第17話 ランチ

「暇ですね」

「暇だな」

「ここは私達の中を深めるためにカップルっぽいことをやりましょう!」


 なんかいきなり言い出したが、やりたいこともないので賛成だ。


「そうは言ってもカップルっぽいことってなんだ?」

「やはりここはお姫様抱っこでは?」

「じゃあとりあえずやってみるか」


 そう言って恵空を持ち上げてみる。


「……なあ、これ成体になってからじゃないとカップルっぽくないんじゃないか? これ傍から見たら荷運びじゃね?」

「そうですね。少なくともここから恋は生まれないと思います」

「うんぬうう。ぬあああ!」


 そう叫びながら恵空を両手で高く持ち上げてみる。


「なに、重量挙げの選手みたく持ち上げてくれてるんですか!? 笑いは生もうとしなくていいんですよ! あと女の子を重い物みたいに扱うとかダメダメですよ!」

「すまない。恋がダメならせめて笑いをと思って」

「その精神がモテないゆえんですよ。笑いをとるよりも私にキュンキュンさせる方法を考えてください」


 難易度高すぎの注文はやめてほしい。そんなのわかってたら、もうやってる。


「まず恵空はどうやったらキュンキュンするんだよ?」

「わかりません。だからカップルっぽいことをやって試してるんです」

「成程。でも現時点じゃカップルっぽいこと大半が無理じゃないか? なんかイメージだとお手々つないでキャッキャウフフするとかロボのままじゃ今みたいに無理があるしな」

「確かに。ではお食事デートはどうです?」

「お前食べないじゃん」

「そこは気分ということで。流石に店に入るのはどうかと思いますので、大学にお弁当を持って行って食べましょうか」

 確かに一緒に仲良く食べるのはカップルっぽいか。……『あ~ん』チャンスか?


「それはいいが、なぜ大学?」

「そこが近場で自然豊かで煩くないからですかね。あと公園だと子供いますし、苦手ですよね? 子ども」

「成程。なんで俺が子ども苦手なの知って……感情読めばわかるのか」

「はい。そういえば、あなたの苦手なものって他になんです?」

「他というか動物が苦手だな」

「あなた、なんで世間からの好感度の住所をマントルにしようとしてるんです?」

「そんな深く下がるもんなの? べつに全部が苦手ってわけじゃない」

「動物が苦手な理由はなんですか?」

「動物は臭いとか、うるさいのが無理。だから臭くなくて、うるさくないのなら苦手じゃないぞ。……世間からの好感度どうなった? 地上に出た?」

「マントルです」


 そうか。地上は遠いな。……よく考えたら苦手なもの言って好感度上げるのは無理がないか?

 そういえば恵空はなにが苦手なんだろう? これはぜひとも聞いておかないとな。


「なあ、恵空の苦手なものはなんなんだよ?」

「う~ん……独りぼっちとか怖がられることですかね?」

「そうなの? なんか意外だな。よし。俺が独りでできる暇つぶし億選を紹介してやろう」

「百ではなく!? 桁が違いすぎますよ。あと台詞チョイスを大間違いしてますよ」

「え? どこらへん? 数が多すぎた? 十選ぐらいがよかった?」


 なんでもできる恵空に教えられることがあったと思って舞い上がり過ぎたか?


「そこは『俺が独りにはしないぜ』とか言いましょうよ?」

「いや、独りの良さを知っている身からしたら、その台詞でてこないわ」

「もう。ダメダメですね。せっかくのチャンスを」

「悪かったよ。次のチャンスにはいい感じのこと言うから。てか怖がられることってなに?」

「私達ムラムラは知られている場所では畏怖の対象なんですよ。まあ、宇宙最強とか破壊神とかの異名がありますし、仕方ないことではあるんですが」

「ちょっと異名について教えてくれる? すごい気になる」


 特に破壊神のあたりが気になる。


「宇宙最強はシンプルに技術力が突出しているので、そう呼ばれていますね。破壊神は全自動料理マシーンの例にもれず、惑星を滅ぼす個体が多いからです。あ、私は滅ぼしたことありませんからね?」

「なんでそんなことになるの?」

「たぶん感情の問題です。私達は自分の家族が一番大事で、それ以外の同胞には仲間意識を持ちますが、それ以外には冷淡なんです」

「つまり、滅ぼした星には今言った仲間に入る存在がいなかったので滅ぼしたってこと?」

「ええ。正確には滅ぼしてもなにも思わないですが」

「やばい種族やんけ」


 あれ? じゃあ俺とかどうなるんだ? 仲間カウントだよな? 色々してくれるし、プロポーズもされているし。


「なあ、俺は今仲間カウントでいいんだよな?」

「当たり前です」

「この場合俺以外の地球人はどういった扱いになるんだ? 仲間じゃないよな?」

「ええ。ですが星を滅ぼすことは、まずしません。仲間の故郷ですからね」

「じゃあさ、俺の家族とかどうなるの?」

「家族に限らず地球人はあなたの望むように扱いますよ? そこらへんの生物と同じ扱いから準仲間まで色々です」


 今の言い方からして、恵空本人はなんとも思わないってことかな?


