第21話 反対
「反対。反対。絶対反対」
馬車の中に響き渡る甲高い声に私とフローナは顔を見合わせると、どちらからともなくため息をついた。
「また始まったわね」
「ええ。困ったものです」
剣王国への帰路、ピピナは思い出したように叫び出すようになっていた。
「いい加減にしなさい。ラーズが困っているでしょう」
「何だよ。それじゃあリーナはラーズと結婚するの納得したわけ? ラーズと子供作っちゃうの?」
「そ、それは……」
剣王国の王族として血筋を絶やさないのは確かに必要なことだ。だがデビルキラーがようやく私に応えるようになったというのに、子供を作ってしまえば戦えない期間ができてしまう。
それに子供を作るなら相手はやっぱりーー
ここ数年、ずっと一緒にいた黒髪黒目の男性の姿が思い浮かぶ。
「それは? それは何なのさ」
「……今考えることではありません。保留です。保留」
「ぶー! ぶー! リーナの優柔不断。ってかラーズも何ちゃっかりローズマリーに手を出してるんだよ」
ピピナの蹴りが対面に座るラーズの脛に直撃する。
「うっ!? そ、それは……ローズマリー様のご意志であって、僕が決めたわけじゃあ……」
「責任ありませんって? サイッテー!!」
「はいはい。それくらいにしておきなさい」
フローナのロンググローブがピピナの口を塞いだ。、
「むぐー!? むぐー!」
「幼馴染とせっかく再会できたのに、いつまでも険悪な雰囲気でいるのはやめなさい。婚約者の話は別に急ぐ必要はないのだから。そうでしょう? ラーズ」
「は、はい。いえ、了承して頂く必要はあるのですが、今すぐでなくても、まぁ、大丈夫です」
歯切れの悪い返答ですね。
後継者作りは王族の問題であって別にラーズが悪いわけではないが、彼の態度に少しだけモヤっとしてしまう。
「それに子供が必要なだけなら、ラーズを婚約者に選ばなくても、相手はリーナが自由に選べばいいわ」
「むぐ~……ぷはぁ!? そうだよ。フローナいいこと言った。今から師匠を呼ぼうよ。へへ。師匠、リーナが剣王国の王女だって知ったらきっと驚くぞ」
「そうかしら? 彼のことだからふ~ん。で終わりそうじゃない?」
「あ~、確かに。師匠って冒険者のくせに世俗に疎いところがあるからなぁ」
「二人とも、グロウさんは私達の戦いに巻き込まないと決めましたよね」
そのために高ランクのクエストを理由に彼と別れたのだ。
「別に戦ってもらう必要はないじゃん。ただリーナの婚約者になってもらうだけだよ」
「それは……同じ意味です」
ローズマリーに戻った私の婚約者になるということは、剣王国の次代の王になるということ。これから起こるであろう魔帝国との戦いに巻き込んでしまう。なのにピピナの提案に頷いてしまいそうな弱い自分が確かにいた。
「あの、リーナ様、グロウさんというは先日話してくださったクランを組んだ方ですよね。まさかとは思いますがリーナ様はその方とーー」
「最後までしちゃってるよ」
「ピピナ!!」
この子は本当に。ラーズが驚き過ぎてすごい顔になってるじゃない。
「そっ、それは……そう、ですか。あっ、えっと、あっ、本日宿泊する宿が見えてきましたよ」
「ん? どれどれ? わっ、こんな辺境にある割には結構立派じゃん」
馬車の窓から顔を出したピピナが子供のようにはしゃぐ。
「最近できた冒険者向けの宿です」
「休憩は入れる必要ないんじゃないかしら? 剣王国までもう少しなのよ。先を急がない?」
「それは……馬を休ませる必要もありますし、こちらにも警護の計画がありますので」
「僕も野宿よりベッドがいい」
二対一に分かれた意見。全員の視線が私に集まった。
正直フローナと一緒で先を急ぎたい気持ちはあるが、ラーズを初めとした護衛の方々は仕事とはいえ私達のために命をかけてくれてるのだ。その邪魔をしたくなかった。
「馬を酷使してはかえって剣王国への到着が遅くなる可能性があります。ここはラーズの提案通り宿で休みましょう」
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