第5話 変化

 そう言って家に上がると驚く。このアパートは玄関から右に洗濯機や冷蔵庫を置く用のスペースがあるのだがそこにはなにもない。というより前の家主が出ていったばかりの状態のようだ。



「なあ、洗濯機や冷蔵庫は?」


「部屋の方にあります」



 そう言って玄関から直進し、生活スぺースに繋がる戸を開ける。



「なにこれ?」



 戸から部屋に入り右手にドデカい赤色と白色の箱型のものがあった。高さは身の丈ほどあり、長さは部屋の奥にあるベランダに出る窓まで続いている。手前から赤白の順だ。



「赤いのが食品保管庫兼調理器、白いのが洗濯機兼衣類収納庫みたいなものです」


「調理器? どのへんが?」


「メニューをリクエストするとその料理が全自動で出来上がります。家庭の味からプロの味まで再現可能です」


「マジかよ。これが言ってたやつか。夢の機械じゃん。外食とかする必要ないじゃん。すごいな」



 まあ、そうは言っても食材の問題もあるだろうから限度はあるだろうが。料理しなくていいとか最高かよ。



「そうでしょう。そうでしょう。なにせムラムラの発明においてトップクラスに批判されつつ利用されてますからね。その有用性はおりがみ付きです」


「これお前らが開発したのかよ。これのどこが批判されてんだよ。超便利じゃん?」


「私は開発に関わってはいませんがね。これに関することで少なくとも三つ星が滅んでますからですね。しかも一つは超有名な星が」


「怖いな、おい。なにがあったの? 聞いても大丈夫なやつ?」


「開発のために犠牲になった星が少なくとも二つ。あと一つの有名な星は美食の星で有名だったのですが、これのせいで数多の料理人が失業し自殺。生き残った料理人たちも血を血で洗う毎日をおくり滅んでいきました」


「美食の星が滅びるのはなんとなくわかるが、開発で星が滅ぶってなんだよ」


「ん~」


「なんだよ? 言いにくいことか? なら言わなくていいぞ?」



 別に由来にそんな興味ないしな。どこの星が滅びてようが使う。



「いや。言っても大丈夫だとは思いますが。虫の話題なんですよ」


「え……。もしかしてこれ虫が使われてるの?」


「使われてませんよ。虫の研究からこれが開発されただけです。」


「なら平気だが。なんで虫から全自動料理マシーンが?」



 俺が虫嫌いだから気を遣って話しにくかっただけか。部屋を掃除してもらいつつ気を遣わせるって、なんだか自分がダメ男になったみたいだな。


 喉の調子を心配して飴を届けに来てくれた人からのデートの誘いをエロ本を口実に断るのはダメ男ではないのかという問題は今は置いておく。



「まずどういう虫を研究したかというと、星喰いと呼ばれる芋虫みたいな宇宙規模の害虫です。星喰いは星を食べつくし蛹となってから蝶のようになり宇宙へ飛び立っていきます。そして新たな星に降り立ち卵を産むという生態です」


「なにその恐ろしい虫」


「ええ。対策のために昔から研究はされていましたが、星喰いが降り立つ星に規則性は見受けられませんでした。しかし、そこに目を付けたのがこの機械の開発者です。『規則性がないのはどこでもいいからではないか、星喰いは何でも吸収し自分の栄養にできるのではないか』という考えのもと研究を開始。その実験のため、星喰いが星を食べつくすところを観察するために最低二つ星を滅ぼしています。そしてその考えは正しく、星喰いの研究を応用された結果、この機械が開発されました」


「夢のマシーンの開発の代償が莫大だな」



 薄々わかってたけど、ムラムラの技術力凄すぎない?



