第13話 トラブル

 後日、依頼の荷物を取りに来たんだが、後悔している。


「おい、遠すぎないか?」

「確かに遠いが、たまにあんぜ?」


 俺たちは東京から出て、山奥に来ていた。時間帯は深夜。唯一の灯りは荷物を受け取りに行く場所からのみ。あたりにはなにもない。聞こえるのはリーゼンのバイクのエンジン音のみだ。


 そして、ようやく目的の場所に着いたのだが、その場所が怪しすぎる。刑務所みたいに高い壁があり、その上には有刺鉄線らしきものが見える。しかも、黒服にグラサンをかけたガードマンらしきものもいる。


「おい、ここ物々しすぎないか?」

「これは確かに、あんまねえな」


 今現在、怪しげな黒服のグラサンをかけた門番のいる門を通り抜け、施設の入り口で待っている。ちなみにバイクは門のところで降りている。


 荷物を受け取るためにきたのだが、到着の連絡をいれてから表で十分近く待たされている。


 そろそろなんか連絡するか迷っているとようやく中から人が出てくる。防護服二人、ガードマン四人だ。防護服の二人が持っている台車に段ボールぐらいの大きさの銀色の箱が置いてある。どうやらあれが俺たちが運ぶ荷物らしい。……怪しすぎない?シェル先生の紹介だがあの先生が騙されてる可能性もあるな、こりゃ。少なくとも確認が必要だ。


「リーゼン、これお前運べる? ちょっと大きすぎない?」

「……ああ、そうだな。なあ、これちょっとデカすぎっから小分けにできねえか?」


 流石に怪しいと思ったのかリーゼンも話に乗って、防護服に話しかける。


 これでこいつらの選択肢の一つは、素直に小分けにしてくれる。これはほぼ間違いなく、ない。本当になんの裏もなくただ俺たちに依頼したなら、この大きさの荷物が出てくるわけない。リーゼンは影に収納する能力なので、確かにこの銀色の箱はギリギリだが運べる。しかし、リーゼンは大きくても旅行鞄に入るものまでしか運ばない。段ボールは取り出しにくいかららしいが。これはシェル先生もよく知っている。


 では、こいつらはどうするか?運べないなら仕方ないから帰ってくれというか、なんとか運べないかと交渉してくるか、正解は……

「いいから黙って運べ! 失敗したらどうなるか分かってるんだろうな? さっさとしろ!」

 高圧的に無理矢理命令してくる、でした。


 これなんか行き違いがあるよな。普通初対面の人間にこんな態度とらないと思うんだが。


 まあ、とりあえず小分けにするのを拒否されたままでは、荷物は運ばない。


 あとは、この件にシェル先生がどう関わってるか、だ。できればなにも知らなくてただ騙されてただけがいいな。リーゼンは先生に惚れてるから。まず間違いなく騙されてるんだろうけど。てか、これがシェル先生の仕込みなら色仕掛けの相談のくだりはなんだったんだよってなるしな。


 しかしこう高圧的な態度をとられるとイラっとくるはずなんだが、全然こないな。不思議だ。相手の余裕の無さが伝わってくるからかな? ここは冷静に対応することにして、帰るか。真相を確かめるならシェル先生に聞くのが一番だしな。幸いこっちには恵空がいるので尋問は簡単だ。


 リーゼンに『もう帰ろう』とアイコンタクトをとる。リーゼンが頷き、防護服に話しかける。


「なあ、これって貴重なもんなんだよな?」

「当たり前だろ!」

「そうだよな? 俺たちの仕事は、貴重なもんをここから運ぶことだ」

「だから早く運べって!」

「だがよ、俺たちが運ぶのはそれじゃねえんだ」

「はあ? 何を言ってるんだ? 今日ここにくるのはお前たちしかいないぞ」

「だが、俺たちはアタッシュケースくらいの大きさのもんまでしか運ばない。これは依頼者にしっかりと伝えている。なのに出されたのは段ボールくらいの荷物だ。これは明らかに伝達ミスがあったとしか思えねえよな? だからそちらさんのボスに確認してほしいんだ。貴重な物なんだろ? なんかミスがあったら大変じゃねえか?」

「……わかった。確かめてくるから、待っていてくれ」

「おう、よろしく」


 アイコンタクト、失敗! よく考えたらボッチがアイコンタクトは難易度高かったな。……いや違う。そもそも今俺ゴーグルしてて目が見えてないわ。どんな達人でもこれじゃアイコンタクトできないわ。


