小説2
彼女が亡くなってから四ヵ月、年度が替わり進級した俺は高校二年生となっていた。
頬を差す冷たい空気は和らぎ、澄んだ空はほんの少し濁りを帯びる。
気候や人々の面持ちの変化は明らか。ただ冬と春で価値が変動しないのはベットだろう。冬は早朝の冷え込みに体温で暖められたベットの中は安息の場。春は春で春眠暁を覚えずでこれまた安眠の場、ベットに恋する気持ちは変わらないのだ。
かくいう俺もベットに恋煩う内の一人だ。だからさっきから枕元で鳴り響くスマホのアラームが鬱陶しくて仕方がない。
「あーもう、うるさい」
掛け布団をのけ、アラームを解除した。体の疲れはとれているはずなのに心的疲労を感じるのは、あの不思議な夢のせいだろう。
床に足をつけ、陽の光を取り込むべくカーテンを開ける。
差し込む春の朝日は寝起きの俺には刺激が強く、無意識に目を細め逸らす。
「――ん?」
と、逸らした視線の先に誰かがいるのがわかった。
霞む視界を鮮明にさせようと寝ぼけ眼をこする。そして視界が晴れその人物を視認した時、眠気は一瞬にして吹き飛んだ。
「うそ……だろ……」
どう願ったて二度と会うことの叶わないはずの……幼馴染の彼女がそこにはいた。
意識ははっきりとしているはずなのに、理解不能な現象を目の当たりにして脳が上手く働かず思考が停止する。今の俺の顔はさぞ驚愕に歪んでいるだろう。
必然か偶然か、不意に彼女と目が合った。すると彼女は控えめに手を振って優しく微笑んだ。
見慣れていたずの笑みは随分と懐かしく感じる。それもそのはず、彼女は四ヵ月前に亡くなっているのだから。
俺は開けたばかりのカーテンを再び閉ざす。恐怖からくる突発的な行動だ。
あれは、何だ? 幻覚か? そてとも瓜二つの別人……。
彼女の存在が映らぬよう強制的に遮断した俺はようやく思考が回り、考えが浮かぶ。けれどそのどれもが憶測に過ぎず、そもそも自分自身が納得できてない。幻覚にしてはやけに明瞭すぎたし、明瞭だったからこそ別人には見えなかった。
ふと、機械的な音が後ろから鳴り心臓が縮みあがる。振り向けばなんてことない、枕元に置かれたスマホが振動しているだけ、神経過敏になってしまっているようだ。
振動の長さからして着信だろうか…………思うように体が動かず、鳥肌が止まらない。タイミングからして嫌でもいるはずのない発信者を想像してしまう。
身動きできず立ち尽くしていると、やがて鳴り止んだ。同時に身を縛る枷は外れる。
恐る恐るスマホを手にして画面を点ける。LINEの不在着信が一件、その相手のアカウント名に息を呑んだ。
そのアカウントは幼馴染の彼女が生前使用していた、俺が削除したはずのものだった。
繋がること事態あってはならない。だがこうして繋がってしまっている、世の理に反している。
震える手で操作し、LINEを起動する。トークの上部に表示されているのは彼女のアカウント。俺はそれをタップした。
トーク画面には不在着信の知らせのみだと思い込んでいた。しかし現実は違う……いや、もはや今が現実であるかどうかすらも怪しくなってきている。いっそ夢ならば、このふざけた茶番にも笑えたかもしれない。
トーク履歴は不在着信のみならず、何度も上にスクロール出来てしまうほどのやり取りが交わされていた。
……どうして――どうして昨日も一昨日もやり取りされてる事になってるんだ!
身に覚えのないトーク、それは彼女がこの世に存在しない空白の四ヵ月間も、それ以前も履歴が残されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます