第16話 始末
俺は構えていた盾を軽くしリーゼン担当と紫パンツのゾンビ二人を巻き込むように投げつけ、すぐさま能力を解除。
自分に能力を発動し、壁に肘打ちをして反動でリーゼンの方向へ飛んでいく。
リーゼンに能力を発動し、シェル先生の方へ放り投げる。
「なんで!?」
残りの俺担当が驚いている隙に塩をぶっかけ、盾と同じように能力で軽くして残りのゾンビ達のところへ投げる。そして能力解除。
「きゃあああ」
――昇天してないんだけど? とりあえず塩を荒波のしぶきのごとくまき散らしてみる。
「「「いやあああ」」」
効いてはいるな。
拘束するため懐から忍具を取り出す。タコの足をモチーフにした鉤縄だ。吸盤がフックの内側になるようについている。吸盤には吸着の能力があるので、物に引っ付くのは勿論、敵の拘束にも使えるのだ。あと、触手っぽいので俺のお気に入りの忍具だ。
さあ、喰らえ! VRで練習して恵空に引かれたこの妙技を!
「忍法・
「「「いやあああ」」」
タコ足がうねうね動き三人を拘束する。三人は縛られ動けなくなる。タコの足から出るぬめぬめが肌をテカらして非常に艶めかしい。あと拘束のせいで全員パンツ見えてる。
さて、拘束できたのでなぜ塩が効かないのか確かめないと。
『恵空。塩をゾンビに振りかけても昇天しないんだけど』
『もしかしてそれ話したりしません? 普通の人間みたいに』
『ああ。話せるぞ』
『では完全に幽霊が肉体に馴染んだ状態ですね。それなら外から塩をかけるだけではなかなか昇天しません。塩漬けのようにするか体内に塩を大量に流し込むかすれば倒せますよ』
『わかった。ありがとう』
『あ、ポルターガイストに気を付けて下さい。物を操るので投擲は控えるようにしてくださいね』
『この話すゾンビ全員がポルターガイスト使えるってことか?』
『そうです。一応ですがテレパシーも使えますよ』
『ありがとう』
『いえいえ、気を付けて下さいね』
『そっちもな。そういえばパープル、ピンク、ライトブルー、これがなにかわかるか?』
『……すみません。わかりません。なにかの暗号ですか?』
『いいや、今俺が見ているパンツの色さ』
『なにがあったんです!?』
『詳しくはあとでな』
ゾンビナースの対処法がわかったところで尋問タイムだ。
「ぐふふ。さあこれからは楽しい尋問タイムだ。まずお前たちの目的はなんだ?」
「な、なんで貴方眠ってないの?」
「おっと無駄だ。お前たちがテレパシーが使えることは知っている。こちらの情報は渡さん。そして、こちらの質問に答えなかったので罰を与える」
そう言って三人の中で一番おびえていたピンクパンツに塩をかける。
これで素直に言うことを聞いてくれるといいんだが。
「いやあああ」
「優しい俺がもう一度聞いてあげよう。お前たちの目的は?」
「……研究所がハッキングを受けたみたいだから調べに来たのよ」
「ということはお前たちは研究所の人間なのか?」
「そうよ」
「なぜ研究所がゾンビまみれになっている?」
「それはお嬢が友達を増やしたいらしくて」
意味わかんないんだけど?
その後詳しく聞いた話をまとめるとこうだ。
まず院長の娘が死んだ。悲しんだ院長は娘を生き返らせるため、新たな肉体を用意し、そこに院長の娘の魂を呼び込んだ。この院長の娘がお嬢というらしい。そして魂を呼び込む際にあの世でお嬢と仲の良かった霊の友達などもついてきてしまった。なのでその友達に新たな肉体を用意するため研究所の人間を襲った。俺たちが今まで倒したゾンビはお嬢に着いてきてしまったが、お嬢の友達ではないので捨て置かれたやつら。これが病院の研究所がゾンビまみれになった理由らしい。
なんだか色々ツッコミどころがあるな。
「もっと穏やかに密かにできなかったの?」
「無理よ。霊はこの世界だと長い間自我を保っていられないもの」
「それが死人の中に入れば保ってられるのか?」
「だいたいね。最初は自我の無い物語にでてくるようなゾンビみたいになっちゃうけど、だんだん霊の自我がでてきて私達みたいになるわ」
「ふーん。それで、院長やお友達ゾンビ達は全員地下にいるのか?」
「……ええ」
研究所の地下。そこに院長が、俺たちを殺そうとした奴がいる。そこには所長室のエレベーターでしか行くことができなくなっている。
「思うんだが、俺たちは院長に殺される予定だったんだろう? なら俺たちを殺す予定だったやつらもゾンビになってるのか?」
「ええ。そうよ」
「なんでそんなことを? 俺たちを殺してからの方がいいだろうに」
「お嬢は貴方達のことを知らなかったのよ。もちろん私達もね」
「じゃあ、誰が知ってたんだ? いや、知ってて今も生きてるやつは?」
「院長のみよ。というより地下には院長しか生きてる人間はいないわ」
「成程。ちょっと待ってろ」
途中から眠りから覚めてこちらに来ていたリーゼンとシェル先生に向き直る。
「どうする? 始末するのは院長だけにするか? それともゾンビども全部始末するか?」
このナースゾンビどもがこちらに攻撃してこなければ、院長のみ一択だったんだが。
「ん? んーまー、そうだな。院長だけでいいんじゃないか」
「私もゾンビ達とは敵対する気はないね。院長は別だが」
俺達、特にリーゼンを殺そうとした院長はシェル先生にとっても敵らしい。
リーゼン達と意思の確認を終えたので、改めて三人組の方に向き直る。
「そういうことだ。院長にここにくるように言え」
「わかったわ」
そう言って紫パンツはテレパシーを始める。少し経つと紫パンツの顔が曇った。
「あの、拒否されました」
なんか話し方丁寧になってる。あと、半泣きになってる。可愛い。
「は? だったら皆殺しになるが?」
「いえ、あの、地下に行くエレベーターは外部端末がないと動かないので皆殺しは無理だと思います。お嬢が言ってました。あ、もちろん私達は外部端末持ってません」
「ほう。そりゃまた舐め腐った態度だな。というかお前たち捨て駒にされたの?」
「そうみたいです」
ついつい可哀想なものを見る目で見つめてしまう。ま、友達なんてこんなもんか。
「だがよ、実際どうする? エレベーターが動かねえんじゃ行きようがないしよ」
「まあ、突入は無理だな」
「では諦めるしかないか」
「待ってくれ先生。俺達はここの院長に命狙われてんだ。このままおめおめ引き下がるなんざできねえ。なんかしら報復をしねえと舐められちまう」
「ちょっといいか? 二人とも勘違いしているみたいだけど、俺が言ってるのは諦めるってことじゃなくて#ここから皆殺しにしようぜ__・__#ってことだ」
「……んなこと、どうやんだよ?」
「まずここ以外出口はない。敵は袋の鼠だ」
「そうだな」
「そしてここは最上階だから敵は俺たちの下にいる」
「そうだな」
「なら答えは一つだ。ここでエレベーターを爆破して、さらに下に爆弾を投げ込み地下研究所の方の扉を破壊。そのあと、大量の塩とズルズルを流し込んでズルズルがある程度の高さになったら止める。そのあと重いものでエレベーターを封鎖。どうだ?」
こうすれば少なくとも院長は始末できるはずだ。地下の研究所次第では直接殺せないかもしれないが、出てくる手段は断てるのでいずれ餓死するだろう。もしくは窒息死。
「はあああああああ!?」
「「「「ええええええええ!?」」」」
驚きの声が聞こえる。まあ、リーゼン達からしたら予想外だろう。
「実は俺、爆弾持ってるんだ」
消耗品なのであまり使いたくなかったんだが仕方ない。
「そこに驚いてんじゃねえよ! いや持ってるのは驚きなんだけども!」
「扉を破壊できるのはわかったが、ズルズルってなんだい?」
「オクラから出てくるズルズルだよ」
「いや、ズルズルがなにかはわかったけれど、塩やズルズルの量が明らかに足りないだろう?」
「大丈夫だ。俺がいくらでもだせる」
超能力関係で疲れたことないのでいけるはずだ。
「お前どうなってやがんだよ? てか本当にできんのかよ? 無理じゃねえか?」
なんか疑われてる? ここは凄いと尊敬されるところでは?
