第23話 醜貌恐怖のエキストラ

 星華絵は、よく知らないが、素晴らしい香りをまとっていた。


麝香じゃこう、という香水の成分は、媚薬として有名だが、嗅いだことはない。マスクメロンというのがあるので、あのちょっと高級ぽいいい香りに似ているのかと思っていた。そういうロマンチックな香り?またはラベンダーの甘い感じにも近い芳香だ。


「実はね。今撮影している映画の中に、ちょっと変わった役があって…」

「今はまた新しい映画の撮影中?」

「クランクインしたばっかなんだけど、〝サイキアトリック・フリーキー〟ていう芸術映画でね、色んな精神の病気の人が織り成す人間模様というか…」


星華絵≒田所みゆきは、俺のためにオレンジジュースを頼んでくれた。華絵自身はハードスケジュールの合間らしくて、イタ飯?ぽいパスタとスープを食べながら話していた。


「ちょっと悪趣味なくらいにたくさん色んな精神のビョーキのタイプが描写されて、それで異化効果?現実とか常識に揺さぶりをかけて、人間の真実って何だろう?そういう問題提起をしているわけ。…昔にエレファント・マンていうのがあったけど、あれも結局このフリーキーな人物と周りの正常な、意地悪い人々のどちらが真実らしい人間か?ていうテーマよね。結末ではエレファント・マンが「僕は人間だ!人間だ!」て叫んで…」


 姉の長広舌に付き合っているとキリがないのは経験で知りすぎるほど知っているので、俺はいい加減に遮って話の要点を聞き出した。


「…でね。そのちょっと歪んだ人物群像の中に〝醜貌恐怖〟の高校生がいるのよ。その役をハヤトに演じて欲しいわけ」

姉はニッコリした。


俺は仰天した。


「えええええ?!俺に映画に出演しろっていうこと?!」


本当に〝青天の霹靂〟だった。


「私は知ってるけどハヤトはまあ、典型的なニキビコンプレックスで、醜貌恐怖も強いわよね。そういう葛藤に悩んでいて、人生が反古になってしまう人もいるけど、あなたにはそうなって欲しくないのよ。で、まあ東京児童劇団に子供を入れるママみたいに老婆心を発揮しようと考えたわけ。どう。出演してくれる❔」


 女神かと見まがう、若い輝くような美女の”老婆心”に、おれは心底困惑した…


<続く>

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