第37話 到着
「よく帰って来ましたね。剣王国は貴方の帰還を心待ちにしていましたよ。リーナ姫。いいえローズマリー」
白いドレスを優雅に着こなした白髪白目の美女。その佇まいは気品に満ちており、その美貌は同性の目さえも虜にする。
剣王国を治める女王は、幼い頃の記憶と寸分変わらぬ美貌を誇って玉座に腰掛けていた。
「お久しぶりですマラート王妃。壮健そうで何よりです」
「ローズマリー、私達は親子なのですよ? お母様と呼んではくれないのかしら?」
「公私のケジメは必要ですので。それよりも……」
玉座の間。その主を守るように左右に整列する者達の数が気になった。
「守護剣の方々はこれで全員なのですか?」
剣王国守護剣。剣王国最強の十人を指す称号で国防の要たる彼らがたった三人しかいないというのはどういうことだろうか。
「ごめんなさいね。王女である貴方の帰還、本来であれば国の顔たる守護剣は全員参加するべきなのですが、ここ数年、彼らには各地に散ってもらい暗躍する魔女の討伐に当たってもらっています」
「魔帝国の手がそこまで?」
「ええ。悪魔に魂を売り渡した彼らの非道は酷くなる一方。最早魔帝国に巣食う魔女を狩れば終わりという段階は過ぎました」
「それはつまり……」
「準備が出来次第、魔帝国に攻め込みます」
予想してはいたけれど、自体はずっと早く、そして容赦無く進行していたようだ。
「それでローズマリー。一応確認しておきたいのだけれど、聖剣の力を?」
「はい。剣は私に応えてくれました」
「そうですか。デビルキラー。剣王国の正統なる血筋にしか扱えない、悪魔に対して絶大な威力を誇る無二の聖剣。その力があればたとえ魔帝国に爵位持ちがいたとしても対抗できるでしょう」
魔女を介さないと力を使えない下級悪魔とは違い、肉体という領土をもった悪魔の力は絶大で、男爵級ならまだしも、伯爵級になると人間では太刀打ちできないと言われている。
「御言葉ですがね。マラート王妃。悪魔など我々守護剣がいれば十分打倒できますぞ」
スーツに身を包んだ神経質そうな男。自身の髭を撫でる彼はえらく不満そうだ。
「ブライス、王妃の決定に口を挟むな」
守護剣の一人であるブライス卿に意見できるのは、当然だが同格の者だけ。黒衣に身を包み、刀と呼ばれる片刃の剣を持つ彼は守護剣三強の一角ラウ・ケルルダ。
「これは失礼。私はただ、ローズマリー様の身が心配でしてね。なにせ悪魔どもは狡猾で邪悪極まりない存在です。いかに悪魔に対して絶対的な力を発揮する聖剣といえども、それを振るうのがたった二人しかいない王女となれば、考えてしまいませんかな? 世継ぎの問題を」
ブライス卿の視線が私の全身を這い回る。記憶の中にある彼は、果たしてこのような目をする人だったろうか。
「ブライス卿、それはどういう意味でしょうか」
「お分かりになりませんかな、ローズマリー様。貴方様には今すぐにでもこーー」
「おやめなさい」
女王の凛とした声音が場を支配する。ブライス卿は小さく頭を下げると、大人しく引き下がった。
「ごめんなさいね、ローズマリー。彼は剣王家の血筋が絶えるのを危惧しているのです。私が王家の人間だったらよかったのですが」
「ブライス卿の危惧はごもっともです。お気になさらないでください」
「ありがとう。ふふ。あの小さかった貴方がすっかり立派になって。デビルキラーが使いこなせるようになるまで城の外にローズマリーを逃がせ。あの人の考えは正しかったようね」
事切れる前に父は言った。城は危険だと。そしてその言葉を立証するかのように私達を逃す準備を進めていた母も魔女の手によって深い眠りに落とされた。ラーズの話では城に潜んでいた魔女は倒したということだがーー
この場にいる最後の一人、蒼髪青眼の美女へと視線を向ける。
守護剣が一人、アイス・マリリーナ。氷の大魔道士という異名を持つ彼女は私の視線に気付いたが、特に何かを口にすることはなかった。
無口で無表情なのは記憶にある彼女の態度と何も変わらないが、ブライス卿を見て感じたように、彼女も記憶にある彼女と少し違って見える。もっともそれは十年という歳月を考えれば当然の変化なのかもしれないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます