第22話 パワーアップ?
「できましたよ」
今日も太陽が人類の肌をシミまみれにしてやろうとしている。
部屋のカーテンは閉めているはずなので、太陽はそんなにあたらないはずなのだが、眩しいほどに顔にあたっている。犯人は俺にのしかかっている宇宙人の恵空だろう。
「カーテン開けるなって、言ったじゃん」
「開けないとあなた二度寝するでしょう? ダメですよ。今日はトライクもどきができたんですから、お出かけしましょう」
できましたよっていうのはそれのことか。てか寝起きに言うとはなんか行きたいところがあるのか?
「……どこに?」
「そんなの決まってますよ。心霊スポットです」
「あれ? デート的なのじゃないの?」
「それは魅力的ですが、まずは心霊スポットでパワーアップイベントです」
「……ごめん。ちょっと話がみえないわ。説明してくれ」
「いいでしょう。まず――」
「待て。とりあえず、のしかかるのやめて。トイレに行きたい」
「はーい」
恵空がどいたので、用を済ませ、話を聞く。
「で? なんで心霊スポットでパワーアップするんだ?」
「産女と言うのをご存知ですか?」
「お前、俺の知識量をなめているな? 当然ご存知ないぞ」
「成程。少なくとも産女と敬語はよく知らないようですね?」
「いやいや。敬語ぐらい知ってるから」
「ほほう。ではなにか知っている敬語を話してみてください」
いいだろう。我が英知に恐れ戦くがいい。
「おかえりまさいませ、ご主人様。おいしくな~れ、萌え萌えキュン。ご奉仕させていただきます、ご主人様」
「メイド語!! 『おかえりなさいませ』と『ご奉仕させていただきます』はまだしも、『おいしくな~れ、萌え萌えキュン』は明らかに違うでしょう!」
「え? なに? 違うの? メイドさんの使う言葉は全部敬語カウントじゃないの?」
「違いますよ。こんなお馬鹿な勘違いは初めてですよ。誤主人様」
「そんな……」
衝撃の真実だ。じゃあ、メイドさんはご主人様に常に敬語を使ってるわけではないのか? いや待て。毒舌メイドとか結構いるわ。考えたら。俺はなんて恥ずかしい勘違いをしてたんだ。
「それで、産女を知らないようなので説明しましょう。妊娠中に亡くなった女性の霊で赤ん坊を抱えています。その赤ん坊を抱っこしてあげると怪力が身につくんです」
「へー。そんな幽霊いるんだ。でも怪力? 俺にいらなくない?」
超能力で物を軽くすれば、怪力なんていらないと思うんだけど。
「確かにそう思いますよね。でもこの怪力というのが思っているのとは違うものだと思います。実験の結果、むしろ身につく能力は身を守るものですね」
「よくわからんな。あとどうやって実験やったの?」
なんで怪力で身を守る? 重い鎧着けるわけじゃないよな?
「簡単に言うと、怪力は自分の内部にかかる力と外部にかかる力のバランスを崩すんです。作用反作用ってありますよね? あれでいうと、外部に二の作用をしても、内部には一しか反作用が発生しなくなります」
「……自分の攻撃力は二倍になって、相手の攻撃力は半分になる感じか?」
「ちょっと違いますが、まあ、そんな感じの理解で問題ないです」
「それは便利だな。で、どうやって実験したの? そもそもなんでそんな実験しようと思ったの?」
「それはもちろん、あなたが最高の怪力を得られそうだからですよ。実験は安定の黒服さんたちなどを使用しています」
「なんで俺だと最高の怪力を得られるんだ?」
「それはですね、赤ん坊を抱っこしてあげると怪力が身につくとは言いましたが、少し説明を省きましてね。正確には抱っこした赤ん坊はどんどん重くなっていき、女性が念仏を唱え終わる間ずっと抱っこしてあげると怪力が身につくんです」
「……最初から言えと言いたいが、始まる前に言ったのでよしとしよう。成程。俺の超能力があれば確かに余裕で抱っこできるな」
なにしろ反対の能力だからな。
「でしょう? では、行きましょう」
「これから行くの? 幽霊なんだから夜の方がいいんじゃないの?」
「大丈夫です。確かに一般的に夜の方が力が強まりますが、これからいくのは時間なんて関係ないほど強力なもののところに行きますので」
「そんなのいるの? そうか。超能力者を見つけるみたいに思念波を探知できるんだから、幽霊とかもいけるのか」
「ええ。探せますよ」
「じゃあ、行くか。ところで、トライクもどきってどこにあるの?」
「私の部屋ですけど?」
「なんで部屋に置くんだよ」
「空飛べるから窓から入出すればいいですよね?」
「……言ってたな、そういえば」
本当に飛べるんだ。そういえば最初に乗ってた宇宙ポッドのことを考えればできて当然か。いや、そもそもいつも飛べる家具使ってるわ。
「さあ、楽しいツーリングの始まりです!」
俺は今、風になっている! このトライクもどきは最高だ。恵空が現存するトライクに似せて作ったので外見はトライクの宣伝で見たようなものだが中身が全然違う。空は飛べるし、認識阻害を発動できるし、音が静かだ。これに乗って走れば、景色が後ろに流れていき爽快感が押し寄せる。なんだか自由になったみたいで心が軽やかだ。
「よろこんでもらえてよかったです」
恵空が話しかけてくる。
「ああ、うれしいよ。……だけどさ」
「なんです?」
「なんで普通に飛んでるんだよ!?」
恵空は一人で飛び、俺の前・から話しかけてくる。もうフォルムのせいでミサイルにしか見えない。
「え? 先導しないとどこ行くかわかりませんよね?」
「いや、カーナビ?に目的地を示してくれればいいじゃん」
「そうですけど、バードストライクとかに対応できますか?」
……無理かも。いや能力とっさに能力は発動できるかも知んないけど、一瞬だとどれだけ軽くできるかわかんないからな。
「……先導頼むわ」
「はーい」
せっかく爽快なのだから鳥を殺したくはない。恨みのある鳥はいるが、全ての鳥を恨んでいるわけじゃないしな。鳥は結構虫食べてくれるっていうからどちらかと言えば好きだ。だが俺の肩に糞をストライクした鳥、てめえはダメだ。
「着きましたよ。ここにいます」
「産女って家にいるの?」
目的地はデカい日本家屋だった。金持ちなのかな?
