第6話 受け入れ

 今の表情は良かった。注文通りだ。……しかしこうして考えると今の状況都合が良すぎるよな。理想の美女が『家事とか全部やってあげますよ。結婚しましょう』と言ってきてるんだよな。しかも虫よけが完璧。


 問題は相手が宇宙人ってだけであとは最高じゃないか? これ以上どころか比肩しうるチャンスが俺の人生で起こるか? 起こらないだろうな。いや、絶対起こらないわ。


 なのでこのチャンスに乗るしかない。これを逃したら今後ずっと彼女ができない気がする。だがそうなると気になることがあるので確認するか。



「なあ、確認したいことがあるんだがいいか?」


「なんです? この感情は……まさか真面目な話ですか?」



 いかん。真面目に話しただけでちょっと驚かれている。



「そうだ。お前は家事をしてくれるみたいだが、俺になにか望むことは?」


「おお! プロポーズを前向きに考えてくれるんですね。そうですね……私が貴方に目を付けたのは超能力が原因です。なので、できるだけ貴方には超能力を鍛えてほしいですね」



 成程。道理だ。だが、能力の鍛え方なんぞ知らんぞ。



「超能力を鍛えるって、どうやって? 荷運び?」


「いいえ、超能力とは思念、精神の力です。ただ使っているだけでは強度は鍛えられません。つまり貴方でいえばいくら重いものを軽くし続けてもあまり意味はないということです」


「じゃあどうやって鍛えるんだ?」


「緊張などのストレスを感じながら使ったり、その能力をより強く欲したりしながら使うといいです」


「ごめん。ちょっとよくわかんない」


「要するに危険な状況と認識しているなかで超能力を強く望み、使えばいいということです」


「え゛? 危険な状況に陥れと?」


「実際に陥らなくていいです。実際には危険はなにもなくとも危険だと感じながら使えばいいのです。要するにビビりながら真剣に能力を使えばいいです。安心してください。私も協力は惜しみませんよ! 全力で協力します」


「ビビりながらって部分に心の引っ掛かりを感じるんだが。まあどうすればいいかはわかった。だがビビりながらって危険がないと無理だよな。どうすればいいんだ? できるだけ危ない思いはしたくないんだが」



 超能力を鍛えるには危険な思いしないといけないのか。今の平穏で何もない生活か、便利だが危険な目に合う生活か。かなり迷うな。


 しかし今までの生活で感じたのだが、超能力とはいえやはり自分の能力を思い通りに使えないのは窮屈だ。超能力を思い切り使ってみたいという気持ちが常にある。そのことを踏まえれば、便利だが危険な目に合う生活というのに興味をひかれてしまう。まあ、実際危険な目にあえばコロッと心変わりするかもしれないが。幸運なことに今まで危険な目にあったことがないからな。


 よしやってみるか。あとやっぱ便利な生活が魅力的すぎる。



「超能力者向けの仕事を紹介してもらえばいいじゃないですか? その中で安全そうなものからやってみるとか」


「……紹介って誰に?」



 そんなやつに心当たりはないんだが。というか知り合いがほぼいない。まさかの初手手詰まりか?



「貴方のいきつけの喫茶店の店主ですよ」


「え? あの人? なんで?」


「あの店にはかなりの数の超能力者が訪れていますし、店主も超能力者ですからね。たぶん紹介してくれると思いますよ」



 あの人も超能力者なのかよ。今まで自分以外の超能力者にあったことないと思っていたが、あってたんだな。



「全然気づかなかった。だけどいきなり言っても紹介してくれないだろう。第一どうやって超能力関係者か気づいたのか説明できないし」


「普通に紹介してくれって言ってダメって言われたり怪しまれたりしたら催眠すればいいのでは?」



 この宇宙人、催眠のゴリ押しで済まそうとするな。



「確かにそうすれば問題解決だが、なんか罪悪感があるんだよな。しかも催眠が効かなかった時が怖いので、催眠無しでいきたい」


「ふむ。分かりました。本腰をいれて探ってみましょう。その間は待っていてください」


「わかった。すまんが任せるわ。探ったりする方法なんて思いつかない」


「任せて下さい。もともとこちらの要望ですしね。ところで晩御飯にはまだ早いですし、散髪でもしません? 人と会うことになるんですからキチンとした髪の方が印象がいいでしょう? 私ならタダで短い時間でできますよ」


「え、そう? じゃあ頼むわ」


 もうそろそろ髪切ろうと思ってたしちょうどいい。


「さあ、お客さん今日はどうしますか?」



 なんか小芝居が始まった。いつも千円カットで済ましている人間になにを期待しているんだか。短く以外なにを言えばいいんだ?