『なんでリーゼンのやつ荷物運ぼうとしてるんだ? さっさと帰ってシェル先生に直接聞けばいいだろうに』

『聞いて真実かどうか判断するために情報が欲しいのでは? リーゼンは私が嘘が分かるなんて知りませんし』

『あ、そうか。そういや言ってないな』


 リーゼンの頑張りによりなんとか話がついたようで、防護服が二人とも奥へ行った。


 しばらくたつと黒服たちに連絡がはいった。命令があったみたいだ。『了解』って言ってる。早くしてくれないかな。こっちはずっと待たされてるんだから。そう思ってると恵空に信じられないことを言われた。


『撃たれますよ』


 え?っと思った瞬間黒服たちが懐から銃を取り出し、俺たちに向かって発砲した。


 恵空が注意してくれたおかげで反応が間に合う。能力を発動させつつ、人生で初めて銃で撃たれたという衝撃に戸惑ってしまう。リーゼンを確認する。リーゼンも撃たれたのか俺に続いて吹っ飛んでくる。


 怪我を確かめてみたが、パッと見、俺もリーゼンも出血は無し。能力で俺とリーゼンを含めた六人と銃弾を軽くしたおかげだろう。弾丸が皮膚を貫く前に、体が吹っ飛べた。ちなみに恵空は最初から軽くしてあるので含めていない。銃を撃った反動で黒服たちは施設の奥へ吹っ飛び、反対に銃で撃たれた俺たちは施設の入り口の方へ飛ばされた形だ。


「リーゼン! 逃げるぞ!」

「おう!」


 リーゼンに声をかけ逃げだす。リーゼンも戸惑っているがすぐに反応して駆け出す。


 黒服どもが追いかけてこれないように、施設の床をオクラ苦無でズルズルにしながら走る。人生で初めて命の危機があったことにより本気を出せているのだろう。ズルズルの出が半端ない。今までを水鉄砲としたら、今は消火栓くらいの出だ。だがそれが失敗だった。


「あああああああああああ」


 体重軽くして、すごい勢いで放水?したもんだから、吹っ飛んでしまった。


『おお! すさまじい出力です。でも今は体張って笑いを取りに行く場面ではありませんよ? ぷーっくすくす』

『わざとやってるんじゃないよ! てか嘘でも心配してくんない!?』

『無事ってわかり切ってますから難しいですね』

『くっそおおお』


 よくも笑ってくれたな。覚えてろよ。いつか仕返ししてやる。


「大丈夫か天麩羅!?」


 リーゼンが追いついてきて心配してくれる。やさしさが目に染みる。……変だな。目からズルズルが。


「大丈夫だ。いつものことだ」

「お前さん普段どんなプレイしてんだよ!?」

「そんなことより急ぐぞ」


 なんだかリーゼンに誤解された気がするが、今は一刻も早く逃げないといけない。そうして走ってるうちに門が見えてくる。その前には黒服が銃を構えて待っているのが見える。


『やばいな。あいつらどうにかしないと、バイクのとこまで行けんぞ』

『また超能力で軽くすればいいのでは?』

『遠すぎて能力の範囲外だ』


『近寄ればいいじゃないですか? 言っときますけどその服超高性能ですからね? 普通に銃弾くらいへっちゃらですよ?』


 そのとき、普通の俺にしては珍しく最高に冴えてることを思いつく。


『分かった。#恵空の言葉、信じるぞ__・__#』


 俺は恵空の言葉を信じ、まっすぐに敵に突っ込んでいく!


「うおおおお。俺は恵空を信じる!!」

「ええええええ!?」


 !! 銃弾が恵空に当たるが確かに弾いている。


 そうとなればこっちのもの。俺は焦らず黒服に近寄り能力を発動させて、黒服を吹っ飛ばし、沈黙させていく。


『一体全体なにするんですか!?』

『共同作業だ』

『あんな酷い共同作業ありませんよ!! なんで私を盾にしたんですか!? その服なら銃弾くらっても平気って言いましたよね!?』

『ああ』

『ならなんで私を盾にしたんですか!? 私の言葉を信じるって言いましたよね!?』

『信じたから盾にしたんだ』

『どういうことです!?』

『今入ってるロボの装甲は核爆撃もへっちゃら、なんだよな?』

『え……』

『だったら銃撃を受けても平気だろう? だから盾にさせてもらったんだ。いやあ、流石は恵空。#無事なのがわかり切ってるから心配無用__・__#だったな!!』


 ひゃっはー! 仕返ししてやったぜ!


『ぬううわああああ!!』

『俺の命をあずけられるのはお前だけだ! 恵空!』

『そんなんじゃ誤魔化されませんよ!』


 めっちゃ怒ってる。まあ、盾にしたら怒るよな、普通。…ぐふふ。


「無事か、天麩羅? おい、抱き枕が大暴れしてんだけど!?」

「大丈夫だ。心配するな。いつも通りだ」

「お前さんのいつも通り怪奇すぎねえか!?」

「そんなことより早く行こうぜ?」

「お、おう。そうだな。先生が心配だ」


 そうして出発しようとバイクの方へ向かおうとすると、突然目の前に立体の地図が映しだされて、驚いて足が止まってしまう。


「どうした天麩羅?」

「ちょっと待ってくれ」

『今あなたのゴーグルに施設の地図を映し出しました』

『……なんでこんなのだせるの?』

『監視カメラからハッキングして施設を乗っ取りました』

『……いつから?』

『あなたが撃たれたときからですね。施設にいる人間の名前も入手しましたよ。私ってば有能!』

『それでなんで今それを言うの?』

『調べたところ、ここの所長と倉橋病院の研究所との通信記録がありましてね。所長なら詳しいこと知ってる可能性高いですよね? だから聞きにいった方がいいんじゃないかなーって思いまして』

『そ、そうなんだ。でも、わざわざ聞きにいかなくてもいいんじゃないかな?』

『そうですか? いつ黒服たちが追っかけてくるのか分からない状態ですよ? バイクに乗ってるときに追いつかれたら、リーゼンはまずいんじゃないですか? まあ、銃弾が効かないあなたは平気でしょうけど? それに報復はしておいたほうがいいと思いますよ。』


 確かに殺されそうになったから、報復をした方がいいか。だができるだけ楽にいきたい。


『……そうだ! 施設を掌握してるんだよな? じゃあ防犯シャッター的なのを下して連中を外に出られなくすることできないか?』

『全員は無理ですね。電気で制御されているところばかりじゃありませんから。それに黒服たちの居場所では特にそうです』

『そうか。じゃあ、リーゼンに聞いてみるわ』

『それが良いと思います』

「リーゼン。ここの所長がシェル先生とこの研究所と連絡をとってたみたいだ。危険かもしれないが、聞きに行くか?」

「なんでそんなことわかんだよ?」


 そういやどう説明するか考えてなかった。


『もう私の事バラすしかないのでは?』

『……そうだな。良い言い訳思いつかないし仕方ないか』


 それに意味もなく変なの連れてると思われるわけじゃないし。


「教えてもいいが他言するなよ?」

「ああ」

「私の能力です」

「……え? 抱き枕?」

「そうです。改めまして、私は恵空。抱き枕に扮している宇宙人です。特技はハッキング」


 べつに特技というほどではないらしいが、ここではそういうことにしてもらった。


「え? 宇宙人? どういうこと?」

「混乱するのも分かるが、とにかく恵空は生きていてハッキングができるってことだ。それで、所長に聞きに行くか?」

「……おう。行く」


 色々とツッコミたいことはあるだろうが、頑張って飲み込んだな。俺なら飲み込めないと思う。仕事仲間が宇宙人背負ってきてたなんて。


 次の行動が決まったので所長のもとへ向かう。


「はあああ。いいなあ」

「どうしたんだ?」


 恵空が突然ため息をついた。ちなみにリーゼンはそんな恵空を未だに不思議そうに見ている。当たり前か。


「だって、リーゼンさんは自分の思い人のために銃弾飛び交う危険な研究所に討ち入るんですよ? それに比べてどうです? 貴方は自分の身の安全のために私を盾にしましたよね? この差はどうですか! そりゃため息もつきたくなりますよおおおお!」


 思いを吐露しているうちに昂ったのか恵空が暴れ始める。


「天麩羅! 大丈夫か!? 恵空ちゃん、のたうち回ってっけど!?」

「大丈夫だ。心配するな。平常時だ」

「むしろ常日頃からこんな感じなら、そっちの方が心配なんだけどよ!?」


 リーゼンが心配してくる。とりあえず恵空を落ち着かせなければ。


「わかったわかった。今度埋め合わせするから。なにしてほしい?」

「……いいでしょう。してほしいことは考えておきます。楽しみにしていて下さい!」

「……おう。めっちゃ不安」


 道中に早まった約束をしてしまった気がするが今はどうしようもないので放っておこう。


 そうこうしているうちに先ほど銃で撃たれた入り口まで戻ってきた。辺りはすべてズルズルまみれになっている。

 しかもグラサン黒服どもがズルズルまみれでのたうち回っている。巻き込まれてからズルズルのせいでうまく移動できないのであろう。しかも、なんか数が増えてる。合計で八人の黒服がズルズルでもがいている。


