第3話 姉の長広舌
おれの、超美貌で、24歳にして国民的人気女優の地位を早、不動のものとしている、星華絵こと田所みゆきが、綺羅星のような、少女漫画のヒロインのような眼を見瞠って、おもむろにしゃべり始めた。
「ハヤト、貴方の肌の汚さは今に始まったことでもないし、皮膚科を7件はしごしても手の施しようがないというなら諦めるほかないわね。我が家の平均的な中流家庭としての品格や美観が著しく損なわれるけども、それも良しとしましょう。人間万事塞翁が馬、禍福は糾える縄の如し、これからの人生でコンプレックスを向上心にサブリメイションできればいいんだから、奇貨居くべし、寧ろ困難な状況に積極的に感謝すべきかもしれない。女の子にはモテないだろうし、どうしても内向的になって、あとあとまでそのトラウマが精神のゆがみとして祟るという可能性もある。でも、コルク張りの部屋に籠って二十世紀最大の小説を書いたマルセルプルーストだって、普通の人生を送っていたら後世に名を残すような作家にはなれなかった。ヘレンケラーも三重苦だったから偉人になれたんです。要はあなたの決心と覚悟です。肌について徹底的に研究して、美容の専門家とか皮膚科医にになってもいいじゃないの。肌の色が黒かったからこそ、ジャッキーロビンソンもキング牧師も偉大な人物として崇められる存在になれたんだから…兎に角勉強だけは頑張らないとね。日本語の読み書きや基本的な思考能力を若いうちに鍛えておかないと絶対に立派な社会人にはなれない。ゆとり教育なんてのは天下の愚策で、馬鹿の発想です。大いにガリ勉して東大の首席を目指しなさい。自分に自信がなければ何をやっても失敗します。ニキビごときに前途を閉ざされてはご先祖様にも顔向けできないでしょ?絶対にへこたれずに、石にかじりついても大成功者になって自己実現しなきゃダメよ!」
最後は姉は名優らしく、ボロボロ涙を流していた。
俳優だからつい普段の演技癖が出てしまうのだろうが、それにしても全く、アドリブとは思えない、迫真の名演技、怒涛のような長台詞だった。
おれもつられてもらい泣きをしていた。
姉の一世一代の名演技で、険悪になりかけていた雰囲気はむしろ和やかになり、家族はまた仲睦まじく、おれや姉の将来の夢などを語り合った。
おれの秘かな姉への思慕の念は、姉のおれへの深い「愛」を思い知らされて、さらに確かなものになるのだった…
<続く>
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