第2話 襲来

 以上が俺の一日だ。


 趣味が見つからない! いや、これ、無理でだろう。


 人と接する機会が全く見当たらない。


 取りあえず、次誰かと話す機会があれば出来る限り対応しよう。そう決心して問題を先送りにするしか思いつかない。


 十月三十一日。ハロウィン。今日も二限から授業があるので昨日と同じような行動だ。



 昨日と同じように大学へ向かう。しかし、ひときわ人通りが少ない所で曲がり角にさしかかったとき


「遅刻遅刻~」


 という声が上の方から聞こえた。


 見上げると野菜の星の人が乗ってそうな丸い宇宙ポッド?がつっこんでくる。うつむいて歩いていたからか、気づいたときには目の前だった。


 とっさに両手を前に出しで受け止めようとしてしまう。


「ぬおおおお!」


 驚きと気合が相まって大声が出てしまった。しかし、宇宙ポッドは大声を出している俺を小馬鹿にするように手に触れた瞬間ピタッと止まる。ありえない手応えだ。



 そうして驚いているうちに、宇宙ポッド?のハッチが開く。その中からロボが出てくる。形状はドラム缶に半球状の頭があり、手足はない。全体的に白色だが前面は黒色になっている。液晶画面みたいだ。そして、顔にあたる部分に『(*´ω`*)』という顔文字がある。



 いきなりのことに戸惑っているとロボが話しかけてきた。



「ハッピーハロウィン!貴方に結婚を申し込みに参りました。クレイブ、オア、グレイブ?」


「選択肢が聞いたことないやつなんだけど!? てか結婚!?」


「ええ、貴方に結婚を申し込みにきました。さあお返事は?」


 空から降ってきた初対面のロボにプロポーズされるなんて信じられないことに思考が停止しかかるが、とりあえず断らなければ結婚になりそうなので、なんとか言葉を絞り出す。


「そりゃもちろん断る!!」


「なぜですか!?」


「ロボ子は守備範囲外だからだよ!」


 もっといい言い方があったと思うがとっさだったのでこんな文言になってしまった。


「ご安心を! 私は超絶美少女になりますから! これで問題はありませんね」



 またもや頭のおかしいことを言いはじめた。本当にもっと考えて断ればよかった。いやしかし嘘か本当か分からんが超絶美少女か。でも明らかに頭おかしいヤツだよな、このロボ。


 うん、やっぱないわ。そうと決まれば早くなんとか断らねば。やはり興味がないことを毅然と伝えるべきだよな。



「美少女になるってどういう意味? しかも俺基準っていったよね? 教えて詳しく」


「美少女に対して飢えた獣のように食いついてきましたね」


 しまった。つい食いついてしまった。いやだって美少女なんて一生関わらないであろうレア存在を出されたら、炎の息の第三作で全裸結界師匠に師匠になってもらえなかった程の正直者たる俺が興味をもってしまうのも仕方がないと思う。


 それに次に話しかけられたらできる限り対応すると決めていたからな。自分の決意を裏切るわけにはいかない。


「いいでしょう。まず、私たちの種族の生態を説明しましょう。私達ムラムラは非常に多様性に富んでいます」


「待ってくれ。まず種族ってロボじゃないの? てか種族の名前ムラムラなの?」



 日本人からすると常に発情してるみたいな名前に聞こえる。



「私はロボの中に入っているだけです。種族名は色々あるのですが、あなたが発音しやすいのがムラムラなのでそう紹介しました。それで、多様性に富んでいるとは個体により大きく姿形が違うということです。そして、その違いが生まれる理由が今の私の姿にあります」


「いや『今の私の姿にあります』とか言われても。ロボに入ってるんだから今の姿分からないだけど」


「成程。出会ったばかりなのに生身の部分が見たいと? 破廉恥ですね」


「なんで生身の部分を見たいといっただけで破廉恥扱いされるんだよ」


「それは生身を見せろは、貴方達でいう裸を見せろに相当するからです」


「なんで裸見せろに相当するんだよ。ロボの中では全裸なの?」


「まあ、そうとも言えます」


「ファッションセンスすごいな。パリコレとか目指してる系?」



 裸ワイシャツは聞いたことあるが、裸ロボットは初耳だ。いや、待てよ。パワーアーマーは一応ロボット扱いでいいよな?そうなら裸にパワーアーマーは同じ扱いか。なら初耳じゃないかな。俺がやってたゲームで、下着の上にパワーアーマーを装着することはあった。確か薬物中毒のグールの好感度を稼ぐために下着になっていたはずだ。



「目指してませんよ。センスでこの格好しているわけではありませんよ。今の私の姿だとこの格好しか選択肢がないんですよ」


「なんで?」


「それをさっきから説明しようとしているんですよ。真面目に聞いて下さい」


「おう」



 話がそれたのはこのロボ子が俺のことを破廉恥扱いしたからだと思うが。冷凍保存されていた主人公の下着姿でグールの好感度稼いでた俺のことを。……人の話は黙って聞くべきだよな、うん。


「私達ムラムラは、子供のときは親と同じなのですが、大人になる前に蛹のようになります。そして、大人は子供のときとはかなり違った姿形になることができます。そして、私はここでいう蛹の時期に当たります」


