第7話 新しい日常

 朝、太陽が旅人をストリーキングにしようと地表を照らす。だが賢者たる俺は遮光性のカーテンを張り巡らせ万全の防御態勢を整えていたはずだ。だから直接顔に太陽が当たるのはおかしい。それになにかに揺すられている気がする。これではゆっくりと寝ていられない。


 目を開けてみると



「おはようございます。起きて下さい。もう朝ですよ」



 宇宙人が伸し掛かっていた。不法侵入だぞ。



「なにしてんだよ?」


「昨日できたてほやほやのネオ幼馴染によるモーニングコールです。どうです?」


「ネオ幼馴染って、幼馴染の概念に一石を投じる言葉だな。てか幼馴染でなく恋人では?」


「恋人はこんな起こし方しないでしょう?」


「幼馴染もしないと思うな。リアルなら」


「細かいことはいいんですよ! それで、どうでした? 良かったです?」


「感想は想像してたのと大分違うな、ってとこかな」


「どの辺がですか? 結構うまくやったと思うのですが?」


「感触、かな。ロボだから堅い」


「おっと失念していました。では成体になったとき改めておこないましょう」


「もうやらないで欲しいんだけど」


「なんでですか? なにかいけませんでしたか?」


「カーテン、開けたろう? 太陽光で目覚めるのは嫌なんだよ。思わず太陽滅びろって呪詛送りたくなる」


「太陽になんの恨みが? それとも吸血鬼かなんかです? ホッチキスあります?」


「単純に嫌いなんだ。吸血鬼じゃないからホッチキスで頬っぺたはさむなよ? あと早くどいてくれる? 重いんだけど」


「女子に重いとか失礼ですね!」


「部屋に無断侵入の方が余程失礼だろう」


「そう言われればそうですね。でも恋人ですし。それにまた明日って言いましたよね?」


「こんな朝から来るなんて予想出来ないよ」


「え? 朝ご飯いらないんです? 希望を聞きに来たのですが」


「あ、いるわ。朝飯考える前にちょっと顔と洗ってくる」



 そう言って、洗面台に行く。用を足し、顔を洗う。さて、さっぱりしたし朝飯を考えるか。だがそれより先に確認することがあるのを思い出す。



「なあ、喫茶店でどうやって説明するか思いついたか?」


「思いつきましたよ。というか少し調べれば簡単に分かりました」


「どうすればいいんだ?」


「普通にアルバイトしたいと言えばいいと思います」


「いや喫茶店のアルバイトがあるのは知ってるが、そこからどうやって超能力関係の話にもっていけばいいんだよ?」


「喫茶店のアルバイト募集中の黒板は、ほぼ一般人は気になりませんよ。催眠みたいなもんです」



 そんなものがあるのか。そりゃ超能力者が公にならないわけだ。



「そんなことできるのか。一般人は気にならないからアルバイトの話をだした時点で超能力関係者だと察してもらえると」


「そうです。いつ行きます?」


「今日の開店時間に合わせて電話するかな」


「わかりました。楽しみですね。それで、朝御飯はどうするんです?」


「きつねうどんで頼む」


「はい。わかりました。じゃあ、行くまでに服とか洗濯しときますね」


「え? 服はまだ着るのあるぞ? 昨日服はたたんでもらったからなにもすることなくないか?」


「まさかアイロンがけをご存じない? 昨日は整理整頓だけで、服はしわしわのままですよ? そのしわしわの服で行くつもりですか?」


「ダメか? 大体こんなもんじゃ?」


「普段はそれでもいいかもしれませんが、親しくない人と会うんですから身なりは整えましょう? パパッと洗濯からアイロンがけまで済ませますから」


「じゃあ頼むわ。そういや昨日やたらデカい洗濯機があったな」


「そうです。それでやります。なので、あなたの部屋の洗濯機のところの壁ぶち抜いていいですか?」



 いきなりとんでもないこと言い出した。どこをどうしたら家の壁ぶち抜くって結論になるんだよ。雨の日に殺人鬼に家で襲われたのか?そいつはグレートですね。



「話が飛んだな! どういう思考でそう至ったんだよ。いやまあどんな理由であれ壁壊されるのは困る。これ借りてる部屋だからね? 無理だよ」


「まあまあ聞いてください。食事のときもそうですが現状部屋と部屋の往来にはいったん外を経由するしかありません。これではいつかロボットが人に見られてしまいます。そして、あなたは出来るだけ催眠を使いたくないようなので、そもそもロボットを見られない方法を考えました。その答えが壁を壊すことです。そうすることで部屋と部屋がつながるので当然ロボットは見られません。そして借りものだから壊したくないようですが、直せるので大丈夫です」



 成程。俺の催眠使いたくないって考えを尊重してくれた結果であるということか。



「あー、人に見られるのは考えてなかったな。確かに直せるならそれがいいか。よし、じゃあ壁壊してもらえる?」


「はい。じゃあ服とか全部いったん持っていきますね」


「よろしく」

 そう言うと、彼女は洗濯機の方に行った。早速壊すのだろう。数秒後、いつのも半球のクラゲみたいな機械が入れ代わり立ち代わり部屋から服を持ち出していく。相変わらずやることが早いな。そして俺の無能感溢れてるな。


 感心しながら見ていると彼女から声がかかる。



「そういえばそろそろ御飯食べますか?」


「よろしく」



 ダメ男メーター追加入ります。


 きつねうどんも絶品だった。あと、栄養が偏るといけないからと不味くない青汁もくれた。俺のダメ男加減がとどまることを知らんな。


「では、いってらっしゃい」


「ああ」



 今朝十時過ぎ、喫茶店にアルバイトの確認の電話をしてみると履歴書不要で、とりあえず店にいつでもいいから来てくれと言われたので直ぐに喫茶店に向かう。いつもと違いアイロンがけされた服で。違いはそれだけではなく、いつもはしないマスクをしている。耳の部分が太くなっているタイプだ。行きしなに彼女から渡された通信機だ。耳の部分から彼女の声が聞こえるらしい。



 相変わらずの技術に驚きながら歩いていると、ついに喫茶店に着いてしまった。時間は開店時間の約三十分後、店は繁盛していない。今なら行っても邪魔にならないだろう。いや、行くことは言ってあったのでたとえ繁盛していても気にせずに行けばいいのだが、やはり気にしてしまう。



 喫茶店に入るといつもの店主がいた。白髪になってる若さの残っているじいさんだ。そういえばここでアルバイトの人見たことがなかったな。


 挨拶をしたあと、店主に促され、店の奥に行く。


 奥には机一つと椅子が二つ。座るように促されたので素直に従う。



「さて、確認なんだけど、この店で従業員のアルバイトしたいのかな? それともアルバイトを紹介してもらいたいのかな?」



 なんか変な言い方だな。



「アルバイトを紹介してもらいたいです」


「では君の特技を聞かせてくれるかな? できれば普通の人ができないようなものを」


「どんなものでも物を軽々と持てることです」


「じゃあこの机持ち上げ貰える? できるだけ軽々と」


「はい。では、失礼しますね」



 そう言って、まず机を持ち上げる。そのあと机の脚の一つの先端をつまみ、そのまま腕を真横へもっていく。俺が伸ばした右手の指に机がまるまる乗っている形だ。



「これは、確定だね。君は超能力者でその能力を活かせる仕事がしたいってことでいいのかな?」


「はい」



 やっぱ今までのは俺が超能力者なのかの確認か。一応なんかの間違いで黒板見えちゃった普通の一般人の可能性もあるからか?



「じゃあ能力についていくつか質問するね。能力は怪力?」


「いいえ、物を軽くす能力です」


「どれぐらい重い物を軽くできる?」


「重機を持ち運べる重さくらいにはできます」


「それはすごいね。能力は君の手から物が離れても長時間持続できる? 見えなくなったらどう?」


「はい。見えなくなっても長時間軽くし続けられます。一晩寝たまま維持できます」


「成程。はい、ありがとう。……君にやってもいたいのは運び屋になります。いいかな?」


「はい。大丈夫です」



 予想していた範囲だ。



「じゃ、君と相性がよさそうな人と連絡をとってみるから、その人と一回やってみてください。その人とどうしても合わない、仕事が嫌になったとかあったら私に言ってくださいね。なにも言わずいなくなるのだけは止めてね?」


「はい、わかりました」


「じゃあ、あとはコードネーム考えといてね。どんなのでもいいから」



 なんかいきなり予想外のこと言われた。どんなのがいいんだ? 中二病を炸裂させた感じの名前か?



「あの、皆さんどんな感じのコードネームなんですか?」


「大体能力か姿か、趣味趣向から名前を決める感じかな。ただ気合の入った感じにすると最初はコードネームの前に自称とかつけられてかなり馬鹿にされるね」


「じゃあ、気合の入ってない感じにします」


「そうすると自分の能力とかに自信がないと思われて、舐められたり小馬鹿にされたりするよ」


「どちらにしろ不愉快な思いはするんですね」



 最悪じゃないか。超能力者業界民度低いな。



「うん。だからそれが嫌だったら成果で黙らせるか、直接黙らせるかないね」


「直接黙らせるのありなんですね。結構危険な世界なんですね」



 超怖いだけど。選択を早まったかもしれない。いや危険ならある意味望んだことではあるんだけど、怖いものは怖い。



「うん。気をつけてね。まあ、最初に紹介する人はそうじゃないけど、そう人達もいっぱいいると思っておいて。じゃあ、最後に連絡先を交換しよう。あとで仕事できる時間連絡してね。あ、仕事の連絡は遅くとも一週間以内にはするから、万が一連絡なかったら連絡して。もし都合がつくけば明日から仕事がやれるかもしれないから、コードネームはなるべく早く決めておいてね」


「はい、では失礼します」


「あ、待って。渡すものがあるの忘れてた」



 そう言って店主は店の更に奥に行き、すぐに戻ってきた。手には変な模様が書いてあるバッジがある。



「はい、これ。仕事の時にはこれを見えるところにつけておいてね。関係者だという証明になるし、一般人には気にされなくなるから」


「はい。便利なものがあるんですね」


「だから個性的な派手な格好してきても大丈夫だよ」


「そんなわざわざ派手なの着たくないです」


「そう? 派手な人の方が覚えられるからいいと思うんだけど? コードネームにも使えたりするし、結構いるよ?」


「そうなんですか。でも、地味にいこうと思います」


「そう? そういえば口調もっと崩していいよ? この業界個性を出すために変な話し方の人いっぱいいるから。むしろ丁寧だとなめられるかも」


「ご忠告ありがとうございます。そうしてみます」


「うん。じゃあ、今日はこれで終わりってことで。お疲れさまでした」


「はい。ありがとうございました。失礼します」



 こうしてあとは連絡先を交換したくらいであっさりと決まった。なんだか拍子抜けだ。……いや、あっさり決まるってことは人手が足りなかったからって理由が考えられるよな。その理由ってもしかしなくても仕事が危険だからだよな。嫌だな。いやその方が能力は成長するのかもしんないけど、心の準備とかがまだできていない。

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