第4話 帰宅
「嘘でしょう!? 飴のお礼に一緒に帰ってほしいという、いじらしいお願いに対してエロ本買いに行くから断る!? どんな神経してるんですか!?」
「いや待ってくれ。そう思うのは仕方ないと思うが、ただのエロ本じゃないんだ。最近では一般誌で書かれていた大家、
「そうですか。なら仕方がない、とはなりませんからね!? デートに誘ってエロ本を口実に断られるとか! ……初めてですよ。私をここまでコケにしたお馬鹿さんは!」
「オラ、ムラムラすっぞぉ」
「でしょうね!? もういいです。一緒に帰るのは諦めます」
帰るのだけでなく俺の事自体諦めないのかな。さっきの返しはマジに酷かったと思うが。
「悪いな。埋め合わせはまた後日ということで」
「はあ……わかりました。では、また」
「おう。すまんな」
そう言って去っていく。あれ程酷い対応したのにガチ切れすることなく帰った。
多分あそこでエロ本を優先させたりするから、俺には友人ができないのだろうな。
しかし、あの宇宙人は俺のことを見限った感じがしない。これはもしかして、プロポーズはかなり本気の話なのか?理由とかいまいち信じきれないが。兎に角、真剣だとは思う。
まあ、今は宇宙人のことよりエロ本のことだよな。さ、あと一限だけだ。頑張ろう。
このとき、俺はエロ本に気を取られて真剣であろう宇宙人が連絡先も聞いてこない理由を考えていなかった。まあ、他人と連絡先を交換する習慣がないので仕方がなかったと言えるだろう。
授業が終わり帰路につく。もちろん独りだ。というかこれからエロ本買いに行くのに独りじゃない方が怖い。
いきつけの本屋は、大学からだと自宅の方向とは少しずれている。朝には急いで上がった坂を下り自宅のある右方向には行かず直進する。少し歩けば川が見えてくる。春には桜が見れるが、花見が出来るような広場はないので、本当に桜が見たい人にとっては絶好の散歩スポットだ。そんな川沿いに歩いていけば目的の本屋だ。
カウンターにはいつもの静謐を好みそうな眼鏡をかけたイケメン店員がいる。しかしこの男、スケベである。出会ったときはエロ本にマジ切れしてたからね。
いつもなら初めての場所を訪れた勇者のように隅から隅まで見て回るが、今日は違う。目当ての物を手に入れ、さっさと帰り賢者へといたる。これが高レベル遊び人たる俺の目指すべきところだ。
俺は商人のように目敏く本(さとりの書)を見つけ、盗賊のように密かに本を抜き取る。本が無事あったことに僧侶のように慈悲深い笑みを浮かべ、武闘家のように素早くカウンターに並び、戦士のように堂々と会計を済ませる。どこぞのおっさんが描かれた紙が美少女まみれの雑誌に変わる。まさに魔法使いになったみたいだ。目的は達した。足早に本屋を去る。
あとは家に帰るのみだ。
そう思いつつ、歩いていると喫茶店が見えた。よく利用するお気に入りの店だ。いつもアルバイト募集中と書かれた黒板が壁に吊るされている。店主のサインみたいなのも書かれていてダサい。こういうの含めて、流行りのおしゃれな感じじゃないのがいい。エロ本を買っていなければ入っていつものミックスサンドとコーヒーを頼むのだが。そう残念に思いながら、店の前にある本日のおすすめのメニューが書かれた黒板を通り過ぎていった。
ようやく家に着いた。階段を上がり三階へ行く。そこの角部屋が自宅だ。
早く賢者に至りたいが、外に出たらシャワーを浴びないと気持ち悪い。身を清めよう。そう思いシャワーを浴びようと服に手をかけたとき、ピンポーンとインターホンがなる。
誰だ全く。ふざけるな。俺は早く落ち着きたいのだ。新聞か。宗教か。誰であろうと、とっとと追い返してやる。こういうとき、友人がいないといい。外にいるのは確実に用のないヤツなので、遠慮せずに不機嫌ででられるからな。
