第4話 木曜日「社会の授業」
始業のチャイムがなり、3時限の授業が始まった。
井澤「はい、授業をはじめますね。その前に・・・・」
井澤先生は少し変わった先生だった、東大卒でこんな公立高校の先生をやっているだけで十分変わり者なんだけど、授業中にいろんな面白い話をしてくれて生徒たちの評判は良い先生だ。
井澤「えーと、このクラスは優秀で、テスト範囲がもうほとんど終わってしまっています。他のクラスと足並みを揃えたいので、しばらく特別授業をしたいと思っていますがどうですか?」
「はい」
一人の生徒が挙手をした。
井澤「はい、朝倉くんなんでしょう?」
朝倉「えーと、じゃあテスト勉強の為に復習っていうか自習したいんですけど」
井澤「うん、いいですよ。特別授業は受けたい人だけで良いですよ。自習をしたい人は復習やテスト勉強、なんだったら不安な教科の勉強をしても良いですよ」
朝倉「あざーす!今回がんばるね!先生!」
井澤「うん、がんばってね、期待してるよ〜。他に何か質問ありますか?」
小林「はーい、どんな授業ですか?途中から自習に変えても良い?」
井澤「内容は今から説明しますね、そうですね、つまらなかったらいつでも自習に変えてもよいですよ」
井澤「では、特別授業の説明をしますね。
えーと、皆さんは来年から国から選挙権を与えられます。そこで、みんなと一緒に、選挙や、民主主義について少し考えてみたいなと先生は思っています」
矢澤「選挙ね〜」
井澤「はい、まず先生から質問です、みなさん今の日本の民主主義についてどう思いますか?」
菅原「はーい!なんかアメリカの大統領選挙みたいに、総理大臣を選ぶ選挙があればいいのになーっておもってます」
井澤「そうですね、なかなか良い意見だと思います」
高木「はい、政治家って悪いことした時にニュースになるから、良いことをしてるイメージがないから、みんな悪い奴ってイメージ」
井澤「あはは、確かにそうですねー」
小林「TVで話してるの見ても何言ってるかよくわかんないし・・カリスマ性?みたいなのがないから、あんまり言うこと聞きたくないっていうか、どうでも良いやって感じ」
井澤「なるほど、じゃあちょっと質問かえますね。
もし日本が民主主義国家じゃなくなったらどう思いますか?」
佐藤「えー、嫌じゃない?北朝鮮みたいってことでしょ?」
鈴木「中国もロシアも同じようなもんじゃね?怖いよね」
鮫島「バチカンとかもあるけど・・・よくわかんないよな、バチカンって」
井澤「バチカン!そうですね、バチカンはローマ教皇が治めている国家ですね。」
渡辺「教皇ってなに?王様みたいなもん?」
岡本「王様ねぇ・・・王室ってことでしょ?いま実際に政治はやってないでしょ?」
渡辺「王様もあんまり良いイメージないよね〜歴史の授業とかみて暗殺とかされるし」
井上「な、結局権力に溺れるっていうか、最終的に民衆に倒されるイメージだよな」
井澤「どうですか?民主主義の良さを学ぶ為にも、王様を作ってみるのは?」
???
井澤「そうですね・・・この後何回かこの授業やるつもりだったんですけど、どうですか?1ヶ月くらいの間、このクラスだけのルールを王様に決めて従ってみる。まあ簡単な実験ですね」
桜井「面白そう」
井上「誰が王様になるの?」
井澤「少し先生が考えていたのとは変わってしまったのですが、どうですか?やってみませんか?」
岡本「まあ、いいっすよ」
井澤「では、参加したい人だけで良いのでやってみましょうか?」
井澤「まず王様を決めましょうか。誰か王様になりたい人いますか?」
佐藤「はい」
井澤「あっ佐藤くんやってみますか?」
佐藤「いえ、そうじゃなくって。質問なんですけど。王様ってどんな感じですか?」
井澤「そうですね・・・・王様なんで、絶対的存在ですね。王様に逆らうことはできません。王様が決めたことは絶対です。でも、良い王様なんで市民、国民。今回の場合はクラスのことを第一に考えてくれる方ですかね?」
鮫島「なんか責任重大じゃね?」
井澤「まあまあ、実験ですので軽く考えてください。みなさんが民主主義の大切さを考えてみるっていうのが目的ですから。
高木「とはいえなぁ・・・・・」
井澤「では、みなさんどんな王様が良いと思いますか?」
小林「王様だし、やっぱカリスマ性は必要じゃね?」
桜井「そうだね、みんなに愛されるキャラ?」
折原「猫とか?」
笑
桜井「あはは、猫いいね!猫の王様。何しても許しちゃいそう笑」
矢澤「猫じゃ何も決めれないだろ。そもそも俺たちの言うこと理解できないだろ」
渡辺「何、マジになってんだよ笑。冗談でしょ」
前原「でもよー、今の総理大臣だって俺たちの話なんてどうせ聞いてくれねえんだし、猫でもそんなに変わんねーんじゃね?」
岡本「たしかに。猫ならしょうがないって思うよね笑」