「この先どう進むんだよ?」

「大丈夫だ。俺ならズルズルをものともせずに進める」

「待ってください。銃で撃たれるとやっかいですよ」


 確かにグラサン黒服は銃を持っている可能性が高い。ズルズルになっているので撃てるかどうかもわからないが対処はしておこう。


「確かにそうだな。ちょっと待っててくれ」


 そう言って懐から小さなボトルを取り出す。恵空に持たされていた油だ。苦無のズルズルのように俺次第でいくらでも油が出せる。それをグラサン黒服たちに撒いていく。


「おらあ! これで銃を撃ったら火だるまだからな」

「なんでそんなガラ悪いんですか?」

「いや普通撃たれたらガラ悪くなるだろう? よし、行こうぜ」


 リーゼンを持ち上げ華麗に跳ぶ。気分は正に忍者!


 ズルズルをものともせず、奥へと進んでいく。


 途中通り道にある部屋に寄って研究員やガードマンどもを制圧していく。といっても出会い頭に能力を発動するだけだが。銃を持ってないやつは放り投げればいいだけだ。


 さて、特にトラブルもなく所長室に着いた。


「一体なんなんだお前たちは!?」


 扉を開けると爺さんがいきなり質問してくる。コイツが所長だな。


「おい爺さん質問すんのはこっちだ。お前と取引してんのは倉橋病院の誰だ!?」

「ふざけるな! お前たちはなんのた―ゴボッ」


 ものすごい剣幕で聞いていたリーゼンだが、爺さんが素直に話さないと分かると、リーゼントの中に手を入れてから爺さんを殴る。その手にはいつの間にかメリケンサックが装着されていた。


 そのあとボコボコにされた爺さんは取引している相手の名前を吐いた。その相手は、シェル先生ではなかった。倉橋病院の院長だ。シェル先生についてはなにも知らないようなので、シェル先生が俺たちを害する気があった可能性は減った。恵空にも確認してもらって嘘をついてないことは確認済みだ。


 そしてなんで俺たちを殺そうとしたのかというと、勘違いだ。じつはここが荷物を発送するのはこれで三度目らしい。過去の二度は途中に襲撃にあい荷物は届かなかった。それをかなり倉橋病院側からねちっこく責められていた。そこに病院が手配した運び屋である俺たちがやってきた。そして俺たちが荷物にケチをつけたと部下から聞かされ端から運ぶ気がないと思い込み、攻撃の指示をだしたらしい。


 いくらなんでも思い込み激しすぎだろ。おかしくないか?


「いやいや、それでなんでいきなり攻撃することになるんだよ?」

「どうせ向こうで殺される予定だったんだから、依頼を失敗してもらった方がよかったんだ! あのクソ野郎に嫌味を言い返してやれるからな!」


 聞き捨てならない重要な情報がでてきた。


 どうやらこの研究所含め荷物などは違法な物らしくこの場所を無関係の人間に知られるのは非常に都合が悪いらしかった。なので予定では俺たちは病院に荷物を届けた後殺される予定だったみたいだ。


 これで倉橋病院側に俺たちに悪意のあるやつがいる可能性は確定だな。少なくとも院長は悪意あるの確定だから絶対許さない。そしてシェル先生は騙されて俺たちを紹介したのであろう。シェル先生のリーゼンへの好意が本当なのは恵空に確認したので、思い人を殺そうとするとは思えないからな。


 とりあえず依頼者の様子を探るために、依頼は先方が受け渡しを拒否したので遂行できないことを報告しようとするが、指定された連絡先に連絡しても誰もでない。


 なので今度はシェル先生にも連絡してみたが、でない。時間が時間だし出なくても当然とは思うが、リーゼンの顔が険しい。


「どうした?」

「なんか心配になってきたぜ。今まで先生はすぐに電話に出てくれたたんだ。それがよりによって病院側と全く連絡とれねえ時間に音信不通は偶然とは思えねえ」

「そうだな。じゃ、急いで向かうか」

「ああ」

「あ、じゃあ私はここで後始末しときますね」


 そういやこのまま放っておいたらまずいか。黒服のグラサンわんさかいたし。


「じゃあ頼むわ」

「はーい。あ、この機械連れていってください」


 そうして出されたのがいつものクラゲ機械だ。ハッキングが出来るので役立つだろうとのことだ。


 能力を使い体を軽くして、全速力でバイクのところまで戻る。バイクに乗るやいなや、リーゼンは全力でバイクを走らせる。やはりかなり急いでいるらしい。

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