「今の言い方からして、家族付き合いとかの習慣はないのか?」

「ないですね。私達ムラムラからしたら、あまり理解できません」

「ほほう。それは面倒くさくなくていいな!」

「それはよかったです。価値観が違うと色々大変ですからね」

「そうだな。まあ、異名についてはわかった。だが俺は怖#ら__・__#らないぜ!」


 痛恨のミス! 決め台詞で噛んでしまった。


「お! いいですね。進歩を感じます。あとは噛まずに堂々と言うだけです」

「くっそ。なかなかの恥ずかしさだぞ」

「むっふー。さて、落ちもついたことですし、そろそろお昼にしましょうか。あなたも舌を噛むくらいにお腹が減ってるみたいですしね」

「腹が減って噛んだんじゃないよ。ところでさ、さっき噛んだとき、ベロ怪我したみたいだから治してくれない?」


 決め台詞失敗して負傷は恥ずかしいな。


「もう。しょうがないですね。まあ、頑張ってくれたのでいいです」

「すまんな」


 もっと格好良くなりたものだ。……これが見栄ってやつか?


 目的の大学の場所に着いた。辺りは木々に囲まれ、ぽつぽつとベンチがある。人通りは少ない。

 恵空は今いない。待ち合わせのやり取りをやりたいとのことなので、俺だけが先に来た。

 暇つぶしをしていたら恵空がやって来た。暇つぶしのバリエーションは億はあると思うので尽きることはない。


「ごっめ~ん。待った~?」

「そのくだり好きだな。待ってないよ。落ちる木の葉を数えていたらあっという間だったさ」

「待ってない理由が悲しすぎます! もっと普通の暇つぶしはなかったんですか?」

「まさか待ってない理由にいちゃもんつけられるとは思わなかった。いいことを教えてやろう。普通というが、友人がいないとサンプルがないので普通というものが分からなくなるんだ!!」


 というか友人がいるやつの方が一人での暇つぶし苦手なのでは? 参考にならないのでは?


「なんで悲しさをレイズしてくるんですか!?」

「わかったよ。そんなに言うなら、コールだ。友人がいないのにコールとか、誰にだよって感じだよな」

「結局悲しさをレイズ!」

「そんなことより飯くれない? 待ってる間に腹が空いてきてさ。胃袋の中が友人帳状態だ」

「空腹の比喩表現の哀れさに私のポーカーフェイスも崩れますよ!」


 ポーカーフェイスって。ロボに映像映してるだけなんだから、意図的に崩してるだろうに。


「最初から崩れてたぞ。いい加減飯くれない?」

「わかりました。はいこれ納豆巻き」

「嘘でしょ!?」

「嘘です。流石に納豆巻きは持ってきませんよ。食べられないのわかってるんですから」

「冗談がきついぞ」


 弁当を開けるとそこには敷き詰められた白米とピンク色の大きなハートマークがあった。……それのみだった。少なくない?


「……え? 弁当白米と桜でんぶ? いや確かにデザインはカップルっぽいけど」

「安心してください。そのピンク色の具材はムラムラの技術によりピンク色にされたキーマカレーです」

「なんでそんなことしたの?」

「あなたが言ったとおりカップルっぽいからと、あなたが驚きそうだからです。サプライズ的な?」

「驚きはしたけれども」


 こんなサプライズは止めてほしい。


「あ、出すの忘れてました。はい、好物の天麩羅です」


 そう言って恵空が後ろからもう一つ箱を取り出し開ける。そこには言ったとおりの天麩羅があった。サツマイモにレンコン、エンドウ豆などだった。


「ありがとう。でもべつに天麩羅は好物ではないからな? あとなんでこのラインナップ?」

「そうなんですか? そう言えば今までリクエストされたことありませんでしたね。あと選んだ理由はキーマカレーがメインなので、これらがお米があまりすすまないで食べれるからですね」

「成程」


 確かにあまりすすまないものばかりだ。というか俺は基本天麩羅で米は食べない。

 食べてみるとどの天麩羅も素材の味がして美味かった。あ、もちろんキーマカレーもうまかった。


「さっきは苦手なもの聞いたから、今度は好きなもの教えてくれ」

「あなたがおいしそうに食事している顔とか好きですよ?」

「ゲホッ!」


 いきなりのことに動揺してキーマが変なところに入った気がする。


「そういうんじゃなくてさ、俺でいうゲームとかさ。そんな感じの答えをくれ」

「今の答えはあざとすぎましたか?」

「……まあ。でもカップルっぽさでてたと思うな」

「そうですか。ならやはりあなたと同じでゲームや漫画ですかね。地球に注目した最初の理由がそれですし」

「え? 地球にゲームとかしにやって来たの?」

「違いますよ。伴侶を探す旅の途中でたまたま地球に来て、地球について調べていくうちにゲームとかにはまったんですよ」

「そうだったのか」

「ええ。ところで、あなたは他になにか好きなものあります?」


 ここでいくしかない! 恥ずかしい気持ちを投げ捨てるんだ! 俺は恥を捨てるぞ! 恵空ァァァ!


「最近だと恵空と話すのは楽しくて好きだぞ」


 言えた。噛まずに言えた。


「……今のは良かったですよ」


 恵空も喜んでるようでなにより。……喜んでるよな?


「どうだ? 俺もやればできるんだよ」

「ええ。本当に良かったですよ」

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