第21話 告白
……どういうことだ? 理解が追いつかないことを言われた。
『……ん゛? え? あれ? 待って。恵空は俺を超能力で選んだんだよな? 俺のこと好きなの? いや嫌われてると思ってはないけども』
『超能力はあなたに目をつけたきっかけですよ! 好きでもない人を伴侶にしようとしませんよ!』
『……なあ、好きって言ってくれたのはうれしいんだが、正直俺のどこが気に入ったの? 皆目見当がつかないんだけど?』
見た目。性格。才能。超能力を除けばどれも人が惹かれる要素はないと思うんだが。いや特に劣っているとも思わないが、少なくとも優れているところは思い当たらない。
『どこに惹かれたというと、独りで楽しそうにしていたところですね』
『え? それのどこに?』
べつに独りで楽しそうにするなんて普通だろうに。
『言ったでしょう? 私はボッチでさみしかったんです。遠くに友人がいても、です。それなのにあなたは独りで楽しそうに過ごしていました。不思議でした。理解できませんでした。さみしくはないのか、気になりました。なによりあなたの境遇を知ると他人とは思えなくなりました』
『待って。俺の境遇ってなに?』
『やはり気づいていませんでしたか。あなたも周囲に怖がられていますよ?』
嘘でしょう? 俺、周囲から怖がられているの? なにもしてないよ?
『え? なんで? 俺べつに顔怖くないよな?』
『顔が原因ではありません。超能力が原因です。』
『いやいやいや! それはおかしい。超能力のことは、ばらしてないぞ?』
『説明しましょう。超能力は思念波を使うものです。そして人間には誰しも思念波はもっています。さて、人間は全員ある超能力の才能をもっていますが、それがなにかわかりますか?』
話の流れからして、その超能力が俺が怖がられる原因だよな?
『もしかしてテレパシーか?』
『そうです。あと自身の肉体の強化もありますが、今大事なのはテレパシーです』
『まさか俺の授業中に考えてる変なことが伝わってたりするのか!?』
『いえ、そんなことはありませんよ』
よかった。テロリストが教室を占拠したらどうしようとか、官能小説の続きが気になるとか、あの野郎を屋上から落としてやろうとか、伝わってんのかと焦ったぞ。
『じゃあなんで怖がられているの?』
『未熟なテレパシーでもあなたの思念波の強さが感じとれるからです。その圧倒的な差を無意識のうちに感じ取り、怯えるんです。漫画で「なんて膨大な魔力量だ! やつは化け物か!?」ってなる場面ありますよね? あれがリアルに起こってます』
『え? そんな格好いい感じなの? なんか照れるな。……俺の境遇に他人とは思えなくなったって言ってたよな? てことは――』
『はい。私達ムラムラも同じなんです。幼少期は強力な思念波のせいで怖がられてしまいます。ある程度育つと思念波のを十分コントロールできるようになるので、怖がられなくなりますが。そもそも大体が幼少期ボッチっておかしいでしょう?』
『確かに。ムラムラは技術も圧倒的なんだから、俺達でいう超金持ちの子どもみたいなポジションになるはずだもんな。大体がボッチは変か』
『ええ。そんなボッチなのに毎日を楽しそうに過ごしているあなたを見て、正直少し憧れました。そして強く同族意識ももちました。そして、まあ、私の状況は伴侶探しの旅ですから、能力的に理想的で性格も惹かれる人物がいたら好きになりますよね?』
『成程。まさかボッチの部分に惹かれるとは予想外だったぞ』
『ええ。それに生身の話し相手ですので、好感度は爆上がりですよ』
『そういや、やけに俺の好感度高かったな』
まさか最初から好感度高くて、その後も話すだけで好感度上がるとか。どんなイージーモードのギャルゲヒロイン?
