第9話 薬草採取
「ちょっとクリスティナさん。いくら荷物持ちだからってEランクを誘うことはないんじゃありませんこと?」
そう言ったのは、波打つ黒髪を腰まで流した赤い目の女だった。
「あっ、別に貴方を馬鹿にしているわけじゃありませんのよ? ただ今回の依頼は少々危険な可能性があるので、荷物持ちとはいえ自分の身は自分で守れる程度の実力は必要なんですの。まっ、それでなくてもこの剣聖の弟子にして、次期剣聖確定なラーシャ・ソールドと、どっからどう見ても平々凡々な貴方がクランを組もうなどと、烏滸がましいにも程がある話ではありますけどね」
そう言って、女はオーホッホッホ! と豪快に笑った。
「ラーシャ、彼はクラン『教え子』のメンバーだったのよ?」
「聞いてました。魔剣士。多重刻印の女王。疾風迅雷。短期間で二つ名を獲得しAランクまで駆け上がった三人構成のクランですよね。グロウなんて男性がいるなんて初耳なんですけど?」
『教え子』ってAランクだったのか。そういえば一度、ピピナがギルドカードを自慢げに見せに来た時があったな。あの時は羞恥心のトレーニングをしてやろうと思って、リーナとフローナが入ってる風呂場に突撃する直前だったから、そのまま流してしまった。
「お二人も何とか言ってくださいな」
ラーシャと言うらしい女は一緒にいる大剣を背負った男と、魔法使いのローブを着た老人(俺の感覚からすれば老人というのも変だが、あくまでも人間基準)に顔を向けた。
「良いじゃねーか。もう出なきゃなんねーんだし。荷物持ちがいた方が動きやすいんだから贅沢言わなくてもよ」
「ホッホッホ。ゴラルド殿。ラーシャ殿は贅沢を言っているわけではなく、そこの少年の身を案じているのですぞ」
「んなことは爺さんに言われなくても分かってるんだよ。ただ俺はさっさとこの面倒な仕事を終わらせたいんだよ」
「何をそんなに急いで……おお。そうじゃった。娘さんの誕生日がもうすぐじゃったな」
「あら、そうなんですの? それはおめでとうございます」
「ケッ、……ありがとよ」
俺とはまったく関係のない話を始める三人。残りの一人、最初に話しかけてきた女が申し訳なさそうに微笑んだ。
「すみません。でもラーシャさんに悪気はないんです」
「そうか。それよりも荷物持ちの話だったか?」
「はい。戦闘は私たちがやるので戦ってもらう必要はありません。ただ、身の安全はご自身で守ってもらう形になります。勿論、可能な範囲でのサポートはいたします。どうでしょうか」
「ふむ。……そうだな」
別に手伝ってやってもいいが、ただの荷物持ちでは面白みにかける。それにソロ冒険者として活動してみようと思った矢先に他の人間とチームを組むのも何だかなという話だ。
「悪いが断る。今は薬草採取の方を優先してみたい気分なんでな」
「……そうですか。分かりました。お話を聞いていただきありがとうございました」
「自分の実力をきちんと把握できているのは評価できますわね。これも何かの縁ですし、薬草採取専門の冒険者を紹介してあげましょうか? 貴方のような凡人は誰かに師事した方がいいですわよ」
「おい、俺はさっさと出発したいんだが?」
「あっ、そうでしたわね。え~と。それじゃあどうしましょうか」
「気にしなくていいぞ。薬草を集めるくらい一人でできる」
俺の発言にラーシャは意外そうに目を瞬いた。
「そうですの? それでは今回はこれで失礼しますわ。ただやはり誰かに師事したいと思ったなら、一度提案した手前もありますし、遠慮なく私を頼るといいですわ」
「お若いの。何事も継続していれば道は開けるものじゃ。採取クエストを専門に高額を稼ぐ者も多くいる。頑張るんじゃぞ」
「まっ、死なないようにな。死にさえしなければ、案外なんとかなるもんだぜ」
「それではグロウさん。ご縁がありましたら、また」
クリスティナと名乗った女は頭を下げると、他の三人と一緒に去っていった。
それにしてもあの受付嬢といい、何故ここの連中は俺を薬草採取の専門家にしたがるのだろうか?
「薬草向きな顔でもしてるのか? 俺は」
手元にあるリストを適当に捲ってみる。
「……ラーミアから連絡が来るまで暇だし。さっそく行ってみるか」
そしてこの後、俺はめちゃくちゃ薬草を採取した。
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