そう思い、ドアを開けると
「こんにちは。
また宇宙人がいた。今日一日でどれだけ会うんだよ。しかも隣に日本人の女がいる。二十代から四十代くらいだ。年齢の判定が雑なのは、俺は人の顔を普段から見ていないのでよくわからないからだ。特に化粧していると本当にわからなくなる。
「大丈夫だが、いつの間に? てか、隣の人は?」
「引っ越しは貴方がエロ本を買っている間にですね。#都合よく__・__#、隣の部屋が空いたので引っ越してきました。そして彼女は私のロボットです。買い物とかをやってもらおうと思ってます。催眠でどうとでもなりますが、やはり人間の見た目していた方が便利ですからね」
「まさかここまでやるとは。というか本当に都合よくか? 怪しすぎるんだが」
「そうですか? 衝撃的な出会いを果たした女の子が隣に引っ越してくるというのは、よく見るんですが。本当に偶然ですよ。
「漫画の中ならな。それやっぱ部屋追い出してない? 催眠使ってない?」
「本当に追い出してないし、使ってません。そんなことより家事とか大変ではありませんか?」
「どんだけ都合のいいことが起きてんだよ。そりゃ家事は大変だが」
なぜわかった?そこからなら、まともにたたんでいない服やタオルが見えるくらいなのに。
「いや、ぐちゃぐちゃのタオルや服が見えてますし」
服やタオルが原因だった。なぜだ?洗濯してるやつだぞ? きれいだぞ?
「でもこれ洗濯してるやつだからね? きれいだから」
「いいことを教えてあげましょう。家事ができる人は服とか綺麗にたたみます」
なんて意識の高いことを言うんだ。たたむなんて高難易度なことを例にだしてくるとは。
「認めよう。家事は苦手だ」
「そんな貴方に朗報です。私が家事をやってあげましょう。炊事、洗濯、掃除なでもござれです」
なんだと!? そんな夢のようなこと言われるとは。
「い、いや、やってもらう理由ないし」
なんて魅力的なことを言うんだ。あやうく土下座で頼みそうになったぞ。
「何を言ってるんです? これは私の魅力を見てもらうためです。貴方のためにこれほど出来ますよというアピールです。やる理由はこれで十分でしょう?」
「残念だが最初はいいかもしれんが絶対あとで面倒なことになるじゃん。俺は家事やってくれるのは大歓迎だが、一方だけに負担がある関係は長続きしないと思うんだ。だから遠慮しとくよ」
「またも勘違いしているようですね。いや常識のズレのせいですかね。とりあえず一回だけまかせてみてくれませんか? そ・れ・に、私に任せてくれたら虫とお部屋でこんにちはすることはなくなりますよ?」
「それは本当でしょうか?」
「本当です。って今までで一番真剣!?」
当たり前だ。もう部屋に蜘蛛やゴキブリ、蚊とかが出ないなんて、奇跡だ! 人類には到達しえない理外の事象!
「貴方が神か?」
「そうです。私が新世界の神――ってそこまでじゃないですよ!?」
「お願いします!! どうか! どうか! 虫を根絶やしにしてください!」
「貴方虫に大事な人でも殺されたんですか? さっきから嫌悪感が尋常じゃないんですけど?」
「いや。そんなことがあったら人に頼むだけじゃなく自分から積極的に根絶やしにしようとするだろう?」
「対応に性格が出てますね。とりあえず、私に任せてくれるということでいいんですね?」
「お願いします!」
深々と頭を下げて頼む。こんなに心の底から頭を下げたのは生まれて初めてかもしれない。
「任せて下さい! ……ぐふふ。じゃあ、掃除が終わるまで家に来てください。さあさあ」
「なんかハイテンションで怖いんだけど」
「嘘ですね。早く早く、こっちです」
「うん。場所は知ってるから」
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