『しかし普通に話すだけで好感度上がるって、そんなにさみしかったんだな。』
『ええ。……理解されてないようなので言っておきましょう。もう一度説明しますが、親やネットの友人がいてもボッチがつらかった私が一人さみしく長旅をしていたんですからね? 留学なんて目じゃないレベルでさみしいですからね?』
『そう聞くとさみしい思いをするのは納得だな』
『そうしてようやく見つけた能力的に理想的な相手が、怖がることなく平然と話してくれるんですよ? そりゃ、よろこびますよ』
『それもそうか。なんか最初の方、警戒してて悪かったな』
『いいえ。当然です。普通に話してくれただけでも十分うれしかったです。それに、会ったその日のうちにお遊びにも付き合ってくれました。あれはとってもうれしかったです。なにも謝ることはありません』
『お遊びって?』
『散髪するときにした小芝居ですよ』
『ああ、あったな。震えるほどのイケメン……あれ?』
『あ……』
まずいって感じが伝わってくる。
『なあ、もしかして俺をイケメンにすることってできてたのでは?』
『いえ! あのときはまだ宇宙青汁飲んでもらえなさそうでしたから』
『待て! あの液体はテレパシーを覚えるためじゃなくて肉体改造のための液体なのか?』
『あ、えっと、その』
『どういうことだ? 恵空の目的は俺にテレパシーを覚えさせて、俺の感情をより知ることであり、そのために宇宙青汁を俺が飲むように仕向けたんじゃないのか? そもそも「繋がり」があるから嘘は通じないんじゃ?』
『……嘘がわかる理由はやましさが伝わるからです。ですから、話で嘘をついていなければ、わざと誤解させるように言ったらわからないんですよ』
『え? そうなの?』
『はい。私が認めたのは「あなたにテレパシーを覚えさせるのが目的だった」ことです。それが全てとは言ってないんですよ』
『なんだか混乱してきた。俺と会話するのが楽しいと言ってくれたのにこんなこというのは心苦しいが、これからもういいと言うまで「はい」か「いいえ」で答えてくれ。どちらにも当てはまらなければ「わかりません」でいい』
『あの、全部話せとは言わないんですか?』
『言いたくないんだろう? それを全部話せは可哀想だろう?』
『えー。でも根掘り葉掘り聞くんですね?』
『そりゃ気になるからな。だけど当てるまでやるのはズルいから数を限定するか』
この優しい対応。俺ってば懐が深い。
『それでいいです』
『じゃあ、一から九までの中から一つ数字を選んで同時に発表だ。二人の差の数だけ質問しよう。差が零なら質問は無しだ』
『結構優しいですね? いいでしょう。いきますよ? せーの!』
『一』
『五』
やっぱ恵空は五と言ったか。俺でも五って言うしな。
『じゃあ、これから質問を四ついくぞ? 質問です。恵空が俺に言いたくないことの理由はなんだ? 俺に不利益があるからなら「はい」、不利益はないが知られると俺に負の感情を抱かれると予想しているからなら「いいえ」、それ以外なら「わかりません」と答えろ』
『質問の仕方がせこいですよ!! 二択じゃなくて三択になってるじゃないですか!!』
『おお~ん? 聞こえないな~』
『なんで変なところで頭使うんですか。もう。……「いいえ」』
不利益はないのか。でもどんな負の感情だ? いや、大事なのはどの部分にそう感じるかだ。そして今までの話からおそらく肉体改造についてだ。肉体改造のとき、なにをしたか思いだしてみる。
『質問です。その俺が負の感情を抱くと予想する原因はどれだ? マッチョ形態なら「はい」、宇宙青汁なら「いいえ」、VRマシンで照射された光なら「わかりません」と答えよ。複数に当てはまる場合はより当てはまると思う順に答えよ』
『「はい」、「いいえ」、「わかりません」』
『まさかの全部!?』
でもやっぱマッチョか。マッチョにより俺が負の感情を持つのか……わからん。考え方を変えよう。青汁を飲む前と後の変化はなんだ? テレパシーと肉体だ。そしておそらくこの肉体はイケメンではいけない。なぜならイケメンでいいならば、そうすればいいからだ。なにもゴリゴリ強面マッチョマンにする必要はない。いや、待て。まさか!
『質問です。恵空にとってのイケメンと感じる順に答えよ。俺のマッチョ形態なら「はい」、普段の俺なら「いいえ」、男性アイドルグループにいそうなやつなら「わかりません」』
『「はい」、「いいえ」、「わかりません」』
『お前美的感覚どうなってんだよ!?』
『……種族が違うから仕方ないと思います』
くそ! なら納得だ。
恵空は日本について詳しいから当然自分の美的感覚が日本人の一般的なそれからかけ離れているのを知っている。だから俺にイケメンにしてくれと言われて俺基準のイケメンにするわけにはいかなかった。
そしてこのマッチョ形態は恵空にとってのイケメンなのだ。だから言い渋った。当然だ。どう説明するというのだ? イケメンにしてくれと言ったやつに対して全然違うゴリゴリ強面マッチョマンにしたんだからな。
そしてこれなら確かに条件に当てはまる。俺に不利益はないが負の感情は確かに生まれたからな。俺のイメージするイケメンと全然違うもの。
だがこれだとべつに怒る気にならないな。俺がイケメンになりたかったのはモテるためだから、恵空が気に入っているならこの姿でいいからな。しかも恵空は俺のために見た目変えてくれてるんだからお相子だよな。
しかしあと一問はどうしよう? 適当にするか。いや、せっかく恵空が気にしているんだから優しくするチャンスでは? 人間弱ってるところに優しくすると効果覿面らしいし。
『質問です。俺のマッチョ形態はどれくらい気に入っている? 普段からマッチョ形態がいいと思うくらいなら「はい」、きゃー素敵!抱いて!と思うくらいなら「いいえ」、イケメンと思うなら「わかりません」と答えよ。ただし、答えが複数ある場合全て答えよ』
『「はい」、「いいえ」、「わかりません」』
成程。そう言われては応えぬわけにはいくまい! マッチョ形態、変身!
