋として僕とコンビを組んでいる大木戸さ。僕の恋人でもある」


 あ、女性なんだ? この人が前に言ってた恋人か。


「初めまして。大木戸は本名だけど、コードネームのハインドで呼んでほしい。よろしく」


 なんか話し方がキザな感じだ。だがさまになっている。


「初めまして、恥を忍んで衣を纏う、天麩羅忍者です」


「初めまして、宇宙人の恵空です」


「私にもコミナミのように自然に話してほしい。というより普通に話す超能力者は珍しいね」


「そうか? そう言えばコミナミにはいつから自然に話してたっけ?」


「あなたが罪のない婦女子に催眠スプレー吹きかけて、コミナミにビンタされてからですね」


「言い方! それだと俺が性犯罪者っぽく聞こえるだろう?」


「……性犯罪者ではないんだね?」


 ほら、あったばっかりのハインドに疑われてるじゃん。


「ああ。気になるならコミナミにあとで詳しく聞いといてくれ」


「そうさせてもらうよ。さて、私の能力を説明しておこうか。名前はフレンドリーファイア。効果は……これから見てもらおうか。ソレを牢屋に放してくれ」


 その名前大丈夫? なんかこっちにダメージこないよね?


「わかった。起こした方がいい?」


「そうしてくれ」


 言われたとおりに教授を牢屋に放す。そしてコミナミから借りていたゲキクサ液体が入った容器を鼻に近づける。するとすぐに起きて騒ぎ始める。準備完了だ。


「ではいくよ? フレンドリーファイア」


 そう言うとハインドの手に黒い炎が現れる。厨二感があるが格好いい。そして手を振り払うと黒い炎が飛び、教授の手の甲につく。


「あああああああ!」


 教授の汚い悲鳴が聞こえる。しかし、黒い炎はすぐに鎮火してしまう。……え? これで終わり? いやそれはないだろう。ショボすぎる。おそらくまだなにかあるな。


「……これからどうなるんだ?」


「焼いたところを見てごらん」


 言われたとおり見ようとすると教授が反対の手で、焼けたところを押さえていて見えない。手が邪魔だ。顔には苦悶の表情がうかんでいるのでかなり痛いのだろう。


 しょうがない、ここは俺の磨き上げられた説得スキルが火を吹くぜ!


「おい。手をどけろ。いい歳こいて『左手が疼く!』とかやってんじゃねえぞ!」


「「「ぶふっ」」」


「ちょっと! 今真面目な場面なんですからふざけちゃダメですよ。……ぷふっ」


 恵空に注意されたが面白がっているようなのでよし。教授が言うことを聞かないので仕方なく力づくで手を離させる。


「うわっ! キモ」


 そこには黒く焼けただれた皮膚があった。しかしそれだけではない。火傷したところは腫れており、さらに黒くなっている部分がまるで人の顔の様に見える。しかもなにかを苦しそうに叫んでいる様に見える。グロい。


「これが私のフレンドリーファイアさ。見てのとおり焼いたところに人面瘡ができる。そしてそれだけではないよ」


 そうハインドが言うと同時に人面瘡が話しだす。


「よく好きな子の縦笛を舐める輩がいると聞くが、僕にとってはまだまだだね。僕なんかは好きなこと縦笛を入れ替えたもんさ。こっちの方が二倍興奮するからね!」


「「「うっわ。きっつ」」」


 こんな酷い台詞聞いたのは初めてだ。


「……聞いてのとおり、この人面瘡は過去自分が思ったことのうち知られたくないのを話すんだ。時を選ばず話すからなかなか眠られずに自分の黒歴史を露わにされるのさ。そして人面瘡はどんどん顔に近づいていく。そして最後には……おっとここから先は言わない方が怖がってくれそうだから秘密さ」


「能力がエグすぎるな!」


「ほほう! とんでもなく悪辣な能力ですね。いいと思います」


 恵空、大喜び。


「お願いだ。助けてくれ。なんでもするから」


 教授が早くも泣き言をほざいている。しょうがないな。


「お、そう言えば伝え忘れてた。お前の家族には被害者に払う慰謝料を稼いでもらうから」


 もちろん嘘だ。しかし調査の結果、教授が家族を大事にしているようなので、苦しんでもらうために嘘をついた。


「待ってくれ! あいつらは関係ないだろう」


「なに言ってんだよ? お前がセクハラして稼いだ金でのうのうと暮らしてたんだろう? だったら関係者じゃないか。安心しろ。。じゃあ、行こうぜ」


「待って! 待ってくれ!」


 なにやら喚いている教授を無視して牢屋をでる。必死になってるが、すでに家族から見捨てられていることを知っている身としては滑稽だ。


 しかし自分がしたことだけなんだからそんなあわてるなよ。『撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ』って名台詞知らんのかね? まあ、実際に撃つやつは自分が撃たれるとは思ってないから撃てるんだろうけど。俺もやったことをやり返される覚悟なんてない。そんなことするならやり返そうとされないように相手の心とか折る努力をする。もしくは絶対やり返されないようにするとか。


さて、気になっていることを聞こう。


「それで? 最後はどういうふうになるの?」


「なにもしなければどうにもならないよ? だけど首にくるまでに人面瘡を攻撃してしまったら、報復として同じ攻撃を顔に食らうことになるのさ。自身の体の制御権をのっとられてね。まあ、人面瘡が顔にまでくれば、ずっと話し続けるからそのうち睡眠不足で頭がおかしくなるさ」


「本当にエグい能力だな」


「まあ復讐屋として便利だよ? 相手は恥をさらしながら苦しんで死ぬからね」


「そう言われればそうか」


 確かに結構復讐に適してるな。しかも直接攻撃力があるので少し憧れる。


「じゃあ、今日はここまでだね。天麩羅くん、恵空くん、無事依頼達成だ。ありがとう」


「私からもお礼を。ありがとう」


「はい。またなにかあれば依頼を」


「いえいえ、気にしないでください。あんなのは野放しにしておけませんからね」


 こうしてこの依頼は終わった。

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