第43話 変容

「いつまで黙っている気だ? そこのメイドに殺されたいわけじゃないだろ」

「…………」


 反応なし。いや、待てよ? 怪我が原因で弱っている可能性もあるな。


 俺は暗殺者の足に刺さったナイフを引き抜いた。


「んっ」


 褐色の肌がビクリと震え、傷口から流れ出る赤黒い液体が勢いを増す。そんな中でもダークエルフは無表情を貫いていた。


「我慢強いな」


 足の傷を治してやる。


「…………」


 女が眉根を寄せる。どうやら俺の行為を訝しんでいるようだ。ならばこちらの意図を分かりやすく伝えてやろう。


 俺は褐色の肌に手を這わせた。胸部の膨らみを触り臀部へ、そして女の繊細な部分に指を伸ばす。小さな喘ぎ声がダークエルフの唇を貫いた。


「ふ、ふん。怪物かと思ったが、所詮貴様も男だな」


 違う。そうじゃない。


 ダークエルフの口を開かせるのには成功したが、言って欲しい言葉は出てこなかった。


 いや、反応はあったのだからもう一押しだな。


「この状況下でその強気、死にたいのか?」

「殺したければ殺すがいい」 

「惜しい」

「は?」

「あ、いや、何でもない」


 暗殺者が怪訝な顔をして、それにラーミアとサーシャも続く。無論「くっ、ころ」を言わせたいなどとは説明しない。


 俺は魔力で触手を作り出すと、それで鎖に吊るされた女をより執拗に撫で回した。


「くっ、そ、そこは……」

「覚悟はいいな?」

「ま、待て。ハァハァ……んっ。わ、分かった。話そう」


 ん? 聞き間違いか? 聞き間違いだよな?


「覚悟は良いんだな?」

「だから話すと言っている」


 あ、聞き間違いではないようだ。


「……どうした急に?」


 死を覚悟した風だった割には随分とあっさり折れた気がする。


「なんだ、何を警戒している? 私に命令を出したのが誰なのか知りたいのだろう?」


 いや、特には。と言うのは流石に変なので黙っておく。何にせよ、「くっ、ころ」を言わせるのは無理そうだ。


 俺が暗殺者の突然の変心に困っていると、メイドが目尻を吊り上げた。


「どうして急に話す気になったでありますか?」

「最後に教えてやろうと思ってな。自分がどれほど恐ろしい相手に狙われているかということを。……私にグロウの拉致を命じたのはーー」


 そこまで言った途端、ダークエルフの褐色の肌にいくつもの呪力で描かれた紋が浮かび上がった。そしてそれが女の体を内部から変容させていく。膨張していく体に負けて、暗殺者を縛っていた鎖が弾け飛んだ。


「呪印? 秘密を喋ると発動するよう仕掛けられていたでありますか」

「ちょっとこの魔力。尋常ではありませんわよ」


 メイドと女剣士が慌てて武器を構える中、元の美貌の半分ほどをオーガのごとき形相へと変えたダークエルフが歪に笑った。


「クックック。貴様らも知るといい。私の絶望を。恐るべき魔の力の前では、人間など家畜に過ぎんということをなぁああ!!」

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