「てか、できたとしてもよくそんな発想が出てくんな? 普通エレベーター爆破すんなら、そのまま突入しないか?」
「なんで?」
「いやさっき殺すのは院長のみって話だったじゃねえか?」
「それはゾンビどもが敵対しなければの話だ。ゾンビ達は院長側に着いたんだから皆殺しだ」
まあ、本当は死んでも死ななくてもどっちでもいいんだが。
「ね、ねえ私達はどうなるの!? 私達は見捨てられたのよ!?」
「ん、そういやいたな。まあ敵対しないなら殺さなくていいだろう」
「じゃあよ、下にいる中にも敵対したくないゾンビいるんじゃねえか?」
「そうだな。だがそれがどうした?」
「え?」
「殺してなにか不都合があるか?」
ゾンビだし、今までの話を聞くに復讐にくる関係者もいないだろう。
「……」
「第一、その敵対したくないゾンビは研究所の人間を殺して体を手に入れてる存在だってことを忘れるなよ?」
リーゼンはなにも答えない。こう言われては殺すのに反対しにくいだろう。
「……えっと、そうだ、直接ぶん殴った方がスカッとしないか?」
お、説得の切り口を変えてきたな。だが残念。
「相手が見えない方が、どれだけ苦しんで死んだか想像する余地があるから遠くから、一方的に攻撃する方が好みだ。あれだよ、パンモロよりスカートのたなびきでパンツ見えない方が興奮するときあるだろ? あんな感じだ」
「そ、そうか」
「ふむ。話についていけない」
シェル先生にはこの感覚がわからないらしい。残念。
「俺よりいい案がないなら実行するけど? なに、皆殺しと思うから心にしこりができるなら成仏させてやると思えばいいんじゃないか?」
自分のいいように捉えればいいのだ。動物をぶっ殺しておいて、感謝をもって美味しく食べるのが供養だとか言うし。食材を無駄にしないまでなら理解できるんだが、感謝は理解できないんだよな。
「……そうだな。それで頼む」
リーゼンが納得した。ナースゾンビどもを引きずり、エレベーターに爆弾が届く距離まで近づく。
では爆破開始だ。見せてやろう。俺の剛速球を。
「死ねえええ!!」
「成仏させるって思えばいいって言ってた割には殺意高すぎねえか!?」
だがここでナースたちが動き出した。三人のうち誰かがポルターガイストを発動し、俺の投げた球を止める。念のため爆弾じゃなくて天麩羅粉の包みを投げていて良かった。裏切者がでないか試すため、一旦偽物を投げていたのだ。
そこまでは予想できていたのだが、ピンクパンツが予想外の動きを見せる。なんと隠し持っていた銃を取り出し、後ろ手に縛られているというのに器用に発砲した。発砲は二発。二発目の音が聞こえたと思ったら、ピンクパンツの腹に銃弾が当たっていた。
どうなっているのかよくわからないが、とりあえずナース達をお互い引き離し、ピンクパンツから銃を取り、全員荷物検査をし、塩を振りかけながら確認する。
「リーゼン! 傷は!?」
「大丈夫だ。かすり傷だ」
「腹に一発いいの入ってるけど!?」
なんとリーゼンが腹を一発撃たれていた。どうやら立ち位置的にシェル先生をかばったのかな?
「そんなことより先生、無事か?」
「ああ、リーゼン君がかばってくれたおかげでね」
やっぱりかばったんだ。なかなか男前だな、リーゼン。
しかしピンクパンツはなんで撃たれてたんだ?
「ところで、ピンクパンツに銃弾あたってたのはなんでだ?」
疑問にはリーゼンが答えてくれた。
「ゾンビの呼称ひでえな。俺の能力だよ。俺はリーゼントからでも物を出し入れできんだ。だから銃弾の一発をリーゼントで収納して、あのゾンビに当たるように出したんだ」
そういえば、研究所でもリーゼントに手を突っ込んでメリケンサック出してたな。
「成程な。シェル先生。リーゼン助かります?」
「もちろんだ。なにしろ私の超能力は治癒だからね」
「シェル先生超能力者だったんだ」
そういやリーゼンに怪我した時ときに世話になる的なことを言われてたな。こういう意味か。
「ああ、だからこっちは任せてくれたまえ」
そう言われたのでいい感じの雰囲気になっている二人を残し、ナース達の尋問をする。
「さて、じゃあポルターガイストでエレベーター爆破を阻止しようとしたのは誰だ?」