佐藤「俺。。。犬派なんだけど・・・・」
生徒たちの話が脱線しかけてきて先生は話の流れを戻すかと思っていたら。
井澤「良いですね。面白いアイデアですね!猫の王国。やってみましょうか」
高木「え?猫っすよ?意見言えないから何も決めてくれなくないですか?」
井澤「今、みんなの話を聞きながら先生思い浮かんだんですが、こういうのはどうでしょう?まず、何か議題を作り2つのうちどちらかが良いかみんなで議論した後、多数決をとります。たとえば決が多かったほうをAとして、少なかった方をBとします。」
「そして、どちらかにするかは王様に決めてもらいます。確かに絶対王政の独裁政権は市民や国民の反感を大きく買う可能性があるので、一度市民もしっかり議論をした後にその結果を王様に委ねる。先生が今ちょっと思いついた、民主主義を取り入れた王政です。いかがですか?猫の王様は二択をするだけです。」
朝倉「先生!」
井澤「はい、朝倉くんなんですか?」
朝倉「なんか面白そうだから、自習やめてこっちに入りたいっていうのと。あと、議題に対して二択ってあれだと思うんですよね。『どっちでもいい』って選択肢があったほうが良いと思んですけど。というか王様決めちゃうんならそもそも話し合う必要なくないっすか?」
井澤「一度話あって決をとるのは民主主義というか、民意はどちらにあるか?を決めてからのほうがこの実験は面白いかな?と思ったからです。
『どちらでもよい』確かにそれはそうかもしれませんね。しかし・・・それだと王様がどっちでも良いという選択をすると、議題の解決はできないですね・・・・」
矢澤「じゃあ、王様がどっちでも良いっていったら、決が多かったほうにするってのは?」
大沢「でもそれじゃ、三択じゃなくね?多数決の結果が3分の2で有利じゃん」
井澤「いいですね。興味深い議論ですね。しかし・・・今回は王政とはどんな物なのか?民主主義の大切さを学んでみよう。という主旨にしたいと思うので、王政はある程度理不尽に設定しましょう。ということで、今回は二択にしましょう」
桜井「せんせーい。で、王様は結局だれがやるんですか?」
井澤「はい。先生が猫代わりをやっても良いんですが、せっかくなんで本当に猫にやってもらいましょうか。幸いというか、偶然というか、先生、猫を飼っているので、先生の家の猫でよかったら、みなさんの王様になっていただくという事でよろしいですかね?」
鮫島「え?学校に猫を連れてくるんですか?」
渡辺「っていうか、猫がどうやって決めんすか?」
井澤「はい、校長先生に相談してみます。たぶん授業の一環といえば大丈夫だと思いますが・・・・そうですね、次の授業まで家の猫と相談して決めておきますね」
「あっ猫アレルギーの方はいらっしゃいますか?いたら別の方法を考えますけど・・・いなそうですね、ではまた次回」
休み時間
桜井「井澤ってやっぱちょっと変わってるよね。学校に猫連れてくるつもりだよ笑」
高木「まあでも普通の授業より楽しそうだからいいんじゃね?」
岡本「どんなルール決めんだろ?」
佐藤「実験っていってたし、どうでも良い事でしょ、議論と決め方が大事っていってたし」
次の社会の授業
井澤先生は本当に猫を連れてきた。
猫が入ったキャリーをおくと
井澤「おはようございます、先日話した通り今日から王様を加えた特別授業を始めたいと思います。
桜井「かわいー」
井澤「えーと・・・前回言い忘れたのですが、見ての通り三毛猫でして・・・メスです。ということで、女王様ということになってしまいます」
高木「いいねー女王様!!!」
岡本「女王様の名前はなんていうんですか?」
井澤「はい、アタルヤちゃんと言います。まだ2歳なんで・・・人間だと23、4歳と言ったところですね、だいぶ若い王様ですね・・・・」
佐藤「いいじゃん、若いほうが。日本の政治家なんてジジイばっかだし」
井澤「では早速、まずはみなさんに話し合いをしてもらいましょう。議題は・・・・『イジメにつながる可能性があるので、あだ名で呼ぶことを禁止するべきか?しなくても良いか』です」
鮫島「なんだ・・そんな事か・・・・」
井澤「今日の議会の結果を参加したみなさんには1ヶ月守ってもらおうと思っているので、これくらいが丁度良いんじゃないかと思いましたが?どうでしょうか。」
渡辺「そうだね、そんくらいなら・・・」
井澤「では、議長はわたしが勤めさせていただきますね、なにか意見がある人いらっしゃいますか?」
菅原「はい!あだ名でいじめって、それ小学生とかの話だと思うんですよね。俺たち高校生だし、そんなレベルのイジメはしないし、別にあだ名とかいいんじゃないですかね」
井上「まあ、そうだよね、流石に『ブタゴリラ』とかつけられたら嫌だけどね笑」
桜井「うーん、でもさ、まあ冗談ってわかっていても私『残念巨乳』って男子に言われてるの結構いやだけどね」
