第15話 尖兵

 クラゲ機械にハッキングして開けてもらう。中に突入するとそこには

「リーゼン君! それに天麩羅君も! 助けに来てくれたのかい!?」

 シェル先生がいた。やはり無事のようだ。


「先生! 無事だったか! よかった! 一体なにがあったんだ!?」

「わからない。外に出たらゾンビのような者たちがいたので急いでこの部屋に避難していたんだ」


 そういえば恵空がいないと嘘ついてるかわからない。まあでも確認することはある。これを確認するのは、疑うと言った俺の役目だろう。


「ところでシェル先生、なんで無事だったんですか? ?」


 この部屋の周辺のみ扉が開けられていなかったのだ。いくらなんでもおかしい。


「なに!? そうなのかい? しかしここが襲撃されされなかった理由に心あたりはない……いや、まさか?」

「なにか心あたりが?」

「まさかとは思うが、今日の昼、神社にいったから、かな?」

「え? それだけで?」

「いや、天麩羅よ。塩が効くんだから神社の御利益的なのはあんじゃねえか?」

「そうか?」


 とりあえず恵空に確認してみる。


『恵空。神社に行ったからゾンビ近寄らないってある?』

『確実ではありませんが、ありえますよ。御神籤とか持っていたら、小さいですが効果ありです』

『そうか。ありがとう』


 これでほぼ確定かな。シェル先生は今おそらく御神籤を持ってる。なぜなら俺がそうアドバイスしたから。


「それじゃ、これからどうする? 俺は院長のところいくけど?」

「俺もいくぜ。院長には落とし前つけさねえとな」

「では私も連れていってくれ。状況はよく分からないが、君たちと一緒が一番安全そうだ。ところで君たちは外のゾンビをもしかして塩で倒したのかい?」

「ああ。まあ俺たちじゃなくて天麩羅が、だがな。今度から塩持っとくことにすんぜ」


 シェル先生の質問にリーゼンが答える。いい質問するな。たった今まで閉じこもるしかなかったにしては冷静なことだ。さて、せっかくいい質問したのだからフォローするか。焚き付けたのは俺だしな。


「そうだ。塩はこれしかないから俺が持つしかないが、シェル先生お守りとかいくつか買ってない? できればリーゼンに分けてやってほしいんだけど」

「おい、天麩羅。先生を危険にさらすぐらいなら俺はお守りなんてなくて大丈夫だぜ!」


 リーゼンが男気を発揮している。さあ、シェル先生、チャンスだぞ?


「いや、リーゼン君、お守りは持ってないが君に。さあ、籤を引いてくれたまえ!」


 そういってシェル先生は白衣をはだける。その内側にはポケットがついており、その中に籤がいくつも入っているのが見える。それをリーゼンに引けと言っている。


「え?で、でもよ……」


 目の前にあるシェル先生の水着姿にドギマギするリーゼン。もっと喜ぶかと思ったが意外と初心な反応をする。しかし、ここでこれだと#最後は大丈夫か__・__#?


「さあ、早く引いてくれたまえ! この格好は……少し恥ずかしいよ」


 まあ、傍から見たらガスマスク付けたストリーキングだしな。


「じゃ、じゃあ引かせてもらうぜ! 先生!」

「ん」


 そこに手を突っ込むリーゼン。しかしここで計算外のことが起こる。リーゼンのリーゼントがシェル先生に当たってしまった。不意に髪の毛に体を這いずり回られ、シェル先生から艶めかしい声が漏れる。


「す、すまねえ先生」

「いや、大丈夫だよ。気にしないでくれ」


 こいつらめっちゃラブコメしてんな。信じられるか? 外にはたぶんまだゾンビいるんだぜ? あとシェル先生、せっかくの赤面チャンスなのにガスマスクで見えないよ。いや、耳が赤くなってる。これはリーゼンが耳フェチなら高ポイントだ! いや、注目すべきはそこではない。恥ずかしそうに白衣の外を手で握っている! これはいいぞ!

 そしてリーゼンは動揺から引いた御神籤を綺麗に開けない。早く開けよ。


「げっ、凶だ」

「知っているかね?御神籤は凶だと紐に結ぶといいらしいよ」

「って言っても紐なんて……」

「ではここに結びたまえ」


 そう言ってシェル先生が自分の谷間にある紐を指す。いいぞ。教えた虎の巻(嘘)のとおりだ。しかし本当にやるとは。このままリーゼンが襲い掛かったらどうしよう。俺一人で行くしかないか?


「い、いいのかよ、先生?」

「ああ。御利益のためだ。さあ!!」


 女性の谷間に籤結んで得られるご利益とは?と思うが本人たちは真剣だ。てかこれで御利益あるなら、そこの神社行ってみたいから今度どこ行ったか教えてもらおう。

 リーゼンが籤を結ぶ。鼻息めっちゃ荒い。リーゼントもカッチカチだ。


「さあ、そろそろ行こう」


 二人の世界に入って見つめあっていたので声をかける。流石にもうそろそろ院長のところに行きたいからな。続きは二人でやってほしい。


「あ、ああ。そうだな」

「い、いこうか」


 最上階。所長室まであと少しという所で異変があった。


「待て」

「どうした天麩羅?」

「曲がり角の先、熱源がある。ゾンビだ。三体」

「銃とか持ってっかな?」

「んー……多分持ってないんじゃないかな。構え的に」

「まあ、一応盾構えて突っ込むか」

「そうだな。てかリーゼンは飛び道具持ってないの?」

「すまん。持ってねえ。今度から持っとくことにすんぜ」


 俺は飛び道具は持ってるが、銃には射程距離で負けてるんだよな。仕方ないが突っ込んでいくしかないみたいだ。三人組は扉の前に陣取っているので、避けて進むことはできない。


「いくぞ」

「おう」


 リーゼンから盾を貰い、能力を発動して自分たちを軽くしておいて、敵に突っ込む。もし敵が銃を持っていて撃ってきたときのことを考え、盾は軽くしていない。

 敵の姿が見える。


「んほー! ミニスカナースゾンビだ!」

「それ以外に言うことあるよな!?」


 なんと敵はミニスカナースゾンビだった。興奮していると、敵はこちらに手をかざしている。なにをしているのかと思った瞬間、体が横に吹き飛ぶ。


「ぶえっ」

「ぐっ」


 どうやらなにかをされて壁に叩きつけられたみたいだ。俺は右、リーゼンは左の壁に叩きつけられている。ちなみに『ぶえっ』が俺だ。

 俺たちが壁に張り付いて動けない間になにかがこちらに投げつけられる。なんだと思っていると噴射音が聞こえるとともに視界が曇る。ガスかな?

 ゴーグルをサーモグラフィーに切り替える。するとリーゼンの方から大きな音がする。そちらを見るとリーゼンが完全に横たわっている。ガスのせいだろうな。ゴーグルの端っこに睡眠誘発性の気体を感知ってでてるから合っているだろう。俺は忍者服というか覆面の機能で毒ガスは効かない。

 リーゼンの盾が倒れた音を聞いたからか、ナースたちがゆっくり近づいてくる。効いてることを確信しているみたいだ。せっかくなので、油断させるためにここで寝たふりをさせてもらおう。


「ふふ。侵入者が私達を弱らせる力を持ってるかもって聞いていたけれど、べつに大したことなかったわね」

「そうですね。ポルターガイストも普通に効きましたし、ガスで寝ちゃってますし」


 成程。さっきの俺たちを横に飛ばしたのがポルターガイストか。幽霊らしい能力だな。てかこれ予想できたな。塩っていう特効アイテム持ってるからって調子に乗ってた。少なくとも相手が殺意満々だとリーゼンは死んでた。

 気持ちを切り替えて、相手が油断して話してくれているので寝たふりを続行する。

 ナースがすぐ近くに来る。……これは、パンチラチャンス! ゴーグルをサーモグラフィーから高解像度モードへ切り替える。気づけばガスは消えており、視界は良好だ。危険があることとパンチラへの期待のせいで心拍数が激上がりだ。どこぞの名人でも裸足で逃げ出すくらい連続で拍動が感じられる。震えるぜハート! でも念のため用意しとくぜソルト!

 三人は一人を中心の前面にして、他の二人はそれぞれ俺とリーゼンの頭の先というポジションだ。そして俺はリーゼンの方を向いて倒れている。なので見えそうなのは一人。真ん中のゾンビのみ! 俺は万引き犯を見つめるGメンのように真ん中のゾンビを見つめる。……見えた! 確かに見えたぞおおお! 紫だ! ゴーグルを録画モードにして撮影を開始! 撮った撮った撮った!!

