第41話 疑心
なんて皮肉だろう。先程は安堵した幼馴染みの顔に今度はギクリとさせられるなんて。
「それでは私はこれで」
「ええ。案内ありがとうございました」
逃げるように去っていくマーガレットさんの後ろ姿にラーズが眉根を寄せる。
「リーナ様、彼女、どうかしたのですか?」
「……何がですか?」
「いえ、避けられたような気がしたので」
「気にしすぎですよ。部屋までの案内が終わったので、ローズマリーの所に戻るだけです。それよりもラーズの方こそ私に何か用事でも?」
「それが……実は姫様に相談がありまして」
声を潜めてそういうと、ラーズは周囲を警戒するように見回した。しかし中々相談の内容を口にしようとはしない。
……ひょっとして、部屋に入れろという事でしょうか?
「ここでは話せない内容なのですか?」
ラーズは申し訳なさそうな顔で頷いた。
「……分かりました。どうぞ。と言っても、私も久しぶりに入るのですが」
幼い頃に過ごした部屋は記憶にあるまま、何も変わってはいなかった。メイドが欠かさずに掃除をしてくれていたのだろう、埃一つ見当たらない。
「それでラーズ。話というのは?」
「ポポトが魔女に操られた件についてです。率直に言いまして、自分はゼニーヌが怪しいと睨んでいます」
「……どうしてそう思うのですか?」
「我々は常に呪術を警戒しています。にも関わらず、肉体を操られるほど強力な呪術にかかった。ポポト本人が魔女でないのならば、護衛として同行したものの中に魔女がいる可能性が高くなります。それに同性でありマラート王妃の護衛である彼女ならば、警備を掻い潜ってローズマリーを呪える可能性も高いですから」
「もしかして先程ローズマリーに話しかけていたのは」
「はい。再び呪術を受けないよう警備の相談に。一度魔女の暗躍を許した自分がそう言っても心許ないかもしれませんが……」
ラーズの声音と表情はローズマリーを心底から心配しているように見える。彼が魔女だなんてこと、本当にあるだろうか?
「そういえば、今フローナとピピナがゼニーヌと一緒にいますね」
玉座の間での謁見は肩が凝るから嫌だというピピナに、ゼニーヌが今までの活動報告をして欲しいと申し出て、それにピピナだけでは適当になりかねないと判断したフローナが付き合ったのだ。
「二人がですか? ……すみません。自分はこれで失礼します」
「ゼニーヌのところへ行くつもりですか?」
「自分の思い過ごしであるならばそれで問題ありません。ですが気になるのです」
「そうですか。それなら私も行きます」
ラーズの推測を完全に信じたわけではないけれど、魔女が城について一息ついたこちらの心境を攻めてこないとは限らない。
「よろしいのですか?」
「いいもなにも二人に会いに行くだけなのだから、何も問題はないでしょう?」
「……そうですね。それならば姫様、道中の護衛は私めにお任せください」
「ええ。お任せしますよ、騎士殿」
冗談めかした発言の後、どちらともなくフッと笑い合った。この幼馴染みを疑いたくはない。疑いたくはないのだけれどもーー
ラーズの少し後ろを歩きながら、私はいつでも剣を抜けるようにそっと身構えた。
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