第5話 報酬

 リーナの名を聞いて、令嬢とメイド、二人の体が明らかにこわばった。


「……呪いを消してくださったお礼をしたいので、ぜひ我が屋敷に寄ってください」

「お礼をする気があるなら、質問に答えてくれると助かるんだが」

「それは……」


 言い淀む。この反応だけで関係者であることは明らかだろう。パッと身は双子という感じだが、この女が見るからに身分の高い格好をしているのに比べて、リーナは寝なし草の冒険者。元は姉妹でリーナが家出したか、あるいは政争に敗れて追い出されたとか、そんな感じか?


「それじゃあ質問を変えるが、お前はリーナの敵なのか?」

「そんな!? リーナさんという方ががどなたかは存じませんが、敵ではありません。決して」


 嘘を言っているようには見えないし、やはりリーナの身内か何かだろう。


 俺は周囲に倒れている兵達を見回した。


「こいつらはお前の臣下か? ただの傭兵か?」

「臣下です。我が家に代々仕え、そして私のために勇敢に戦ってくれた恩人達です」

「そうか。ならついでに治してやる」

「え? あ、あの……」


 一番近くの兵士に近づく。眼帯をつけた赤い髪の女だ。俺は事切れている女に手をかざした。


「癒しの魔術? あの、お気持ちは嬉しいのですが、ラーミアは既にーー」

「うっ。な、なんだ? ここは?」

「嘘!? ああ、そんな、こんなことが。ラーミア!!」

「姫? どうしたでありますか……あっ!? ぞ、賊は!? 賊はどうなったでありますか?」


 眼帯女が飛び起きる。それにしても『姫』か。ここから一番近い国はどこだ?


「死者蘇生!? 信じられません。こんな魔術が実在していたなんて」

「心停止してからそれほど間がなく、マテリアルが完全に拡散していなかったからな。ほら、こいつらに生き返って欲しいなら全員横に並べろ。間に合わなくなっても俺は知らんぞ」


 俺の言葉を聞いて真っ先にメイドが動き、眼帯女も訝しみながらも令嬢の指示に従った。そうして俺は令嬢の部下を全員蘇らせてやった。


「本当になんとお礼を言って良いのか。是非私の屋敷においで下さい。可能な限りのおもてなしを致します」

「せっかくだが遠慮しておく」


 ここでこの女に関われば、わざわざリーナ達と別れた意味がなくなりそうだ。


「ですが。何かお礼を。是非」

「……そこまでいうなら何か貰おうか」


 断るのは簡単だが、せっかく骨を折ったんだしな。……無難に金か? しかないよな。こいつらに払えて他に俺が欲しいものなんてーー


 ふと、メイドと目があった。


 そういえばこの大陸に来てから召使いの類を持ったことがないな。……これでいいか。


 俺はメイドを指差した。


「じゃあ、これをくれ」

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