子宝の神様

イネ

第1話

 あるところに、子供のいない夫婦が居りました。

「子供が欲しい、子供が欲しい」

 夫婦は毎日そう願って、あらゆる努力を惜しみませんでした。

 卵や肉や、熊の胃袋など、精のつくものを人の何倍も食べたり、アマゾンの奥地からあやしい妙薬を取り寄せたり、時にはおまじないをして、三日間も飲み食いせずに過ごしてみたり、その反動でまた大量に食べたりしました。ヨーガもやりました。

 そしてもちろん、子宝の神様にお参りすることも忘れませんでした。

 雨の日も風の日も欠かさずお宮へ参って、しきたりを守り、不作法な人を見かけると注意してやり、神主さんには、お金や酒やごちそうをたくさん貢いできたのです。


 そうしてある日、ついに子宝の神様が夫婦のもとを訪ねていらっしゃいました。

 神様は、夫婦が扉を開けるなり、生まれたての赤ん坊を差し出して、

「ほら、子供ならここに居ります。大事に育てなさい」

 とおっしゃいました。

 ところが夫婦は、その赤ん坊を受け取らないのです。

「さあ、どうぞ慈しんで育ててください」

 神様は再び赤ん坊を差し出しました。

 赤ん坊だけでなく、神様の後ろには何人も何百人も何千人も何万人もの、孤児が列をなして並んでいたのです。

 それを見て夫婦は、赤ん坊を受け取らないどころか、怒りに震えて神様を激しく責め立てました。

「神様はひどい。子供の出来ない私たちをばかにして、他人の子を育てろとおっしゃるのですか。我々には、自分の子供を持つ権利がないとおっしゃるのですか」


 神様はお宮に戻ってきて、きびしい顔つきでおっしゃいました。

「やはりあの者達にはまだ無理じゃ」

 それから、かわいらしい孤児たちを連れて、午後のやわらかな日差しの中へと、散歩に出て行かれました。



【子宝の神様・完】

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子宝の神様 イネ @ine-bymyself

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