第6話 メイド
「マーガレットを? そ、それは……」
「なんだよ。これもダメなのか?」
仕方ない、金で手を打っておくか。
「お嬢様、よろしければお暇を頂戴してもよろしいでしょうか」
「マーガレット?」
「良いのです。彼がいなければここで終わっていた命ですので。私如きでお嬢様を救っていただいた御恩をお返しできるのであれば、これに勝る喜びはありません」
おっ、なんかメイドが手に入りそうな感じだ。
と、思っていたら眼帯女が割り込んできた。
「お待ちくださいであります。お嬢様、発言を許して欲しいであります」
「ラーミア? どうしたの」
「はい。マーガレット殿は終わっていた命と言いますが、それはむしろ蘇られせていただいた自分の方なのであります。ですので、許されるのであれば私がこのお方にお仕えしたいのであります」
全員の視線が俺を向く。
「いや、俺が欲しいのはメイドだから」
「なるほど。ならば今から……今から私がメイドであります!」
「お、おう?」
何やら力強い宣言をすると、眼帯女は馬車へと近づいた。そしてその中にあった鞄からメイド服を取り出すと、その場で着替えを始めた。
「あ、貴方達はあちらを向いていなさい」
令嬢が慌てて兵士たちに命じる。眼帯女は兵士らしい早着替えで鎧を外すと簡素な下着を堂々と晒した。そしてそこから少しだけ戸惑いつつもメイド服を着用、こちらに戻ってきた。
「今からこの身は貴方様のものでございます、ご主人様、何なりとご命令を」
そう言って女は敬礼をしてきた。
うーむ。この豪快でいてちょっとネジの外れた感じ。少しだけピピナに似てるな。
「分かった。じゃあこっちをもらっていくから」
「え? あの、でも……」
「姫様、これが私の望みなのであります」
眼帯女と令嬢はちょっとの間見つめ合う。そして令嬢が一つ頷いた。
「ラーミアをよろしくお願いいたします。ラーミア、今日までご苦労様でした」
「賊の手よりお守りすることができず申し訳ありませんでした」
「何を言うのです。貴方がいたから助けが間に合ったのです。貴方はちゃんと私を守ってーー」
なんか長そうなやりとりが始まった。正直ただの寄り道にこれ以上時間を使いたくない気分なんだが、もう行っても良いだろうか? でも、別れの挨拶をしてるみたいだし待つべきなのか? 俺には関係ないと言ってさっさと移動したいが、そんなことをする人間は少数な気がした。いや、少数とはいえ、いるんだから別に構わないか?
悩んでいると、頭の中のリーナとピピナが少しくらい待ってあげなよと言ってくる。
よし。一分だ。一分だけ待とう。一……十……三十、後は飛ばして六十。はい。終了。
「おい、もういくぞ」
俺は手に入れたメイドを小脇に抱えた。
「あのご主人様、自分で歩けるであります」
「近くの国まで飛ぶ。大人しくしてろ」
「飛ぶ……ですか?」
「あの、お待ちください。私はローズマリーと申します。貴方様のお名前を教えては頂けないでしょうか」
「ん? 名前?」
どうする? グロウと名乗ればその内リーナ達の耳にも入るだろう。別に隠すこともないが、せっかく独り立ちしたのに、ここで俺の影がチラつくのもなんだかなって感じだ。
「名乗りたくないので、名乗らないことにする。おい、準備はいいな?」
「え? ええ。ですが飛ぶと言うのはどういう意味でありましょうーー」
跳躍。
「かぁあああああ!?」
今回は周囲に人がいたからあんまり速度も出てないし、高度も大したことない。なのにメイドが煩い。
「おい、舌噛むぞ。着地に備えろ」
「あ、あの。私この高度の衝撃には耐えられそうもないのであります。つまり死んじゃいそうなのであります」
地面間際でメイドがそんなことを言うので、魔術で体を持ち上げて、静かに着地した。切り立った崖。眼下にはいい感じの街が一つあった。大きさ的にはダイアイラの王都と同じくらいか?
「しばらくはあそこを活動の拠点にするか」
「い、生きてる。自分、生きてるであります」
何やら感動している様子のメイドを抱えたまま、俺は街に向けて移動を再開した。
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