第17話 LINEの綾取り

 

 姉にLINEで送った「㊙扱い文書」は、なかなか”既読”がつかなかったが、3日後にようやく少なくとも姉の眼には触れたらしい。

 送ったLINEの内容はというと、例の「時空を超えるマーメイド」という姉の主演映画の感想と、姉の演じた「クリオディーネ」という人魚の女王へのラヴレターである。

 大っぴらに姉に”愛の告白”をするわけにはいかないし、まだ時期尚早でもあるので、遠回しに、ちょっと術策を弄して”禁断の告白”をしようと思ったのだ。

 姉の反応から、少なくともどういう感情を、おれという人物に対して抱いているかの手がかりくらいは得られるはずだろう…昔の言葉でいうとそうして「測鉛を垂らして」みたのである。


… …

 「 姉さん、姉さんが主演した『時空を超えるマーメイド』、拝見させていただきました。素晴らしかったです。姉さんの主演映画は、いやテレビやドラマに至るまで、目の行き届く限りは全て見させていただいていますが、女優・星華絵の一作ごとの演技力や表現力、せりふ回しやそのほかのもろもろのパフォーマーとしての資質、クオリティーの、進境著しい、長足の成長ぶりは、あまりにも素人の僕の眼にも鮮烈かつ歴然としていて目が眩むような感じがします。

「ザ・スター」・星華絵が運命の女神に導かれて、ゲーテの言う「薔薇ならば、花開かん」そのままに大輪の花を咲かせていく輝かしいプロセスヘのリアルタイムなアクセス…つまりなにか同時代の最大の、素晴らしい歴史的なイベントに立ち会って、証人としてそれを目の当たりにしているような、一期一会の奇跡…そういう幸福な巡りあわせにむしろ厳粛なくらいの感動を覚えます。

 つまり、僕は人類の歴史上空前絶後で、寧ろ最終的な究極の女優、パフォーマーの完全形の臨月、誕生前夜に立ち会っている…大げさに言うとそんな何だか身震いしそうな興奮を、実の姉なのに、いやだからこそ?星華絵の映画を観るたびに覚えているのです。

 星華絵はもうほとんど、存在としてアイドルとかアクターとかそういうちゃちな次元を超越していて、”神の領域”に肉薄しています。類稀な才能が、表現芸術としての「映画」というものにすべてを捧げ尽くして、その天才の可能性を完全に解発して、ほぼありえないほどの成功を収めて、誰にもまねできないユニークな、ある芸術家という神々しい存在の極致、典型となって、そういう完璧な自己実現を成し遂げつつある、かなり大袈裟ですが、単なるアクターとかスターとかそういう概念を超越した、新しい”美と愛とアートの化身”、そういう形容不能の女神の受肉がやがてボッティッチェリの描く誕生したビーナスのように立ち現れるのでは?僕は熱のこもった期待をしつつ姉さんを熟視ウォッチし続けています。どうか精進して頑張ってください!


   …クリオディーネに捧ぐ…


 僕は貴女に恋している

 生まれて初めての本当の恋

 恋のときめきを、その甘い果実のようなかぐわしさ、みずみずしさを

 僕は知り始めたばかりだ

 むしろそれは「禁断の果実」だから妖しいくらいに魅惑的に美味だ


 恋を知らない頃にはもう戻れやしない

 楽園を追われたアダムの末裔

 人魚姫の声は失われて

 そうして恋は永久に波間に泡と消えた

 叶わない、悲しい恋だから美しい

 儚い夢だけが現実…

 人魚の下半身の、虹のように輝くうろこのように

 失われた美麗な夢を追い続けるだけの今の僕にとっては…

 


<続く> 




 





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