第5話 姉との思い出
おれは姉のみゆき、星華絵に、つまりぞっこん惚れ込んでいる。
はっきりとは書いていなかったかもしれないが、この恋心…岡惚れ、横恋慕、横紙破り、邪恋、はホンモノなのである。地上最大のブサイクかもしれないおれがすでに歌舞音曲演劇の芸能を競うギョーカイで不動の地位を築いているトップ女優、日本一のアイドル、日本中でもはやその名前を知らないもののない「ザ・スター」こと星華絵に恋するとは、いろいろな意味であまりにも身の程知らずが過ぎる、
自分でもそう思う。だが、おれにはおれの主観的な事情というか、姉でなければならない理路整然とした論理的帰結があるのだ。人にはわからない。
…憧れの姉貴のことを思うと、胸が激しく鼓動して、全身が熱くなる。なかんずく言葉を交わすときにはしどろもどろになって、つい項垂れて俯いたりしてしまう。なんといってもおれはまだ童貞なのだ。
思わず気圧されて下を向く…と、そこには豈はからんや、姉貴の豊満で形のよいバストが堆く盛り上がって、蠱惑的に存在を強調していて、目のやり場に困り、卒倒しそうになる。
同じ屋根の下に生活しているからどうしてもこういう「第三種接近遭遇」は頻発せざるを得ない。
なんだか知らないが高級そうなパフュームの薫りをさせている、「美」という概念の化身のような姉貴は、むんむんと女の色気を発散させていて、思春期のおれには刺激が強すぎて、眼の毒なのだ。姉でなければ思い切って「交際してください」と告白することもできるが、つまりはインセスト・タブーの禁断の果実で、それゆえ甘美に感じるのだろうが、さすがに恋心をすぐさま打ち明けることはままならない。当たり前である。姉貴も面食らうだろう。
で、おれは秘かな姉貴への思慕の念を、もう1年近く心中の奥深くでじっと、雌鶏がタマゴを温めるがごとくに温め続けていて、ほとんど、日々募っていくばかりのその焦がれるような恋心は、もはや破裂しそうに膨らみきってしまっているのだ。
もちろん姉とおれとは年の離れた実の姉弟で、二人の幼いころから一緒に過ごしてきた血族で、たくさんの懐かしい思い出がある。
例えば、昔から秀才だった姉は、おれが夏休みの宿題に四苦八苦している夏休みの終わりの日に、「ちょっと見せなさい」とノートを取り上げると、半時間もかからずに全教科をコンプリートしてしまったことがあった。で、全問完璧に正解していた。
姉は運動神経も抜群だったので、徒競走や組対抗のリレーでも花形選手で、いつも先陣を切り、景品のノートやシャーペンとかとかをゲットしていた。万年ビリッケツのおれは、「次は頑張ってね」と姉に優しく言われて、景品をもらうのが関の山だったっけ…
いじめられっ子だったおれのために、姉はひとりでいじめっ子たちに立ち向かっていってくれたこともあった。全身砂だらけ、傷だらけになりながら、姉は腕白坊主5人を屈服させて、おれに頭を下げさせてくれたっけ…
姉貴はいつも勇敢で、聡明で、優しかった。
弟でも出来の悪いおれを気遣い、庇ってくれた。
おれは姉が固いつぼみからだんだんに美しく成長していく様子をまじかで目撃していた。愛らしい少女、無邪気な妖精が、オンナになっていく不思議なプロセスをリアルに観察していた。やがて姉は予定調和のごとく大輪の花を咲かせた。芋虫から華麗なアゲハ蝶にメタモルフォーゼしたのだ。
そうした、なんというか一種の奇跡のような、生命の秘蹟?というか運命的な、姉という大女優の誕生との偶然の、不思議な継時的なシンクロが、姉の成長をつぶさに観察していたところの、弟であるおれにとってはだから「神の啓示」のごとくに、生まれる前からそう決まっていたかのように自然に、姉という最も禁忌の存在と「実際に結ばれる」ことを希求してしまうことになったのである。
おれにとって、今や姉貴は自分の「いのち」より大事な、唯一無二で空前絶後で前代未聞の…要するに言葉では言えないくらいに「好き」で「愛している」、瞼の恋人なのである…ぷぷっ、だけどこれも古いかな?w
<続く>
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