第10話 運び屋
そんな風に恵空と楽しく過ごしていたら店主から連絡がきた。もうとっくに練習はできている。恵空が用意してくれた忍具の練習も万全。
『時間は翌日の昼。指定の場所に行ってくれ。そこで顔合わせと能力の確認をしたい。詳しい話はそこにいるもう一人の超能力に聞いてくれ。その人物のコードネームはリーゼンドリル』という内容だった。場所はあまり遠くないからいいが、組む相手がコードネームからいって不安だ。いや相手も『天麩羅忍者ってなんだよ』って思っているだろうけど。まあいい、さっそく恵空に報告する。
「仕事明日になった。顔合わせみたいだが」
「ほう! 決まりましたか。楽しみですね。そういえば一緒におでかけするのは初めてですね」
「おい待ってくれ。一緒におでかけってどういうことだ?」
まさかと思うけど、ついてくる気なの?
「お仕事にいくんでしょう? 危険かもしれないんですから、一緒に行くのは当然でしょう? 心配じゃないですか。それに暇ですし」
「いやいやいや! 顔合わせだし。それに、仕事に家から同伴者を連れてくるなんて聞いたことないわ! 第一ロボ連れていったら驚かれるわ!」
「えー!? 一人で行く気ですか!?」
「当たり前だ。心配ならいつもの機械使って遠くから見てればいいだろう?」
「それじゃあ危険に対応できないかもしれないじゃないですか!!」
「いや危険なことしてほしいって言ったのお前じゃん」
「恵空と呼んでください。せっかく、あなたがつけてくれたんですから。私は超能力を鍛えてほしいだけで危険な目にあってほしいわけじゃありませんからね?」
「だからって、連れていくのはなー」
「催眠で気づかれないようにするのは?」
「仕事相手を問答無用で催眠にかけるのは気が引けるから却下だ。あんま催眠使いたくないって言っただろう?」
べつに気づかれないようにするくらいだといいかな、とも思うが一度すると許容範囲が際限無く広がりそうなので却下だ。
「じゃあどうするんですか!? 言っときますけど一緒に行くことを譲る気はありませんよ! 連れてって連れてって連れてって」
そうダダをこねながら、その場でくるくると回っている。
「なにサインポールみたいに回りながらダダこねてんだよ」
「連れてって連れてって連れてって」
すると今度は自身はそのまま回りながら俺を中心に周る。
「太陽に対する地球みたいにダダこねてもだめ」
「連れてって連れてって連れてって」
今度は回転したまま横になり竹トンボの羽の様に回転し始める。
「机に押し付けて指で弾いたリップクリームみたいにごねてもだめ」
「連れてって連れてって連れてって」
今度は頭を下にいてそのまま回っている。
「ブレイクダンスみたいにしてもだめ、ってダダのこねかたのバリエーション多いな」
「いつまでもやりますからね。連れてって連れてって連れてって」
「てかそんなに暴れて中身大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。これの装甲は中に衝撃などを通さないことはもちろん、銃で撃たれるどころか原爆が直撃しようがへっちゃらな頑丈なものです。……あ、連れてって連れてって連れてって」
「防御力高すぎだろ。倒したらとんでもない経験値もらえそうだな。てか今ちょっと連れてってって言うの忘れてただろう?」
「連れてって連れてって連れてって」
「……わかったよ。連れてくよ。なんか案考えるよ」
ここまで強硬に一緒に行くことを主張するとは。このあと、真剣に考えたのだがいい案はでなかった。
当日。俺は恵空と一緒に目的の場所へ移動していた。
「一般人から気にされなくなるバッジ、あって本当に良かったわ」
「私でもこんなのお茶の子さいさいですからいらないと思いますよ?」
「こういうバッジが無いと会ったやつになんで俺が注目集めてないのか不思議がられるだろう?」
「そうですね。でも別に構わないのでは? どうせ引かれますし」
