第4話:戦闘都市へようこそ!


 独立都市〝ジンド〟――周囲を砂漠と荒野、北側を海に面した都市であり、辺境でありながら街は下手な小国の首都よりも栄えていた。


 いがみ合う三国――スカーレット達がやってきた西の大国〝リンデンブルム公国〟、東の亜人達の国〝竜王国ダスク〟、そして南の宗教国家群〝レトトラン黄教国〟の緩衝地帯ともいうべきその土地の住民は、多種多様だった。


「いやあ、すげえな! 人種と文化のるつぼだなこりゃ!」


 現地風の衣装――踊り子のような露出の多い服の上に砂避けの薄いローブを纏った赤毛の美女――スカーレットが、露店で買った赤い果実を囓りながら、その大通りを見渡した。


 黄色の聖衣を纏った聖職者達が街角で説法を行っているかと思えば、リンデンブルム公国の紋章が入った武具を纏った騎士らしき一団が、テラス先で酒を煽っていた。その店の給仕は人間ではなく、犬耳と尻尾が生えた獣人――竜王国出身の者だろう。


 全体的には砂漠の都という印象だが、各所に花が飾ってあり、色とりどりの布がそこかしこから垂れていて、何とも色彩豊かな風景だった。


「公国、竜王国、黄教国、それぞれ出身の住民もいますし、かつてここにあった亡国の名残もありますからな」


 スカーレットの横を歩くレクスが答えた。夜会服のままの姿は一見すると目立つが、あらゆる人種や文化が混じるこの都市では、その程度のことは誰も気にしない。


「どいつもこいつも、剣呑な顔付きをしているな。ほら、あそこにいる連中なんて、あたしをどう拉致って犯すかを話し始めているぜ。あはは、手を振ってやろう」


 スカーレットが満面の笑みで手をヒラヒラと振ると、路地裏の入口にいた小汚い格好の男達が舌打ちをして去っていった。


「んだよ、誘ってやったっていうのに」

「この都市は、危ういバランスの上に成り立っていますからな。下手な相手に手を出すと死ぬよりも恐ろしい目に合う。だから、表向きはとても治安が良いのです。ゆえによそ者は目をつけられやすいかと」

「やべえ奴等が集まりすぎて、お互いに手が出せないってか。三国の緩衝地帯であり独立都市であるのも納得だ」

「お嬢様、尾行している者もいますが。殺しますか?」


 後ろを警戒していた、高い気温の中でも頑なにメイド服を脱がないジゼの耳打ちに、スカーレットは首を横に振った。


「殺すのはやめとけ。着いて早々面倒を起こしたら、先方に申し訳ないだろ」

「おや、スカーレット様がそんな殊勝な事を言われるとは」

「一応、しばらくは世話になるからな。郷に入ったら郷に従えだ。ここの流儀に則ろうじゃないか」

「なるほど、ジンドの流儀ですな」

「かしこまりました」


 ジゼがスカーレットの言葉に、それはそれは嬉しそうに微笑んだのだった。


☆☆☆


 その後、スカーレットはレクスの案内で、とある人物との待ち合わせ場所へと向かった。


 そこは街の中央にある広場で、その周囲には酒場から武器屋、治療院、そして葬儀屋まで節操なしに並んでいる。


「一軒だけ空き家があるのでそこにいる、との事ですが」

「あれじゃねえか?」


 スカーレットが指差した先。右隣が葬儀屋で、左隣が治療院という何とも言えない場所に、何の看板も掲げていない空き家があった。


「あれでしょうな」

「あたしが先行する」


 スカーレットが嬉しそうに大股でその空き家へと進み、扉を開けた。


「邪魔するぜ」


 埃っぽいその中は元々は飲食店だったのだろうか丸テーブルと椅子が並んであり、カウンターの奥には厨房があった。


「なるほど……あんたが噂のじゃじゃ馬か」


 無警戒に入ってきたスカーレットを見て、並んでいる丸テーブルの一つに腰掛けていた一人の男が声を上げた。


 細い体躯に長めの銀髪。一見すると優男っぽい見た目だが、その視線は鋭い。


 その男を一目見て、スカーレットはそいつがであることを見抜いた。


「馬とは酷い言われようだが、多分そうだろうな。スカーレット・セザキエだ。まあもっともセザキエの名はもう消えたがね」

「――キースだ。この街で、まあ何でも屋をやってる、しがない商売人さ」

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