「う~ん。普通は道端とかで遭遇するらしいです。でも今から会うのは特別な産女なんで」
「ふ~ん。幽霊もいろいろいるんだな」
さっそく家に入っていく。この家は住民がいないらしいので勝手に入った。そして、畳が敷き詰められた部屋をいくつか通って、襖を開けると女性がいた。
女性はごつい赤い服を着ていて、髪が長く、うつむいているので顔は見えない。そして、おくるみ?に包まれた赤ん坊を抱いている。産女だろうな。
近づくと恵空に言われたとおり、赤ん坊を抱いてくれと言われたので、そのとおりにする。すると聞いていたとおり、赤ん坊が重くなり女が念仏を唱え始める。なので超能力を発動し、赤ん坊を軽くする。あとは終わるまで待つだけだ。
「…………」
いかん。産女を見ていたらどうしても気になることがある。
「なあ、これ話してもいいの?」
「いいですよ。なんですか?」
「産女ってさ、亡くなった妊婦の霊なんだよな?」
「そうですよ。なにか気になりますか?」
「その……母乳って出るのかな?」
「えええ!? そこ気になります!? この、妊婦の霊が赤ん坊のために念仏を唱えているしんみりする場面で、そこ気になります!?」
「うん」
冷凍保存されていた間に子どもさらわれたゲームでも気になったし。
「……出ないんじゃないですかね? 出るなら抱いてた赤ん坊に授乳するでしょうし、そうすると慰められて成仏しそうですし」
「成程」
ところで念仏長くない?
「なあ、これいつまで抱っこしてればいいの? いや、念仏唱え終わるまでってのは聞いてたけど、あとどれくらいかかる?」
「んー。夜までには終わると思います」
「そんなに長いの!?」
予想をはるかに上回る時間だ。
「ええ。服があんなに残ってますし」
「なにそれ? あの服は霊力で、できてんの?」
「まあ、似たような感じですね。あの産女は数多の産女が一つになった個体ですので、念仏の長さもとんでもないことになります」
「特別ってそういうことかよ! てかそんな長いならトイレとかどうしよう」
「ご安心を! 尿瓶持ってきていますよ!」
「おいいい! お前、これ、俺が嫌がって拒否すると思って話さなかったろう!?」
ふざけんな! なにを安心するんだよ!?
「大丈夫です。ちゃんとやってあげますからね」
やべえよ。本気の感じだよ。
「な、なあ、住民がいないとはいえ、他人の家にあがりこんで赤ん坊を抱きながら、恋人に採尿してもらうの?」
「はい!」
元気のいいお返事!
「俺、変態みたいじゃない?」
「傍から見れば控えめに言って大変態ですね」
嘘だと言ってくれよ。……いや、いけるか?
「待て! 俺の能力があれば赤ん坊は片手で持てるからトイレできるのでは?」
「赤ん坊を片手で持つような危ない抱き方は産女が怒るかもしれないのでやめた方がいいです。あとどこか行こうとすると、逃げたと思われて呪われるかもしれないのでやめてくださいね?」
え? じゃあ両手ふさがった状態で移動すんなってこと?
「……詰んでる」
「まあ、あなたが漏らしたいならその意見を尊重しますよ?」
いやいやいや。漏らすのだけはない。なので、選択肢は一つだ。
「恵空ああああ! ハメやがったな! 覚えてろよおおお!」
「え? 覚えてていいんです? 採尿されながら赤ん坊を抱っこする様を?」
「……やっぱ忘れて」
結局、尿瓶は活躍した。流石に夜までは我慢できない。
無事、産女の念仏は終わり、成仏した。そして俺は怪力を手にした。だが、力の代償に心に傷を負った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。