渡辺「っていうか、今呼ばれてるあだ名が嫌だって言う人に意見をきいてみるのが手っ取り早くね?」
篠原「わたし・・・『BLちゃん』って陰で言われてるのあんまり好きじゃない・・・・」
佐村「僕も『サムライ』のくせに・・・って言われるはあんまり・・・・」
佐藤「でもよ悪気ないんだぜ、『サムラライト』だから『サムライ』。キムタクみたいなもんじゃん」
井澤「なるほど、他に何か意見がある人はいますか?」
折原「私自身は正直どっちでも良いんだけど、嫌がっている人がいるんなら、その人達の意見を尊重したい。って思う」
新谷「俺も折原と同じ意見。禁止したって言う側にデメリットないし、言われる側はメリットあるんだから、禁止したっていいんじゃない?」
井澤「じゃあ、そろそろ決をとりましょうか。どうします?挙手でも平気ですか?」
岡本「別にいいっしょ」
田中「大丈夫でーす」
井澤「そうですか。では挙手で行きますね。あだ名は禁止に賛成の人・・・・1・2・・・・28人・・・ほとんですね。一応禁止しなくて良いって言う人・・・・5人。あら・・全員参加してくれたんですね。では、このクラスの民意は『あだ名禁止」ですが・・・・」
「今からアタルヤ女王が判断を下しますね」
桜井「どうやって?」
井澤「いろいろ考えたんですが・・・・」
そういって井澤先生は、紙コップとサイコロを取り出した。
井澤「この紙コップの中にサイコロを入れます。アタルヤ女王の前でこの紙コップをフリフリすると・・・アタルヤ女王は猫パンチをかますんですよ。紙コップは吹っ飛んでしまうんですが、中にあるサイコロも一緒に振られるわけです。それで、奇数なら選択肢1、偶数なら選択肢2といった形で決定してもらおうと思います。今回選択肢1はあだ名禁止、選択肢2は禁止しなくて良い。という形で決めたいと思います」
大沢「おもった以上に適当な決め方なのね・・・・」
井澤「暴君ですからね。民意を無視しちゃうかもしれないですね笑」
「では、アタルヤ女王おねがいします」
井澤先生はアタルヤ女王をキャリーから出し、紙コップを教壇の上で振り始めた。
・・・・・・・・・・・
ぱんっ!!!
アタルヤ女王の猫パンチが炸裂し、紙コップごとサイコロが吹っ飛んだ。
サイコロはコロコロ転がり・・・・
・・・・・・・・・
5
奇数だ。
井澤「5。奇数ですね。ということで、このクラスで1ヶ月あだ名を禁止と言うことになりました」
高木「先生、やぶったらどうなるんですか?」
井澤「ああ、そうですね・・・どうでしょう?選択肢1『1週間トイレ掃除当番』選択肢2『1週間教室掃除当番』くらいで?」
岡本「いいんじゃないっすか?そんなもんで」
井澤「じゃあ、アタルヤ女王お願いします」
ぱんっ!!
・・・・・・・
3
井澤「3ですか、また奇数ですね。ということで破った方は『1週間トイレ掃除当番』という罰が与えられます。気をつけてくださいね」
「はーい」
井澤「はい、あと5分ですね。あとは自由にして大丈夫です。どうでした?選挙や民主主義に少しは興味は持てました?」
鮫島「まあ・・・少しは?」
井澤「では、次回からはまた普通の授業に戻りますね。でも、1ヶ月は守ってくださいね」
「はーい」
休み時間
桜井「アタルヤちゃん可愛かったねー」
折原「うん、毎回連れて来てもいいのに、なごむ」
新谷「でもよ・・・あんな緩い議題と、緩い罰だったから良かったけど・・・もっとなんていうんだろう。もっと難しい議題できつい罰だったら、やっぱ猫には決められたくないよな・・・」
高木「たとえば?」
新谷「いや話でかくなっちゃうけどよ、例えば徴兵制度の復活とか、逆らったら捕まるとかさ・・・・」
高木「いやいや、話飛躍しすぎでしょw」
放課後
井澤はキャリーを持って家に向かっていた。
「あれ奇数しか出ない方のサイコロだったよね?なんで奇数にしたの?私を暴君にしたかったんじゃないの?笑」
「いや、生徒の議論を聞いていたら、あの結果が良かったと思ってね」
「人間っぽい意見ね。まあ井澤のそういうところ好きだけど。」
「人間っぽいかな?」
「そうね、私たちからみたら情に流されるとか理解に苦しむわ」
「こわいなぁ・・・」
「何言ってんのよ、この国だって・・・・・」
次の日の朝、折原宅
折原は朝食を食べながら朝の情報番組を見ていた。
『次の話題です。田中総理大臣のインスタグラムが話題になっています。』
『田中総理と愛猫のネロちゃんと一緒に映っている写真が可愛いとネットで話題です。このネロちゃん、三毛猫ではとてもめずらしい雄ということらしいですね。』
『いやぁ、和む写真ですね』
『総理もネロちゃんの前では骨抜きですね』
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