第39話 後継者問題
「どういうことですか? 何か確信があって言っているんですよね?」
魔女ではなく悪魔。ローズマリーの言葉はその立場と相まって、冗談で口にしていい範囲を逸脱している。
「はい。呪いに蝕まれている時は気付かなかったのですがーー」
そこで妹は突然ハッとしたような顔になると、慌てて口を噤んだ。
「ローズマリー? どうしーー」
「おや、ローズマリー様。こんなところで如何されましたかな?」
背後からの声にギクリとする。
「……ブライス卿」
いつの間にここまで接近を? まるで気配を感じなかった。
「失礼、驚かせましたかな。せっかくの姉妹の再会、邪魔をしては悪いと思いまして」
「そう思うならソッとしておくのが礼儀というものではありませんか?」
私としたことが返す言葉がつい厳しいものになってしまう。気配を消して近づかれたこと以上に、ブライス卿が私を見る目がそうさせるのだ。
「これは失礼、しかし今は魔帝国との戦いを控えた大切な時期。時間を無駄にしたくないのですよ」
「つまりお姉様に用事があると?」
妹の声も私と同じくらい刺々しい。
「用事と言うほどのものではありませんが、ローズマリー様はデビルキラーの後継者問題をどうするおつもりなのか、お考えをお聞きしたいですな」
「……必要なことだと思います。ですが今すぐに取り掛かれる問題とは思いません。魔帝国との決戦が近いなら尚のことそうです」
「なるほど」
考えるときに髭を弄るのはブライス卿の癖なのか。自身の顎に指を這わせる男の視線が私の全身を這い回る。
「……まだ何か?」
「いえ、ローズマリー様のお考えは分かりました。ということは姫君はまだ乙女であるという認識でよろしいですかな?」
瞬間カッと頭に血が上った。妹が私を庇うように前に出る。
「後継者の問題ならば私がどうにかします。なのでお姉様には戦いに専念して頂くつもりです」
「ほう。ですがーー」
「ローズマリー様」
「ラーズ」
幼馴染の登場にホッとする私とは違い、ブライス卿は忌々しそうな視線をラーズへと向けると、別れの挨拶もないまま踵を返した。
「今のはブライス卿ですよね。何か言われましたか?」
「気にしないでください」
ブライス卿の態度は不敬ではあれど、デビルキラーの後継者は確かに軽視できない問題だ。
「お姉様、用事を思い出したので私も一旦失礼します。話の続きは後で私の部屋でしましょう。マーガレット。お姉様をご案内して」
「畏まりました」
腰まで伸びた綺麗な黒髪に鋭さと美しさを併せ持つ黒色の瞳。その佇まいだけで優秀さを分からせてくる美貌のメイド。
「マーガレットさん。お久しぶりです」
「お久しぶりです。ローズマリー様。それともリーナ様とお呼び致しましょうか?」
「ローズマリーで構いませんよ」
守護剣とは違い、変わらぬ様子の彼女を見て私はホッとした。
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