 そんな風に幸せを噛みしめていると紫さんが俺たちが来た方向に話しかける。


「ドクターシェル。いるんでしょう? 出てきなさいよ」


 やっべ。シェル先生のこと忘れてた。

 シェル先生は素直に言われたまま出てきてしまった。


「私のことを知っていたのかい?」

「ええ。院長から聞いてるわ。場所から考えるに私達が近づけない部屋の主が貴女だってね。だからいると思ったわ。貴女どうやって私達が近づけないようにしたの?」

「それは御神籤だよ。大量に仕入れておいたのさ。偶然ね」

「なんだって御神籤大量に仕入れているのよ!!」

「いや、だって、それは……」

「今照れるとこなんてなかったわよね!?」


 やめたげてよー。好きな男に自分のビキニの紐に結んでもらうために御神籤大量に仕入れました、なんて言えないよー。この紫パンツ、知らないとはいえなんて残酷なことを平然とやってのけるんだ。


「……まあいいわ。とりあえず今持ってる御神籤全部捨てなさい。断れば貴女の仲間の二人がどうなるか分かるわよね?」

「分かった」


 そう言って、シェル先生はどんどん御神籤を捨てていく。どんどん捨てていく。どんどん。


「どれだけ持ってるの!? 貴女、御神籤で千羽鶴でも作る気なの!?」

「ふっ。凶で作る千羽鶴、か」

「なんで凶オンリーなのよ! 吉とかいっぱいあるでしょう?」

「すまないが私が持っている御神籤は凶のみだ」

「一体どういうことなの!?」


 そうだね。大量の御神籤持ってるだけでも不思議なのに、凶しか持ってないとか摩訶不思議だよね。


「ちゃんとした恥ずかしい理由があるのだ」

「どっちなの!?」

「ちゃんとしてるが、恥ずかしい理由さ」

「さっきから思ってるんだけど、貴女、そんな恥ずかしい格好しておいてなにを今更そんなに恥じらうことがあるのよ?」

「え?」


 ああ。なんてごもっともな指摘をするんだ。それではシェル先生が自分の格好が恥ずかしいものだと理解してしまうじゃないか。


「わ、私のこの格好は恥ずかしいのかい? いや、確かに露出は多めかなと思うがね?」


 ほらー。気づいちゃったじゃん。紫パンツ余計なこと言うなよ。


「控えめに言って痴女だと思うけど?」

「ば、ばかな。モテそうに見えないかい?」

「……変態からはモテそう」

「そ、そんな」


 リーゼン可哀想に。寝ている間に変態扱いされとる。い、いかん。今笑ったら寝ているふりがばれてしまう。冷静になるのだ。リーゼンがピンチなのは本当なんだから。そうだ、リーゼンを見て真剣になろう。紫パンツとのお別れは寂しいがリーゼンの命には代えられん。仲間のために自らの大切なものを犠牲にする。今俺最高に主人公してない?


「というか、さっきから律儀に御神籤捨ててるけど、もう白衣全部脱ぎなさいよ! そっちの方が手取り早いでしょう」

「確かに。わかった」


 とうとうシェル先生が白衣を脱いだ。リーゼン起きろ! いいところだぞ。


「胸の御神籤も取りなさいよ! 言わなくてもわかるでしょう! ていうかなんで胸に御神籤してるの!?」

「こ、これだけは勘弁してくれないかい? リーゼン君に結んでもらったものなんだ!」

「……リーゼンってこっちのリーゼントのことよね? 貴女達この非常時にどんなプレイを楽しんでるのよ!? 勘弁するわけないでしょう!」


 リーゼンすまない。どんどんお前の評価が変態になってしまっている。くっ、耐えろ俺の腹筋! 今は笑ってはダメなときなんだ。葬式よりも笑ってはダメな場面だ。くそっ。どうしたらこんな大事な場面で寝ている風にできるんだ。政治家に弟子入りするか? 忍法・変わり身とか忍法・雲隠れは習得できそうだが。


「そ、そこの天麩羅君に勧められたんだ」


 シェル先生、なんでそんなこと言うの!? 俺も変態だと思われるでしょう? 断固として抗議しますよ。


「この忍者、やっぱり変態だったのね」


 おいコラ紫パンツお前、やっぱりってなんだよ? 蔑んだ目で見るんじゃない! 興奮したらどうしてくれるんだ。しかも、他の二人も『うわー』って目で見てるし。

 まあ、でも三人全員こっち向いてくれてありがとうよ。

 リーゼンから注意がそれてくれて助かったよ。

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