「じゃあ震えるほどのイケメンにして下さい」


「無理です。ごめんなさい。許してください」


「なんでそんな謝るの? むしろ傷つくだろ?」


「ごめんなさい。ちょっと難しいです。アフロならいけるんですけど」


「アフロって伸びてるじゃん」


「瞬間育毛剤ならあるので」


「あんのかよ。さっきから夢の技術がでてきすぎだろ。そんな高度な技術をもつのになぜイケメンにしてくれないんだ!?」


「ごめんなさい。顔面が顔面なのでカットだけでは限界があります」


「まあ普通の顔だからしょうがないか。じゃあ好青年な感じで」


「ちょっと目つきが怖い系なので無理です」


「そうなの? 普通の範囲じゃない? じゃあ爽やかな感じで」


「むっつりそうなので無理ですね」


「ショックなんだけど。俺むっつりっぽく見えるのか。てかそういうのならできるの?」



 さっきから無理ばっかりで全然進まないんだけど。あと俺の顔って目が怖くてむっつりっぽいの?



「そうですね……そのまま短くする以外なら、アニメキャラの髪型ならできます」


「アニメキャラの髪って現実で人に好印象を与えるようなのあったか? どれも個性的で驚かれるようなのしか思い浮かばないんだが」


「今思ったんですけど顔の時点で好印象は無理でしょうから印象を与えることだけに注力すればよいのでは?」


「待ってくれよ。俺の顔面からどんな印象受けてるの?」


「暗い、目が怖い、事件を起こしそう、などです」


「嘘だろう? 落ち着いてるとかじゃないの?」


「残念ながら」


「残酷な現実に打ちひしがれそうだよ。もう、少し短くして整えるだけでいいよ」


「え? それだと震えるほどのイケメンになりませんよ?」


「それはもういいよ。諦める。さっさとやってくれ」


「わかりました。あ、でも私はいいと思いますよ? ライバルは少なくなりそうな感じが」


「雑なフォローありがとう、ってフォローになってなくないか?」



 遠回しに不細工って言ってない? 流石に不細工を受け入れられるメンタルはしてないぞ。


 礼を言いつつ彼女の方を見るとなんだか半球状の機械が浮いている。下の方から腕が生えていてクラゲみたいだ。クラゲ機械はそのまま俺の後ろに回り込む。頭になにか取り付いてくる感覚がある。そして次にあったかい液体が頭全体にかけられた。



「なにこれ? 濡れてない? 水漏れとか大丈夫?」


「大丈夫です。カット前の洗髪ですよ」



 そう会話しているうちに、頭全体をマッサージされ液体を吸われ、髪を乾かされたと思ったら頭からクラゲ機械が離れていく。



「はい、終わりましたよ」


「もう? いつ髪切ったの?」


「乾かしてる途中ですね」


「そうか。しかしこんな早く終わるんだな」


「一応その長さでいいか確認してほしいんですが」


「あ、そうだな」



 洗面所で長さを確認する。残念ながらイケメンは写っていないが、髪はちょうどいい長さだ。まあ、もともと髪型にこだわりなんてないから短ければなんでもいいんだが。



「ああ。この長さでいいよ。ありがとう」


「どういたしまして。さて、あとは晩御飯ですね。いつ届けましょうか?」


「じゃあ六時で頼む」



 少し早いが、今日は色々あって精神的に疲れたので早く寝たい。ちょうどいいだろう。



「わかりました。では六時にまた来ますね」


「おう、よろしく」



 そうして家に帰ろうかといったとき、突然宇宙人がなにかに気づいた。



「あ! そういえば確認したいことがあります」


「どうした?」


「貴方は私のプロポーズを受けてくれるということでいいんですよね?」



 そういえば明言していなかったな。確かに前向きに考えているが、いきなり結婚はやはり迷ってしまう。だがここはきっぱりと決めるところだろう。



「その、まずは恋人的な関係から始める、じゃダメかな? 流石に性格とかよく知らないし。危ない目にあって超能力鍛えるの嫌になるかも知れないし」


「ふむ! 今はそれで良しとしましょう。ではこれからは恋人ということで」


「ああ、よろしく」



 はい、日和った!!