「あのなー。こんな格好になってるのは誰かさんが一緒に行くって強硬に主張したせいだってわかってるよな? 誰が原因かわかってるよな?」
「わかってますよ。でも、その自然に話しかけてる感じ、いいと思います。本物っぽいです」
なんでこんなことになったんだろう。
ついに到着してしまった。
そして誰が待ち合わせ相手かすぐに分かった。だって髪型がドリルみたいなリーゼントのやつがいるからな。絶対あいつだ。髪のセットにどのくらいの時間がかかるのか気になるほどのデカいリーゼント。
話しかけるために近づいていく。
どうやら向こうもこちらに気づいたようだ。不審な目でこちらを見ている。……よく見るとコイツ、イケメンじゃないか? 縦の線の入ったマフィアチックなスーツも似合っている。
「初めまして。リーゼンドリルさんですか? 恥を忍んで衣を纏う、天麩羅忍者です!」
「お、おう。よろしく? 天麩羅? それより、その……」
恵空と一緒に考えた前口上を言う。決まったな。これと『恥の多い格好ですが、嫁の数は一人です』と迷ったが忍者や天麩羅要素の有無が決まり手となった。
気になっているようなので紹介するか。少し体を沈ませる。そうするとリーゼンドリルは恵空と正対することになる。
「俺が背負っている抱き枕が恋人の恵空です」
「よろしくお願いしますね」
抱き枕に扮した恵空が挨拶をする。まあ、リーゼンドリルからしたら抱き枕から音が聞こえたからといって、抱き枕が話しているとは思わないだろう。
ちなみに抱き枕に描かれている恵空はよくある猫足立のファイティングポーズの拳を胸の方に曲げたようなポーズをしている。そして服装は俺に合わせてくノ一だ。露出は高め。全身をバニーガールが履いてるような網目の大きさの網タイツで包まれ、その上にスリングショットの水着を和風アレンジしたような服を着ている。
ドン引きされているのが分かる。そうだね。初対面の人が抱き枕を恋人ですって紹介してきたら引くよね。……なんでこんな案しかでなかったんだろう。
「…おう。よろしく」
リーゼンドリルはとりあえずツッコまないことにしたみたいだ。まあ、深くはツッコミずらいよな。ここはあまり触れないのが大人の対処法だ。よくわかってらっしゃる。戸惑ってるだけかもしんないけど。
「ちなみに恵空はオリキャラで抱き枕は自作です」
だがさらに攻める。すまんが慣れてくれ。
『この感情は、恐怖! この人あなたのこと恐れてますよ? やりましたね。これで馬鹿にされたりせずにすみますね。いやあ、流石私の名案!』
『そりゃまあ、ここで抱き枕とか馬鹿にしたらどうなるかわかんないからな。そして明らかに分かれた俺の印象の明暗!』
二人でひそかに堂々と話していると、リーゼンドリルが気を取り直して話しかけてくる。いいやつだな。それとも割り切ってるのかね。もしも俺みたいなのが結構いるから単純に慣れてるだったら嫌だが。
「お、おう。気合入ってんな。改めて俺はリーゼンドリル。今日はお前さんの能力の確認に来た。物を軽くすんのであってんよな?」
「ええ。リーゼンドリルさんは?」
「俺は収納だな。影とかに物を入れて持ち運べんだ。ただ俺が持てねえもんは影から出せねえから、運べねえ。そこんとこが今回お前さんと組むことになった理由だ」
「俺の能力で荷物が軽くなったらリーゼンドリルさんの運べる範囲が広がるってことですね?」
「おう。そんじゃあ、これから荷物出していくから、それを軽くしてってくれ」
「わかりました」
リーゼンドリルが影に手を突き刺した。それは地面にぶつからず影に沈んでいく。そして影から手を抜くと、その手には先ほどまではなかった小包が握られていた。同様にどんどん荷物を出していく。重いものだけでなく、軽いものも混ざっている。
俺はそれらをどんどん軽くしていく。
全ての荷物が軽くなると、リーゼンドリルは影に次々収納していく。そして最後の荷物であるアタッシュケースを影に#納めずに__・__#、影に手を入れてこちらに話しかけてくる。
