第8話 名前
『帰ったら一緒にコードネーム考えましょうね!……ぷふ』
マスクから送り主である彼女の声が聞こえる。非常に嬉しそうなのが少し腹立たしい。返事をするためにマスクの顎くらいにあるスイッチを押す。これで話しても俺の声が外に漏れることなく彼女に届くらしい。
『とりあえず気合の入った方向で考えようかと』
『おや? てっきり気合の入ってない方向にするのかと思いましたが』
『どうやら危険な世界っぽいから馬鹿にされた方がいいかな、と思ったんだが』
『馬鹿にされない方がいいのでは?』
『ムカつく奴の方が遠慮しなくていいだろう?』
『成程。ちゃんと考えているんですね。ではその方向で。寄り道せずに早く帰ってきてくださいね』
『ああ、大丈夫だ。今日はエロ本買う予定はない』
『貴方エロ本買う以外用事ないんです?』
『本買う以外はいつもはスーパーとか寄るが、もう寄る意味ないしな』
『そういえばお友達いないんでしたね。大丈夫です。貴方にはきっと美人で優しい宇宙人の妻ができることでしょう』
『お前はブレないな。そういや、のど飴またくれない?』
『いいですよ。いくらでも用意できますよ。お味は?』
『リンゴで頼む』
最初のヤツは美味しかったが、やっぱりどんな由来の味なのか聞かされるともう一度食べてみたくはならんな。
「おかえりなさい」
「もう普通に俺の部屋にいるな」
帰ったら彼女に出迎えられた。普通に部屋にいることに若干思うところはあるが、まあ言っても無駄そうだなと思い、考えないことにする。
それに、いきなりでまだ慣れないが一応彼女になるのだから部屋に来るなと言うのは言いづらい。
そうして風呂に入ったり、のど飴をもらったり、食事を済ませた後にコードネームのことについて一緒に考えることになった。
「能力から、フェザータッチとかどうです?」
「なんか、かなりのり気じゃないか? なんでだ?」
「いやいやアニメとかが好きなら、これは燃える展開ではないですか! 格好いいコードネームを目指しましょうよ!」
「まあ、少しはわかるが。でもそれって大体すごい活躍して誰かにつけられるパターンだろう? 新人が自主的に名乗るパターンはあんまり無くないか? 俺的には漢字使ってる方がいいんだが」
「漢字にルビ振るやつです?」
「振らないやつ。英語とか苦手なんだ」
正確には外国語全部だ。とくに外国語の単語を本場の発音で話すヤツに虫唾が走る。そちらの方が正しくとも虫唾が走る。F1レーサーばりに虫唾が走る。……全部が外国語ならそんなに腹立たないんだけどな。なに言ってるかわかんないから。
「ではあなたの趣向から、『春本飽を覚えず』とかどうです?」
「なに春眠暁を覚えずみたく言ってくれてんだよ? 見ず知らずのやつに、俺はエロ本大好き人間だぜって言いふらしたくないよ。あと自分の恋人のコードネームがそれでいいのか?」
あと名前として認識しずらいし、言いにくい。流石にエロ本大好きは否定しないが。
「確かに。じゃあどうします? あまり気合入ってない感じですが軽業師とかにします?あなたの能力ならそんな感じの動きできますよね?」
「お、それはありだな。名乗るのが恥ずかしくないし」
「それか格好からなにか絞り出せ……ませんね。普通の格好してますし。この際なにか特徴的な格好してみます? 忍者とかどうです!? 身軽なイメージですし、ぴったりでは!?」
「えー。俺露出が多いのはちょっと嫌だな」
「なんで忍者を露出が多いものとしてとらえているんですか!?」
「え? 違うの? 大体どの忍者も露出多めだろ?」
「どの辺がですか!? ラーメン界の練り物代表とか全然露出してませんよ!?」
「その作品以外露出多いくないか? 空手と忍術使える巳とか褌一丁だし。くノ一に至っては胸かふとももが露出してないやつ、思い浮かばないんだけど」
「なんでくノ一思い浮かべちゃうんですか?」
「そう言われればそうだな。ごめん。忍者といえばくノ一が思い浮かんでな。というより露出のないヤツは記憶から消してたかもしれん」
「……やっぱり春本飽を覚えずにしません?」
「嫌だよ。じゃあ忍者でいくってことで決定な。でも、流石に本物の忍者ムーブはできそうにないから、偽物感だそう。偽物の忍者ってことで天麩羅忍者とかどうだ?」
「んーまあ、いいんじゃないですか? 少なくとも名前の気合入ってそうですし」
「よし、これでいこう」
なんかすんなり決まったな。もっと悩むと思ったが。
いつもゲームで主人公の名前がデフォルト名ない場合は時間かかってたからな。
やっぱ話し相手がいると違うのか?