「これで晩御飯をご馳走しましょう。なにがいいです?」


「それはありがたい。さっきの説明聞く限りだとなんでもできるんだよな?」


「なんでもはできませんよ。インプットしてるものだけです。まあ大体はできると思いますが」


「じゃあホットドッグもらえる?」


「できますが、晩御飯それだけですか? 偏ってますね」


「いや食べたいものでうかんだのがホットドッグなんだ」


 専門店とか近くにないから好きだけどなかなか食べる機会がないんだよな。


「いいでしょう。ご馳走いたしましょう。ところで掃除終わったので帰りましょうか」


「え?どうゆうこと? ずっと一緒に話してたよな?」


「話してる間にロボットに命じて掃除させてました」


「相変わらず技術力凄いな。そんなことできのか」



 まあ全自動料理マシーンとかあるんだから掃除マシーンがあるのも不思議じゃないか。



「さ、行きましょう。行きましょう」



 そう促され自室に戻る。宇宙人は後ろから着いてきている。


 玄関を開けるとタオルがきれいに折りたたまれているのが見える。そして奥の生活スペースに行くと部屋はきれいに片付けられていた。どこにも服やタオルが散乱していない。箪笥を開けてみるときれいに折りたたまれて収納されている。



「すごいな。こんな短時間で見事な――」



 もんだな、と称賛しようと振り返ると宇宙人が激変していた。ロボの前面にさきほどまではふざけた顔文字が浮かんでいたが、今は金髪碧眼の絶世の美女が映しだされていた。なにがどうなっているんだ。



「ふっふっふ。どうです? 驚きました? 見惚れましたか?」


「あ、うん。その姿は一体どうなってるんだ?」


「ムラムラは成体になるときは好きな姿になれると言いましたね? ではどんな姿になるか? それは気に入った相手の理想の姿です。私でいうと貴方の理想の姿ですね。どうです? 計算によれば大分理想の姿に近いはずですが」



 確かに俺の理想とする女性にかなり近い。透けるような白い肌にさらさらのストレートロングの髪。プロポーションも完璧だ。実際にいたら怖気づくレベルだ。いきなりこの美人が話しかけてきたらなにも話せなくなるだろう。だが、さっきまで話していた相手なのであまり緊張しない。それになんだかんだといって映像だし。



「確かにほぼ理想だな」


「そうでしょう? なにが理想と違いますか?」


「どちらかといえば黒髪が好みです」


「成程。これでどうです?」



 そういうと瞬く間に黒髪に変わった。



「うん。理想の姿だわ。ところでさっきから気になってるんだがどうやってその姿がいいとわかったんだ? 俺そんな質問された覚えばないんだが?」


「それは簡単です。さきほどロボが貴方の部屋を掃除しました。そう、エロ本やエロビデオが溢れている、あなたの部屋を。それを片付けるついでに解析し、ヘビーローテーションのものから計算したんですよ」



 確かに最初の金髪碧眼の姿は、容姿といい、格好といい、お気に入りのビデオにでてくる姫騎士によく似ていた。しかし黙ってなんてことしてくれてんだ、この宇宙人。



「お前、人のエロ領域を無遠慮に侵犯するとは、なんて残酷なことを! お前には遠慮というものがないのか!?」


「私のいじらしいお願いをエロ本買いに行くからと断っておいて、今更エロに対して遠慮しろなどとはふざけたことを。第一見られたくないならそこは掃除するなと言えばよかっただけでしょう?」


「ぐうの音も出ないほどの正論、でもないな。ぐうの音くらい出る。お前、それはひどい暴論だぞ。露出狂なんだから、裸を盗撮されても文句言うなってのと同じことだからな!」


「こんな変態的なぐうの音初めてです。でも、私が理想の姿の方が貴方にとっても眼福でいいでしょう? というかこれが理想の姿でいいんですよね? なんか反応薄くないです?」



 理想の姿だからこそ、どう反応すればいいのかわからずに反応が薄くなってしまっているんだが、なんだか素直にそう言うのは非常に癪にさわる。……いいことを思いついた。



「それはそうだが、さきに『エロビデオ貸して下さい』って言えばいいだけじゃないか。反応が薄いのはいきなりで戸惑っていただけだ。もっと褒めた方がいいか?」


「いやですよ。それただの痴女では? そうですね。もっと褒めてほしいです」



 よし。予想通りの反応だ。これでいける! でゅふふ。



「なんて美しいんだ! これはまさに一つの芸術! もっと良く見ていいか?」


「むっふ。いいですよ。さあ、見惚れなさい!」



 そう言われたので俺は彼女の足元に這いつくばり仰向けになる。すると彼女のスカートの中が、見えない!!



