第38話 再開

「マラート王妃、お聞きしたいのですが母を目覚めさせる方法はまだ見つかってはいないのですか?」


 守護剣の二人に感じた、年月がもたらしたのであろう微かな違和感についてはひとまず置いておくことにする。


「ええ。城に潜んでいた魔女は間違いなく倒したのですが、術者を倒しても解けない類の呪いなのか。あるいは……」

「まだ他に魔女がいる可能性がある。ということですね」

「爵位持ちなど高位の悪魔を除けば、精神生命体である悪魔は本来肉体という領土を持っていません。なので悪魔は古来より様々な方法で人間をたぶらかし、地上で活動する為の領土を奪ってきました。その恐るべき奸計を完全に防げているかと問われれば、自信がないのが現状です」


 王妃の雪のような美貌が曇る。悪魔の脅威は人類全体の問題であり剣王国で魔女が暗躍しているからといってマラート王妃一人を責めることはできない。


「それではその……ローズマリーは?」


 もう一人の私ともいうべき存在。この場で会えることを期待していたけれど、いないということはそれ程呪いが酷いということなのだろうか。


「そのことですが、ラーズからは何と?」

「……呪いでもう長くないと」

「そうですか。ふふ。そのことで朗報があります。ああ。ちょうどきたようね」

「お姉様」


 自分の声を他人から聞かされる不思議。振り返れば鏡の中でいつも出会っている顔があった。


「ローズマリー」

「お姉様、よくぞご無事で」


 私達は離れ離れだった己の片割れを抱きしめ合った。そこでふと気が付く。


「ローズマリー。貴方、呪いは?」


 白く健康的な肌。私の体に回った両腕から感じる力強さはラーズの話とはまるで違うものだった。


「そのことも含めてお姉様と話したいことがたくさんあるんです。マラート王妃、お姉様をお借りしてもよろしいですか?」

「勿論よ。久しぶりの再会ですものね。積もる話もあるでしょう。私は夕食の席まで我慢することにするわ」


 マラート王妃が玉座から立ち上がる。


「それではまた後でね。私の愛しい娘達。二人のローズマリー」


 私達は退出する王妃を見送ってから玉座の間を後にした。


「お姉様、こちらです」


 妹の背中を追って城の中を歩く。


「もう何年も経つというのに、この城は変わっていませんね。私がいた頃のままです」

「本当にそう思いますか?」

「え? ええ。……何かあるの? ローズマリー」


 妹は立ち止まると周囲を用心深く見回した。そして身を寄せ、そっと耳打ちしてくる。


「お姉様、気を付けて。この城には……悪魔が潜んでいます」

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