第40話 疑い
「それではお姉様、また後ほど」
「ええ」
せっかくの再会。ここで別れるのは名残惜しくはあるけれど、昔のようにまた毎日会えるのだ。我儘を言って忙しそうな妹を困らせるのはやめておこう。
「あっ。ちょっと待ってローズマリー」
ラーズが妹の背を追いかけていった。私に接する時とは違うその態度から、二人が本当に婚約しているのだと実感させられる。
「それではご案内いたします」
「お願いします。と、言いたいところですが、部屋の場所なら覚えていますよ」
「あら。でしたら道すがら、久しぶりに雑談でもいたしませんか?」
「喜んで」
幼い記憶と変わらない廊下を、幼い時そうしていたようにマーガレットさんと歩く。ただ昔と違うのはーー
「「…………」」
困りました。何を話せばいいのでしょうか。
話したいことは沢山あるのに、改めて会話を探すとなると、うまいこと見つからない。
「……マラート王妃と魔女の脅威について話しました。城で何か変わったことはありませんか?」
結局出たのは旧交を温めるには似つかわしくないものだった。
「その前に一つよろしいでしょうか。ローズマリー様はラーズ殿と既に褥を共にされましたか?」
「はい? ……え!? それはつまり……」
「男女の中になられたかを聞いております」
想像だにしなかった質問に面食らう。
「い、いえ。その様なことはしていませんが」
そもそも彼を婚約者として受けいれた訳ではない。
「左様ですか」
「あの、マーガレットさん?」
一体彼女はどうしてしまったのか。まさか今のは彼女なりの冗談ということは……ないですよね?
「これから話すことは推測です。何の確証もありません」
「……ラーズに何か不審な点が?」
「いえ、ただ気になるのです。我々は何処に潜んでいるか分からない魔女からローズマリー様をお守りするべく、可能な限りの魔女対策を行っておりました。にも関わらずローズマリー様は呪われた」
「なるほど。城内でそれが可能だったのがラーズだけだと」
ただでさえ生命を生み出す性行為は、魔術は勿論、呪術の儀式として用いられることがある。どれだけ厳重な警備で守ったとしても恋人が魔女では防ぎようがない。
「あるいはラーズ殿は無実でこの魔女が他とは一線を隠すほどに強力なだけかもしれません。ですが用心するに越したことはないかと」
ふと、妹の言葉を思い出す。
「……魔女ではなく、悪魔が潜んでいる可能性はありませんか?」
「爵位持ちがですか? 守護剣の御三方がおられますので、その可能性はーー」
「あれ? 二人とも、部屋の前でどうしたの?」
ローズマリーへの用事は済んだのか、先程と同じようにラーズがひょっこりと現れた。
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