「――くっ、パンツが見えない!」


「……何してるんですか?」



 彼女がゴミを見るような目で見つめながら聞いてくる。



「なにって芸術鑑賞だよ。これはトラディショナルジャパニーズ鑑賞スタイルの一つで、エロ系の芸術を鑑賞するときに用いられる技法だ。初心者は土下座のような態勢になるが、熟練者はこういう風に仰向けになるんだ。あ、それと掃除ありがとう。おかげで寝転んでもほこり一つつかないぜ!」


「貴方の尊厳は地に落ちて土がついていますがね。しかし、とんでもない嘘ぶち込んできましたね。宇宙人だからってそんな嘘騙されませんよ」


「無念だ」



 まさかパンツが見えないとは。予想外だ。人の夢と書いて儚い、か。でもパンツは履いておいてほしいな。



「もう覗かれないようにスカートは止めます。……服はなにを着ましょうかね?」


「あ、だったら希望聞いてくれる?」


「……いいでしょう。聞いてあげます。ただし、露出度が高いものはダメですからね」



 ぐふふ。甘いな。露出度が高くなくてもエロい服はいくらでもあるのだよ。



「宇宙人らしくボディスーツを希望する。色は肌と同じ色で」


「それほぼ裸スーツ!」


「裸じゃないから恥ずかしくないのでは?」


「なにパンツじゃないからみたく言ってるんですか? 恥ずかしいです」


「でもほら、本体じゃないんだしセーフのカウントにならない?」


「どれだけ必死で頼んでくるんですか。……はあ、わかりましたよ。着てあげますよ。仕方ないですね」



 そう言って次の瞬間、注文通りの服に着替えてくれた。よっしゃあ!



「ありがとうございます!」


「しかしエロに対する執着が異常ですね。超能力を悪用して性犯罪とかしてないのですよね?」


「当たり前だろ。第一俺の能力をエロいことに利用しても意味ないじゃないか」


「そうなんですか? というより貴方の能力はなんですか?」


「知らなかったの?」



 俺てっきり全部ばれてるのかと思ってたんだが。



「正確にはわかっていませんね。力を上げる系か、物を移動させる系のどちらかだとは思いますが」


「ちょっと違うな。物を軽くすることできる。なんでそう思ったんだ? 見ただけでわかるの?」


「いえ、貴方がバイトで異常に荷物を運んでいたので」


「バイトって、それいつの話?」


「夏休みのときですかね」


「そんな前から俺のこと知ってたのか」


「はい、どんな出会いが心をつかめるか計画を練ってました」


「それで空から降ってきてぶつかったり、隣に引っ越してくることにしたと?」


「そうです。それで、なんで超能力をエロいことに利用しても意味ないんですか?」


「そんなの決まってるだろう? この能力でやれそうなのは覗きと監禁だが、どちらも俺の趣味じゃない」



 覗きは自分の体を軽くし高層階のマンションなどにいき油断している住民をターゲットにする。監禁は相手を軽くしすみやかに誘拐し、監禁部屋には普通では動かせない重さの物をおけば監禁に役立つだろう。



「さっき私のスカートの中を覗き込んできた人の発言ではないですね」


「違う違う! 今言った覗きは盗撮とかってことだ。堂々と見るのとは全く趣が異なるんだ。」


「変態には変態のこだわりがあるんですね」


「おい、そんな言い方するなよ。普通だ。ちょっと自分に理解できなからといって変態扱いするのは良くないと思うぞ」


「そうですね。ごめんなさ――いや私スカートの中覗かれそうになってるんですけど!?これは変態扱いしてもいいでしょう!」


「変態と言うときは顔を赤らめ、にらめつけながら言って欲しいです」


「変態じゃないですか!!」


「ありがとうございます」

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