 ……仕方なかったんだ。いきなり人生の岐路は日和るよ。


 まあ、彼女は鼻歌とか歌いだしているので機嫌は良さそうだ。なので良しとしよう。



 鼻歌を歌う彼女を玄関まで見送った。彼女は手がないので念力で鍵を開け、扉を開け、外に出て、扉を閉め、鍵を閉めていった。……これって彼女にとって鍵なんて意味ないってことか。いやまあ予想はつくことだったな。


 そんな事実を認識しつつ、とりあえず風呂に入った。普段人と話さないので独りの時間に一層の癒しを感じる。




 そして六時ぴったりにインターホンが鳴ると同時に、彼女が部屋に入ってくる。ホットドッグを忘れずに持っている。……わかってたけど俺が迎えにでるまでもなく入ってくる。



「はい、お待たせしました。ホットドッグです」


「ありがとう。頂くわ」



 食べてみるとパリッとしたソーセージから肉汁がにじみ、うまさが口に広がる。そして噛んでいくうちにマスタードやケチャップと混ざり味が変化していき全く飽きない。また、パンもソーセージを邪魔しない程度の小麦の自然な甘さで他の食材を引き立てると同時にふかふかの食感でいつまでも噛んでいたくなる。最高のホットドッグだ。



「うっま。これうまいわ。最高」


「それはよかったです」


「こんな美味いHドッグ初めてだわ」


「そんな破廉恥なホットドッグの略称初めてですよ。って昼にも似たようなやりとりしましたね」


「すまんな。気分が良くなってしまって、つい」


「えー。貴方気分良くなると下ネタに走るんですか?」


「むしろ気分悪いのに下ネタは無理じゃないか?」


「そう言われれば、そうですね」


「だろう? てか俺の食事見てるだけだけど食べないの?」


「ええ。お忘れかもしれませんが私は今蛹のような状態なので、普通の食事はいらないんですよ」


「そうだった。じゃあホットドッグとか自分では食べないのに、俺に用意してくれたんだな。なんか悪いな」


「気にしないでください。喜んでもらえればそれでいいですから」



 ……いかん。こんなに尽くされると罪悪感がすごい。なんか返したい気分になる。というよりこれで平然としていたらダメ男一直線な気がする。



「なんかしてもらってばかりで悪いな。なんかしてほしいことない? 超能力とか以外で」


「いえいえ、気にしないでください。もう貰ってますから。髪の毛とか」


「え!? 髪の毛? どういうこと?」



 なんか怖いんだけど。嫌な予感がする。



「ほら、お伝えしたではありませんか。私達ムラムラは気に入った相手の因子を取り込み姿を変化させると」


「聞いた気がするな。そして髪の毛が因子ってこと?」


「はい。まあ髪の毛でなくともいいんですが」


「確認だけどもう取り込んじゃった?」


「はい。もちろんです。なんのために散髪したと思ってるんですか?」


「キチンとした身なりにするためだろ!? というかお前謀ったな!?」


「まさか今日中に入手できるとは思いませんでした。ぐふふ、これで貴方と遺伝子的に相性抜群の肉体が出来ます」


「なんか通り魔的な発想したり結構邪悪な感じがするな」


「お嫌いですか? もっとこう清純な感じがいいです?」


「いやそのままでいいよ」



 そっちの方が気が楽だ。あんま誠実だったりまともだったりされると心が開けないからな。嫌われるんじゃないかと思って。



「もう、そういうときは『そのままのキミがいい!!』とか言って下さいよ」


「出会って一日でその台詞は信用できないだろう?」


「確かに。でもいつか言われてみたいものです」



 そんな期待した目で見られても困るんだが。



「てか今お前蛹だからどうやっても今言えないだろう?」


「確かに。さて、夕ご飯も食べ終わったことですし、そろそろ帰りますね」


「おう、ごちそうさま。気をつけて帰れよ」


「徒歩数秒ですがお気遣いどうも。また明日」


「おう。また明日」


「あ、そういえばまだしてほしいことがありました」


「なんだよ?」



 虫を始末してもらって、あんな美味いの食わされたら、かなりほいほい言うこと聞くよ?


「今度、恋人らしいことしましょうね!」


「……おう」


 ガチャっと扉が閉まり鍵も閉まる。やっぱ明日も来るのか。まあ結局喫茶店の店主にどう説明するか決まってないしな。


 しかし人とこんなに話したのは初めてだな。非常に疲れた。


 明日もこんな感じなのだろうか。


 ……そして最後に言われた恋人らしいことって何すりゃいいんだ? エロいことしか思い浮かばないぞ。それ以外だと『あーん』か? 食べさせあいをする『あーん』が恋人っぽいんじゃないか? うん。お手軽だしまずはこれで決まり……ってアイツ、ロボだった!! もう思い浮かばないんだけど。いや、そもそも俺が一人で考えてもしょうがなくないか? アイツと一緒に考えればいいだけだよな? 一緒にやることは一緒に考えないと。


 でもやっぱ肉体がない相手だと制限きついな。経験不足も手伝って、全然案が思い浮かばない。


 今度幽霊相手の恋愛映画でも見てみるか? でも轆轤回すのは楽しいのか?



 よし。そうと決まれば……あとはお楽しみだ。


 睦月先生、愚息がお世話になります。

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