第7話 資金
「それでだ、メイド。いや、確かラーミア。ラーミアだったな」
「左様でございます。ご主人様」
元気のよい返事と同時に敬礼するメイド。メイドと言うよりも軍人を雇った気分だ。
「お前、この街が何処か分かるか?」
「はい。ここはフフワラー王国王都。商人の街と呼ばれている大変活気のある街であります」
フフワラー王国。確かダイアイラと同じ中立国だったよな。拠点とするにはちょうどいいかもしれない。
「よし。それじゃあラーミア、メイドのお前に初仕事だ」
「なんなりとお申し付けください。ですが、あの、一つ宜しいでしょうか」
「なんだ? 金ならちゃんと払うぞ」
冒険者としての活動で得た資金は雀の涙だが、金や宝石の類なら結構持ってるし、その気になれば作り出せる。メイドに給金を払うくらいは余裕だ。
「いえ、そのような心配はしておりません。そうではなく、あの、ご主人様のお名前を教えてもらってもよろしいでしょうか」
「ん? ああ。名乗ってなかったか」
別にメイドにとってはご主人様なのだから、ご主人様でいい気がするのだが、人間が固有名詞をやたらと気にする生物であるのは今に始まったことではない。
「グロウだ。グロウ・レバナン。冒険者をやっている」
「冒険者でありますか? 全ての冒険者を存じているわけではございませんが、Sランクの冒険者にグロウ様のお名前はなかったと記憶しております」
「冒険者ランク? ああ。そういえばそんなのがあったな」
冒険者カードを作った時にギルドで説明を受けた気がする。確か達成した依頼に応じてポイントが溜まって、それが一定に達するとランク更新の試験が受けられるんだったか?
ギルドカードを取り出してみた。
「そういえば気にしたことなかったな。俺のランクは……Eか」
「E!? ですか?」
「ああ。下から二番目だったか? 随分低いな」
リーナ達の時といい、俺の評価はどうなっているのだろうか。今後はもっと力を見せつける方向でいくか? でも加減が難しいんだよな。人間じゃないとバレたら冒険者生活とオサラバになるだろし。
「グロウ様はひょっとしてーー」
「ご主人様」
「はい?」
「俺のことはご主人様と呼ぶように。その方がメイドっぽいからな」
メイドが欲しくてこの女を拾ってきたのに、あまりメイドから離れたことをされても面白くない。
「畏まりましたご主人様。それでご主人様はひょっとしてギルドに登録して日が浅いのでは? ならばその評価も仕方のないことなのではと」
「まぁそうかもな。それに最近はリーナ達を鍛えるので忙しかったし」
「……リーナというのはやはり『魔剣士リーナ』のことでありますか?」
「そうだが……やっぱりお前もリーナのこと知ってるのか」
俺の質問にラーミアの体が目に見えて強張った。俺はそんなメイドの額に自分の額を押し付けて、グリグリする。
「どうした? メイド。ん? ご主人様の質問に答えられないのか? ん? ん?」
「そ、それは、その……」
「それは? それは何なの?」
グリグリ、グリグリ。
「ほ、他のことならばどのようなご命令にも従います。ですので、その質問についてのみ、どうかご容赦いただきたいであります」
「ふーん。まぁいいけどな」
大方、あのローズマリーというのは魔帝国か剣王国あたりの姫で、リーナはその姉妹。いや、リーナこそが本当の王女で、あのローズマリーという女が影武者という可能性もあるか。その場合なんでリーナが冒険者をやっていたのかは分からないが、まぁどうでもいい話ではある。
「それじゃあさっそくメイドに命令するとしようか」
「は。何なりとどうぞであります」
「俺はこれからここで冒険者として活動するから、身の回りの世話を頼む。まずは移住食の確保だな。あと本を読むのが趣味なのでそっちも頼む。内容は食事と睡眠と性行に関わるものならなんでもいいぞ」
「畏まりました」
「じゃあ一旦解散で。この魔法具をやるから宿が確保できたらこれで知らせてくれ」
「え? あの……」
「どうした?」
まさか魔法具の使い方が分からないとか、そんなんじゃないよな?
「恥ずかしながら着の身着のままお仕えすることになりましたので手持ちがないであります。伝を使って確保することはできますが、少々お時間が必要なのであります」
「あっ、悪い。これ使ってくれ」
俺はメイドに金と宝石が詰まった袋を渡した。中を覗いたメイドが目を見開くのが、ちょっとだけ面白かった。
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