「じゃあ、服とかはどうします? 天麩羅色とかにします?」
「え? そんな攻め方していくの? 普通に黒じゃダメなの?」
「黒って地味ですし、被りそうですし、なにより天麩羅忍者なら黒だと逆に失敗感でませんか? 『天麩羅、超焦げてんじゃん』とか笑われません?」
「ありえる。でも、天麩羅の色って薄いきつね色だろう? なんか嫌だな」
「でもそれ以外に天麩羅に相応しい色は思いつきませんね」
「そうだな。しょうがない。それでいくか。それで、服を作ってほしいんだが……」
オリジナルカラーの服とかどう作ればいいのか皆目見当もつかん。
恋人に服を作ってくれと言うのは、ダメ男感出てるのか? どうなのかわからん。
「もう、しょうがないですねぇ。私がいないと服も用意できないとは! まあ宇宙戦艦に乗った気分で任せてください。なにか希望はありますか? 全裸パージできるようにしときましょうか?」
なんか凄い嬉しそうに引き受けてくれた。もしかしてさっきの話といい彼女は忍者が好きなのだろうか? 外国人の人気凄いな忍者。
「そんなギミックはいらない。……いや、やっぱつけといてくれる?」
「冗談で聞いたらまさかの了承!? なんでですか?」
「帰ってきてから脱ぐのに便利かなって」
「どんだけものぐさなんですか。……いいです。つけてあげますよ。他にはあります?」
「じゃあ、苦無とか忍具とかあるじゃん? あれ天麩羅っぽくできるならしてもらえる?」
「お! いいですね! 了解です! 楽しみにしててくださいね? ぐふふ」
「なんか最後の笑い方が不安だけど、頼むわ」
明らかに怪しいから問い詰めたいが、服を作ってもらうので彼女の意思次第でどうにでもなるので無駄だろう。しょうがないので変な機能を付けられることを覚悟しておこう。
さて、一応コードネームは決まったので連絡しておこう。
コードネームは『天麩羅忍者』でお願いします、と店主に連絡しておく。そういやあの店主のコードネームなんだろう? 今度聞いてみよう。
そんなことを考えているうちに自分が非常に大事なことを聞いてないことに思い至る。不自由はしてないが知っといた方がいいよな。ていうかなんで教えてないんだよ。そう思いながら彼女を呼ぶ。
「お~い。ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど?」
「なんでですか? 今、あなたの衣装を忍びっぽくするかNINJAっぽくするか大事なこと考えてたんですが」
「そこは俺に相談しようや。それよりさ、お前の名前、なんていうの? 知らないんだけど」
そういえば彼女の名前を聞いていなかった。
「お! そういえば言ってませんでしたね。まあ、あんまり意味ありませんけど」
「どういうことだ? 意味がわかんないんだけど?」
「私の名前はあなたがつけてください。私達ムラムラは気に入った相手に名前をつけてもらい。以後それを名乗るという習慣です」
「えー。俺名前考えるの苦手なんだが。なんか希望とかない? せめてこういう感じのがいい、とかの情報が欲しいんだが」
いきなりとんでもない難題が発生した。もめないといいが。
「じゃあ、宇宙っぽい要素が入ってる名前がいいです」
「お、え、うん。まあ、考えてみる」
宇宙人、空から降って来る。……思いついたぞ!!
「なあ! 聞いてくれ! 超いいのを思いついたぞ!!」
「あなたのテンションが上がっている時点でろくな案じゃない気がしますが。なんです?」
「やっぱさ、宇宙人は
「おっとそこまでです!! なにエロDVDから丸パクリしようとしてるんですか!?」
「やっぱダメか。でも全年齢版もあるやつだぞ?」
「だからどうだっていうんですか! ダメですよ。次の案ドゾー」
そう言えば彼女は俺の悟りのDVDを解析していたんだった。
ではどうしよう。宇宙っぽい字で名前に使えそうなのが、宇、星、空、天、月、日、陽くらいしか思いつかない。これらと彼女の印象を組み合わせるか。彼女が来て俺はどうなったかな?……便利な生活を手に入れた。利、か。組み合わせれば名前になりそうだが、どうもしっくりこない。便利な生活を言い換えてみるか。恵まれた境遇かな。……恵、か。
「じゃあ、恵みの空と書いて
「ふむ! いいでしょう。宇宙っぽくとリクエストしたのに、空気を表すエアとは。これは実質『君がいなければ生きていけない』と言われたも同然なのでは? 気に入りました。これからは恵空と呼んでくださいね?」
「え、わ、わかった」
そういう意味じゃなかったんだけど。たまたま音がそうなっただけなんだが。そんな意味はないと言いづらいな。
「むっはー! では、私は忍者服や道具に盛り込むギミックを考えに戻りますね!」
「お、おう」
ギミックを盛り込むのは決まってんだな。いや、まあ予想してたからいいけど。
「できましたよ。試着してみてください」
翌日。早速忍者服出来上がった。相変わらずの早さだ。差し出されたのは砂浜みたいな色の忍者服だった。まあ天麩羅っぽくは見える。ただ気になるのがVRゴーグルみたいなのがあることだが。まあ、とりあえず促されるまま着てみるか。これ全部つけると肌の露出が一切ないな。
「ピッタリだな。そして動きは阻害されない。ところでこのVRゴーグル的なのは?」
「目を守ったり、サーモグラフィが使えたり、他にも色々できます」
「いつもながら便利な物がポンポンでてくるな」
「さらに、いいものをご用意してますよ。こっちです」
そう言って彼女の部屋の方に連れてこられた。そこには人一人が座れるような椅子を内蔵した箱があった。マンガ喫茶の部屋を上側を閉じて狭くしたらこんな感じだろうか。ただデザインが近未来的というか、全体的に鋼色で青のラインが入っている。
「フルダイブ可能なVRマシーンです。これで用意した忍具の使い方を学べますよ」
「夢のマシーンがまた追加されたな!」
「喜んでもらえたようでなによりです。やる気はでましたか?」
むしろゲーム好きで喜ばない奴はいないんじゃないかな?
「ああ! とんでもなくでたよ。ありがとう」
「むっふー! では早速やってみます?」
「頼むわ」
こうして連絡があるまでVRマシーンで忍者ムーブの訓練をみっちりやることにした。楽しみながら練習できるとはマジで夢のような環境だな。
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