「成程。ロボの中は蛹なので服など着ていないから全裸みたいなもんだと?」


「そういうことです」


「大人になるときに姿が大きく変えられるから、これから美少女になると?」


「その通りです」


 これで美少女になると言った意味が分かった。だが同時に疑問が出てくる。


「それって自分のこれからの姿を決めるかなり大事なことなんじゃないのか? それとも自由に姿を変えられるのか?」


「いいえ。大人になるときの一度だけですね」


「その大事な機会をどうして俺の基準に合わせるんだ?」


「それはもちろん、貴方にプロポーズを受け入れてもらうためですよ」


「そこが一番の疑問なんだ。なんだって俺にプロポーズを?」


 俺が他人と違うことなんて



「それは貴方が最も能力の高い超能力者だからですよ」



 ……一つだけあったわ。俺は一応超能力者だ。

 どうする?誤魔化すか?いやもう完全にばれてるよな。なんで分かったんだ?……思い切って聞いてみるか。



「なんで俺が超能力者だと分かったんだ?」


「ん? そういえば地球人は見ただけで超能力者か分からないんでしたね。なぜ分かったかというと種族の能力的に見ればわかりますし、見なくても判定できる技術ももっているからですかね」


「筒抜けなのかよ。……最も能力が高いと思ったのはなんでだ?」



 俺は自分以外の超能力者にあったことないのでよくわからないのだが。



「超能力を使うと疲れますよね? それは超能力の元となる力、思念波が少なくなるからです。能力が高いと判断したのはあなたの思念波が桁外れに多いからですね。」


「へ? え、そうなんだ?」



 俺、超能力で疲れたことないんだけど。もしかして変なのか?



「そもそもなんで超能力者と結婚しようと思ったんだよ?」


「ムラムラは蛹の形態を経ることによりどんな種族とも交配可能です。なぜこのような生態になっているかというと進化のためだと言われています。選んだ種族と子をなすことにより、子供にその特性が受け継がれます。そして、貴方達地球人は超能力に非常に多様性があります。よって、その特性を取り入れるために非凡な超能力をもつ貴方に目を付けたのです」


「でも俺一つしか超能力使えんぞ。選択ミスじゃないか?」



 しかも役立ち方が地味なんだよな。便利は便利なんだけど。



「違いますよ。地球人全体でみて多種多様な超能力が使えるのが素晴らしいのです。普通同じ種では、同じ超能力しか使えませんからね?個々で使う超能力が違うなどかなりの希少存在です」


「まあ、超能力者と結婚したいのは分かったがいきなり結婚してくれと言われてもな。いくら美少女になるといえど遠慮したいな。ほら、宇宙ポッド?みたいなので轢き殺されそうになったし」



 よし。断る原因を過去の相手の行いのせいに出来た。これで断れたよな。



「え? あれは地球人男児の憧れのボーイミーツガールでは?」


「どのへんが!?」


「なに言ってるんですか? 『空から降ってくる女の子』と『登校中に曲がり角でぶつかる女の子』と足した最高峰の出会いだってでしょう? 地球人、特に日本人が好む出会い方は学習済みです。あ、当然怪我をさせないように細心の注意を払いましたからね?」


「文化の誤解甚だしいな! 漫画やアニメで学習しちゃったか……。それにしてもなんで二つ足したの? うまいものとうまいもの足して超うまいものになるわけじゃないからね? カレーとハヤシライス足すようなもんだからね?」


「え? なにか間違ってました? ラブロマンス始まらない感じです? 私になにか惹かれてません?」


「そうだな。普通に轢かれそうになっただけだな」


「むむ! ですがこれは恋人同士くだらないことを言い合いじゃれあっている状態では?」


「違うよ。引かれているんだよ。いい加減失敗したのを認めようや」


「むう……。分かりました。出会い方を間違えたのは認めましょう。で・す・が、私尽くすタイプですよ? 一か月後には『もうお前がいなければ生きていけない。結婚してくれ!』って言うようになりますよ?」


「ならないよ。もうそれ洗脳じゃん」


「流石に夫を洗脳しようとはしませんよ。……できますけど」


「できんの!?」



 怖いんだけど。恋愛的じゃない意味でドキドキが止まらないんだけど。



「まあ催眠的な洗脳ですけどね」


「わかった。話を聞こうじゃないか。だから催眠とか止めてね?」



 話は通じるようだし、ここは穏便に話し合おう。やっぱ人間話し合いが大事だよな。……普段話し合う友人とかいないが。



「おお! ようやく前向きになってくれましたか。……くっ、出会い方を間違えなければすぐに話を聞いてもらえていたかもしれないのに」


「そうだな。最初から普通に会いに来てくれたらもう少し素直に聞けたと……ん? っておい! もうこんな時間じゃん。授業遅れそうだわ」


「ええ!? これからというときに! 知り合いに代返してもらうとかノート見せてもらうとかでなんとかなりません?」



 会ったばかりだからか、戯けたことを言いよる。教えてやろう。




「我が生涯に一遍も友無し!!」



 不思議とできないんだよな。生粋のボッチなんだ。いやここはボッチの天才と言うべきか?



「ア#痛痛痛痛痛痛__タタタタタタタ__#……うん。じゃあ、はい、あの、授業終わりに話しませんか?」


「嫌だよ。ロボがいたら注目されるだろ。てか、明日にしてくれない? もう喉が限界なんだけど? いつも一日の会話が『温めますか?』に対して『いいえ』くらいしかないから喉しんどい」


「……ぐす。そうなんですか」


「ああ……ってことでじゃあ」


「はい。


 できる限り対応したが、これが限界だ。なんでいきなり宇宙人来るんだよ。


 次に会う約束もしたし、これでいいだろう。


 なんか最後憐れまれた気がするがまあいいか。さて、遅れないように少し急ぐか。


 それにしても久々に人とがっつり会話したな。疲れたがなかなかに楽しかった。

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