第8話 提案
メイドに宿の確保を頼んだ俺は、一人でギルドへとやってきた。
「ギルド支部へようこそ。ご用件は依頼の発注でしょうか? それとも冒険者の方でしょうか?」
「冒険者だ。依頼を受けたいんだが、何かあるか?」
壁に依頼の紙がこれでもかと貼ってあるギルドボードからいちいち探すのが面倒だったので、カウンターで直接聞いてみた。
「それではギルドカードを拝見させていただきます」
俺は愛想の良い受付嬢へとギルドカードを手渡す。
「グロウ・レバナン様。……クラン『教え子』に所属していたんですね」
「クラン? って確か三人以上の冒険者で結成するという、あれか?」
「はい。クラン登録をしておりますと、ギルドから人数が必要な依頼が優先的に回されます」
アイツらクランなんか作ってたんだ。いや、待てよ? そういえばフローナがなんか言ってたような……まっ、どうでもいいか。
「今も登録されてるのか?」
「はい? 少々お待ちください。……失礼致しました。先日グロウ様はクランメンバーの過半数以上の合意のもと脱退扱いとなっております。それでグロウ様自身の冒険者ランクは……Eですか」
「何か良い仕事あるか?」
「え? ふふ。そうですね。とってもE仕事がありますよ」
「は?」
「あっ、いえ、失礼致しました」
コホン。と受付嬢が気を取り直すようなわざとらしい咳をする。
何だったんだ? 考えてみる。考えてみるが……ダメだ。分からん。
「ご存知の通り、ギルドは冒険者支援の一環としてポーションなどの材料を定期的に通常の価格よりも高値で購入しております。魔物のいる森などに入る必要があるので危険はありますが、街に近い場所で採取できるものを選べば比較的安全かと。こちら現在高値でご購入させていただいている薬草のリストとなります」
「薬草採取か。あまり面白そうではないな」
「確かに成果も報酬も決して華やかではございませんが、その分安全面は破格かと」
「別に安全を考慮してもらう必要はないんだがな」
とは言ってもこの大陸に俺の脅威となるような生物が生息している可能性は低そうなので、危険と呼ばれる仕事を積極的に受けても薬草とりと大差ない。そう考えると別に構わない気がしてきた。
「クラン『教え子』は活動期間が三年程と決して長いわけではないにも関わらず、非常に高い評価を受けております。グロウ様もお望みであれば今すぐにでも昇格試験をお受けいただけますが」
「昇格試験? ああ。あったな、そんなの。ちなみに何するんだ?」
「冒険者としての知識を問う試験問題と、実力を見る実技試験がございます」
「あ~……気が乗らないからまた今度」
あいつらがたまに受けないかって誘ってきた試験ってこれのことか。その時も今と同じような返答してたな、俺。
「……あの、失礼ですが、グロウ様がクランを脱退することになった理由をお聞きしても?」
「理由?」
教え子が一人前になったから? いや、確かに一人前にはなっただろうが、俺としてはもう少し鍛えてやるつもりだった。ならやっぱりもう一つの方か。
「実力不足だそうだ」
「……薬草採取も冒険者の大切な仕事かと」
「そうか? まぁそれならやるか」
これも冒険者の仕事に変わりないしな。
俺は受付嬢からリストを受け取った。
「高額買取の品は購入数が決まっており競争が激しいですが、薬草採取を専門として生計を立てている方も大勢いらっしゃいます。頑張って下さいね」
「分かった。ありがとな」
専門にする気はないが、この人間が好意から勧めていることくらいは理解できる。
「何かお困りのことがございましたら、ご気軽にギルド窓口までお越しください」
「分かった。そうする」
笑顔を向けてくる受付嬢に手を振って、俺はひとまずカウンターから離れた。
「あの、すみません」
「ん? 何だ?」
見覚えのない四人組の男女。その内の一人である栗色の髪をした女が話しかけてきた。するとどういうことか、ギルド内にいる冒険者達の注目が瞬く間に集まった。
「おい、あれってクラン『武士道』じゃないか?」
「Aランククランの? あそこの団長って剣王国守護剣の一人なんだよな。すげぇ、初めて見た」
周りから聞こえてくる声。それから推測するに、どうにもこいつらは人間の中では名の知れた連中のようだ。
「失礼だとは思ったんですが、話が聞こえてきたので。えっと……あっ、私はクリスティナと言います」
「グロウだ」
「グロウさん、あのクラン『教え子』のメンバーの一人だったんですよね」
「ああ。それが?」
「ひょっとしてクランでは荷物持ちを担当されてたんじゃないですか?」
「ん? あ~」
荷物持ち? まぁ、確かに戦闘を三人にやらせるようになってからは荷物は基本的に俺が持ってたな。
「そうだな。荷物持ちをやっていたぞ」
「やっぱり。あの、私達今からグロー峠まで討伐クエストに出かけるのですが、急な依頼でメンバーが足りなくて。よろしければ荷物持ちとして参加しませんか? もちろん報酬はお支払いいたします」
それは意外な提案だった。
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