取りあえず殺すことが確定しているピンクパンツの腹の傷口に、塩を振りかけつつ他の二人の尋ねる。
「ぎいいい………」
尋ねたのだが、ピンクが煩くして聞き取りずらかったので口を塞ぐことにした。タコ足をピンクパンツの口に突っ込む。
「わ、私じゃないわ。ポルターガイストは対象を認識していないと発動しないわ。貴方の方を向いてた私が発動できるわけないじゃない」
紫パンツが答える。まあ、反応からしてそうだと思った。三人のナースゾンビの中で唯一驚いた顔してたし。
すると今度はライトブルーパンツが言う。
「私でもないわよ!」
「嘘つくな」
「な、なんで私のときだけ疑うのよ?」
「そうじゃなくて、俺は最初から爆破の妨害してくるやつがいると思ってお前たちを見てたんだ。あのとき、爆弾に目が行っていたのはお前だけだ」
もっとも、それに気を取られてピンクパンツへ対応を失敗してしまったが。
「ということでお前も殺す。あ、成仏させる」
「言い方変えても同じじゃない! 待って、私は爆弾を止めただけで貴方の仲間を傷つけてないでしょう? 見逃してよ」
「べつにリーゼンを傷つけたから報復のために殺すんじゃない。一度負けているにもかかわらず明確な敵対の意思を示したんでな。俺の安心のために殺すことにした。違った。成仏させる」
「待ってお嬢の指示なの! あんたらを『足止めしろ。追加の人員を送るから』って言われたの」
そう言われてエレベーターを確認する。変化なしだ。
「……来てないけど?」
「そうよ。見捨てられたのよ! だからもう貴方達とは敵対しない。許して」
「そうか。なら成仏してもらおう」
今度は間違えずに一発で言えた。いつの間に成仏していたピンクパンツからライトブルーパンツに塩の標的を変える。念のために言っておくがパンツ自体に塩を振りかけているわけではない。
「いやあ! なんで」
「いや普通に信じられないからだけど? それにここでお前を殺しておいた方が紫パンツへの見せしめになるしな」
ライトブルーパンツが苦しみながら成仏していく。ものは試しにシェル先生から御神籤をもらい、ひっぱたいてみるが塩の方が効きがいい。しょうがないので塩でいくか……やはり外から塩をかけるだけだと時間がかかるな。だが、紫パンツのこちらを見る目は怯えているので良しとするか。
さて、あとは院長どもをまとめて始末するのみ。
「な、なあ本当にズルズルで地下を埋めるなんてできんのか? とてもじゃねえが出せる量じゃねえと思うんだが」
傷の治ったリーゼンが聞いてくる。
しかしこんな短時間で治るのか。凄いな、シェル先生。
「できるって。それにこの方法以外でここから院長殺す手は思いつかないだろう? なに、べつにできなくても、そのときは重い物をエレベーターの穴にぶん投げるだけでも嫌がらせには十分なるだろう。そうすれば少なくとも報復はした証になる」
「……そうだな」
では抹殺開始だ。
卵をモチーフにした爆弾を懐から取り出しエレベーターに投げて、爆破する。
続いてできた穴に爆弾を投下。爆発音がする。これで地下のエレベーターの扉が壊れただろう。
ピンクパンツを下に投げ込む。
そしてソルトミルとオクラ苦無を取り出し、全力で発動。反動軽減のため物を軽くする能力を使う。
「やっべえ。滝みたいにズルズルが流れ出てやがる」
「塩の方も物凄い量だね。将来、塩の大墳墓と言われたりするのでは、と思わされる量だよ」
「あの人なんであれで倒れないの? 精神がイカれてるのかしら?」
リーゼン達が後ろでいちゃつくまま時間が経過してオクラのズルズルがここから見えるまでになる。ズルズルの量はこんなもんでいいか。あと紫パンツはあとで報復する。
念のため、塩を追加しつつ仕上げにライトブルーパンツを投げ込む。……よし。ライトブルーパンツが浮かんでいる。これで地下研究所のエレベーターの扉に穴がきちんと開いているだろうと思える。穴が開いてなければピンクパンツも浮かんでくるはずだしな。
「じゃ、帰るか」
「お、おう。本当にやりやがった」
「こんなことがあり得るとは」
「あの、人間なのよね?」
なんか三人に驚かれている。俺の言葉を信じていなかったのだろう。紫パンツにいたっては人間かどうか確認してくる始末だ。マジで覚えとけよ?
紫パンツはともかく、二人に信じられていなかったことにショックを受けてる。結構二人の事気に入ってたんだな。
でもまあ、こんなもんだよな。
正しいのに理解されないというのはよくあることだ。
ああ、早く帰りたい。
「ね、ねえ、私はどうなるの?」
そういや紫パンツをどうするか忘れてた。
「では取りあえず私のところに来るかい? 病院もなくなってしまって新しい診療場所を探さないといけないからちょうどいい。助手がいてくれるとありがたい」
正確にはまだなくなってないが、もう研究所では闇医者できないだろう。
「お、お願いします」
あ、最悪だ。気分落ち込んだら嫌なことに気づいた。
「嫌なことに気づいた。このまま帰るのはまずい」
「どうした?」
「これ救助が来たら、院長餓死せず助かるかも知れないよな」
「まあ、安全が確保された所に閉じこもってたら、その可能性はあるな」
「そういうことだ。なので救助を大変にする」
「どうやってだよ?」
「この研究所を水?浸しにする」
「お前水責め好きだな。てか、まだズルズル出せんのか?」
「天麩羅君、本当に大丈夫なのかい? その、体調に本当に異変はないかい? 無理しない方がいいんじゃないかい?」
「正気なの?」
「べつに水責めが好きなわけじゃない。油まみれにして放火も出来るが、それをしたらご近所に迷惑になるだろう? 俺は気遣いの人だからな」
「「「水責めに賛成!」」」
三人とも賛成してくれた。賛同を得られるのはいい気分だな。ボッチなので味わったことがない気分だ。
「じゃあ三人は持っていくものとかをまとめておいてくれ。俺はエレベーターの穴を重たいもので埋め立ててくる。集合は屋上前な」
「「「分かった(わ)」」」
三人が荷物をまとめている間、机やよく分からない電子機器などでエレベーターから上ってこれないようにする。三人が来るまでこれでもかというほど埋め立てる。
クラゲ機械に一階にある入り口にロックをかけてもらうことも忘れない。この研究所は出入り口がその一階部分と屋上の二つのみなので、水漏れなどを気にするのはその入り口だけでいい。
三人が戻ってきたところで、屋上の扉を開けて、水責め開始だ。
「早く帰りたいから全力でいく」
取り出す忍具はタコ足鉤縄、オクラ苦無、ソルトミル、天つゆ、油、の五つ。天つゆと油は小さいボトルだ。タコ足鉤縄をもち、その足で他の四つを持つ。こうすることですべて同時に発動しやすくなる。
塩、ズルズル、天つゆ、油がさきほどよりも早く放出される。早く帰りたい一心でかなり強化されているみたいだ。
「信じらんねえ。マジかよ」
「「……」」
リーゼンはなんとか声が出たみたいだが、女子二人は驚きで声が出ないみたいだ。ようやく全てを沈めたころにはもう日が見えそうになっていた。
「ふう。やっと終わった。さあ、帰ろう」
「……ああ」
「……うん」
「……ええ」
脱出するため、屋上から四人そろって飛び降りようとする。俺の能力があれば簡単だ。逆に俺の能力がないと無理だ。なのでさっきの報復で紫パンツにちょっとした意地悪をすることにした。
「じゃあ、飛び降りるから皆俺に捕まってくれ。……捕まったな?ところで紫パンツ、お前確か俺に正気かって聞いたよな?」
「え゛?」
「安心しろ。おれは しょうきに もどった!」
「いやあああ! 裏切らないでえええ! ここで裏切られたら死ぬう!」
「見せてやるよ。これがジャンプだ!」
「いやあああ!!」
紫パンツが涙を流している。念のため言っておくが、紫パンツを履いたゾンビが涙を流しているということであって、紫パンツが濡れている比喩表現ではない。
無事着地。紫パンツがほっとしている。
ようやく解散だ。
「じゃあ、そういうことで。またな」
「「また」」
「……はい」
なんか紫パンツだけ不満そうだったが、まあいい。
早く帰りたい。
『恵空。こっちは終わったぞ。そっちはどうだ?』
『もう全部済んでそちらに向かってますよ。それでどうでした?』
『シェル先生は無事だ。病院の研究所関係者はたぶん全員死んだ』
『ちょっと詳しい話聞かせてもらえます!?』
俺は恵空にこれまでの説明をする。リーゼン達はすぐに俺の言葉を信じてくれなかったが、恵空は信じてくれるよな?
『ほっほう。ズルズル攻めはなかなか考えましたね』
『――そうだろ!? 一番安全で効果がありそうでかなりいい感じだろう? しかも近隣に気を遣って油を使って放火せずにズルズルにしたんだぞ? 超優しいよな?』
ああ、よかった。
『ええ。入手したデータだけで判断したようなので、データにも載せていない隠し脱出路の懸念がありますが、三人だけでは確認しきれないでしょうからね。それに、それは突入した場合でも逃げられてしまうと言えますし。いい案だったと思いますよ?』
本当によかった。恵空は素直に受け入れてくれた。『そんなことできたんですか?』なんて聞かない。
『そうだよな』
『喜んでますね』
『お前遠くから感情読めるの?』
『読めませんけど、分かりますよ』
『――そうか』
なんでわかるのだろうか? 俺は恵空のことはよくわからないのに。
『そういえば今日は喉を酷使したのにイワしてませんね?』
『そうだな。最近は恵空とよく話してたからかな。鍛えられたのかもしれない』
『むっふー。ではこれからもお話ししましょうね』
もっと話をすれば俺もわかるようになるかな。
『ああ。でも喉は酷使したから飴もらっておこうかな』
『なに味にします?』
『エクトプラズマ・ギャラクティカで』
信じられないのはつらいからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。