『よし! もういいぞ。このマッチョ好きめ!』
『べつに特段マッチョ好きではありません。勇者より狂戦士が好みなだけです』
『ちょっと趣味趣向が変わってるな!』
『触手大好きなあなたに言われたくありませんよ! もう!』
まあ、なんにせよ真相がわかってよかった。……あれ? そもそもなんでマッチョにされたの気になったんだっけ?
『……あ!!』
『どうしました!?』
『大学! これは間に合わんな』
『まあ、バッジつけて能力全開で行けば傷は浅いのでは?』
『そういえばそうだな。あ、一応のど飴貰える? エクトプラズマ・ギャラクティカな』
『はーい。虫由来でも気に入るんですね』
『……え゛? なんでそんなの渡したの?』
『ほえ? 虫をつけてなければいいんですよね?』
『そこは言えやあああああ!』
『えええええええええ!? ここで怒るんです!? もうあなたのブチ切れポイントがわかりませんよ!』
『お前の美的感覚の方がわからんわ!』
『これは一度よく話す必要がありますね』
『本当にな。だが今は大学が優先だ。じゃあ、行ってくる』
『待ってください』
『なんだよ? 急いでるんだけど?』
『わかってます。でも大事なことで、しかもすぐ済みますから』
『わかった。なんだ?』
『私はあなたのことを好きと言いました。しかしあなたは好きだとか愛しているだとか言ってくれていません。テレパシーでわかっていますが、言ってほしいんです』
……そういえば言ってないな。こ、これは言うしかないのか? 好きだ、とか、愛してる、とか? ……なんだろう。ものすごく抵抗感がある。いや、もう好きなのは認めるとして、直接言うのはなんだか異常に恥ずかしい。会話が楽しいとは難易度が全く異なる。
そうだ。ストレートに言うのが恥ずかしいなら遠回しに言えばいいんだ。なんて言えばいいんだ? 好きの言い換え? 月がきれいですね? 宇宙人の恵空には合っていると思うが……そうだ!
『……宇宙にいるみたいだ』
『……はい?』
『くっ! ひねり過ぎた!』
『待ってください。どういう意味ですか? いや、流れ的に意味はわかるんですが、そういう意味になる理由がわからないのですが』
『マジかよ。今の意味解説するの? 滑ったギャグを解説する方がまだましだぞ!』
『だって知りたいですもん!』
どんな羞恥プレイですかね? これなら素直に好きと言った方がよかった。
『……だから、あれだ。その、恵空の名前をつけるときに言ってたじゃん? 宇宙では空気が必要だとか。あと、なんか、最初に会ったときに「もうお前がいないと生きていけない」とか言わせるとかなんとか言ってただろう? だから言ってほしいのかなと思って……』
『成程! つまり、さきほどの「宇宙にいるみたいだ」は、空気がないと生きていられないので、転じて、空気と同じ音から、「恵空がいないと生きていられない」と言いたかったということですね!?』
『……そうだけど、解説はやめてくれない? 心が痛いよ』
マジ限界なんだが。
『……むっはー!! いい!! いいです!! 気に入りました!!』
気に入られちゃったよ。恵空から津波のような歓喜が伝わってくる。まあ、気に入ったんならまだ救いがあるか。
もうとりあえずどっかいきたい。……って大学行くんだった。
『じゃ、じゃあ、大学行くから』
『むっふ。いってらっしゃい。チワワに襲われないように気をつけるんですよ』
『襲われたらテレパシーで助けを求めるから大丈夫だ。「たしゅけて」ってな』
『そこはチワワなんかに負けないと言ってほしかったです。あともう少しまともに救援要請してほしいです』
別れ際に文句つけられた。
まったく。大学に遅刻するとは独りのときにはありえなかったことだ。
独りはいい。遅刻なんてしないから。
だが美的感覚が独特な宇宙人がいる今の生活はもっといい。
そのあと、全力で走ったせいで腹が痛くなり、大学でトイレにいったのだが、紙がなくて恵空に『たしゅけて』と救援要請した。
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