「すんげえな。マジで軽くなってやがる。ちょっと試しに俺の影に最初に入れた小包と、このアタッシュケースを軽くすんの解除してくれっか?」
「はい」
指示通りに能力を停止する。そういえばこの状態から再び軽くできるのだろうか? 今度確かめてみよう。
「うん。最初の小包とアタッシュケースだけ解除されてやがんな。バッチシだぜ。そんじゃあ悪いがもう一回こいつら軽くしてくれ」
「はい。それで次はどうするんです?」
「次は俺が持てない物を軽くしてもらう。どんぐれえまで軽くできんのか確認する。ちょっと待っててくれ」
そういうとリーゼンドリルは影から空のアタッシュケースを出して広げる。そこに影から両手で出した小包を入れていく。置くときのゴトッという音からしてかなり重いのが分かる。バトル漫画ならこれを外したあとに超スピードで動けそうな重さだ。その小包らがケースいっぱいに敷き詰められた。これは確かに持てないだろうな。入れるだけでリーゼンドリルはかなり疲れているように見える。
「ふう。おっし。じゃあこれ軽くしてくれ」
「はい。ところで重そうな小包を軽くしてからケースに詰めた方が楽だったのでは?」
「え?」
『ショック受けてますね』
自分の失敗により、体力だけでなく精神まで削られたリーゼンドリル。心なしかリーゼントがへにゃっとなっているように見える。
「ま、まあ、一気に軽くすんのと中身を軽くしてから最後にもう一回軽くすんのだと軽さ違うかもしんないし? 全然失敗じゃねえし?」
「お、そうですね。じゃあ今は一気に軽くした状態だから持ってみて下さい。そのあと能力を解除して中身から軽くしていった場合も試してみましょう」
「おう。そうだな」
「まあ結果がどうあれ先に中身を軽くした方が楽だったのは変わらないんですけど」
『泣きたくなってますね』
リーゼントがさらに元気を失った。あ、ちなみに結果は両方とも変わらなかった。
『さっきみたいに必要のない追い打ちをかけるようなことするから、友達ができないのでは?』
『そうか。でも弱ってるやつ見たら追撃したくならないか?』
『性格歪んでませんか? そんなことなりませんよ』
『いやでもプレスターンバトル制でワンモアでたらもう一回攻撃じゃん?』
『なんで行動判定がゲーム準拠なんですか!? しかもそれだと追撃じゃなくて、他の敵に攻撃しますよね?』
『俺主人公みたくワイルドじゃないから、弱点突けるやつを徹底的に叩いて気絶状態にしようかな、と』
『さっきからナチュラルにリーゼンドリルさんを敵扱いしてますけど、味方ですからね?というか友達ゼロのあなたがあのゲームをどんな気持ちでやってたんですか? コミュMAXのときにむなしくありませんでした?』
『やっと強いのが解禁されたからこれでもう煩わしい人付き合いをせずに済むな、と』
『筋金入りのボッチですね』
『だが少しだけ主人公みたくなりたいな、とは思ったぞ?』
『お、やっぱ憧れました?』
『ああ、付き合ってない女の子にハイレグアーマーとか着せるのにはしびれた』
『こんな破廉恥な憧れは初めてですよ。あと付き合っても普通に拒否されることはありますからね?』
『え!?』
『当たり前でしょう。まあ、私は着てあげますがね! ハイレグアーマーがいいんですか?ビキニアーマーとかは?』
『ビキニアーマーも捨てがたいがやっぱハイレグアーマーがいいな!! 鼠蹊部や尻の見え方が違うな!!』
『なんかよくわからない部位への執着を見せられて困惑してます』
『すまんすまん。じゃあいつか頼むな!』
『かつてないほどの情熱を向けられていますね』
そんな風にしているとリーゼンドリルが復活してきた。
「おう。なにをボーっとしてんだ?」
「いえ、恵空に今度ハイレグアーマーを着てもらおうと思ってただけです」
「お前ぶっ飛んでんな?」
『恐怖を感じています』
おっとつい言わなくてもいいことを言ってしまった。
いつもはこんなことないんだが。もしかして緊張してるのかな?
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