第38話 出発
Sランクは、ダンジョンと言うよりフィールドだった。
足元はごつごつとした歩きづらい岩肌。
上を見ると、どんよりと曇った空が広がっている。
クリスタルの内部のはずだが、外に居るとしか思えない光景だ。
「じゃあ予定通り、部隊は二つに分けるわ」
Sランクのダンジョンの広さは相当らしく、2年程前に発生した物は、ボス発見までに20日以上かかっているそうだ。
その時は何度か脱出しつつ補給をとって探索を行ったそうだが、今回はレベル7が5人もいる。
だから多少のリスクはあっても、時間短縮のために部隊を二つに分け探索する事になっていた。
恐らく攻略後の、海外のSランクダンジョンへのレベル7組の参加も踏まえてのスピード作戦だろうと思われる。
まあちょっとした無茶ぶりって奴だ。
……ま、俺としては手早く終わってくれた方が有難いので文句はないが。
俺は姫宮達の方を見る。
「……ん?」
「なによ?」
「姐さん?どうかしましたか?」
以前のSランク攻略では、ボスを倒す事が出来なかったと聞く。
そして参加した
日本のレベル6――現レベル7である衛宮達5人は、全員その攻略の生存者だった。
そして彼女達は、その命を賭けた戦いでレベル6に上がっている。
「いや……何かあっても私が何とかするから、お前達は無茶するなよ」
一度死にかけた失敗に再度挑戦するのは、相当な勇気がいる。
それが例え、以前より強くなっていたとしてもだ。
俺にも同じ経験があるから、それが良く分かる。
一度成す術もなく破れたイフリートとの再戦は、不安でいっぱいだった。
また同じ事になるんじゃないだろうか?
そう思うと、怖くて仕方がなかった。
そんな俺に力強く声をかけてくれたのは、合流したグラント師匠だ。
師匠は別の戦線で戦っていたのを、対イフリート戦の為に俺の元に駆け付けてくれて、そしてこう言った――
「蓮人、お前は普段通り戦えばいい。もしダメだったら、その時は俺が何とかしてやる。だから恐れずドーンとぶつかって来い」
――と。
自分を支えてくれる人間がいる。
それだけで不安が消え、勇気がわか上がって来る事を俺は知っている。
平然そうに見えても、内心不安かもしれない。
そう思って彼女達に声をかけたのだが――
「はぁ?何言ってんの?レベル7に上がった私達と姫は無敵よ。偉そうに言わないでくれる?」
「お気遣いありがとうございます。でも、姉と一緒ですから大丈夫です」
「今度は……まけない」
「姐さん!敵は俺のこのパワーで全部蹴散らしてやりますよ!」
どうやら不要だった様だ。
何なら玲奈には、調子乗んなと睨まれてしまう始末。
うん、まあ……平常心ならそれでいいんだけど。
「所でエギールさん。本当にそのメンバーでいいんですか?」
部隊を二つに分けた訳だが、俺の方はかなり少数だ。
俺とレベル6が3人。
それに念話と探索が使えるレベル5の人間2人に、水を扱える能力者を加えた計7人で行動する。
「問題ない」
ぶっちゃけ、理想で言うなら一人が良いのだが……
まあそう言う訳にもいかない。
柳兄弟を見張る意味も含めて、俺はこの人数で動く事になる。
「じゃあ、あんた達は東側。私達は北側を探索するわ」
「わかった」
コンパスで方角を確認する。
ダンジョン内では、文明の利器と呼べる様な物は全く使えない様になっている。
銃などの武器類は元より、カメラや無線なんかも使用出来ない。
動画投稿サイト等に攻略映像が一切上がらないのもそのためだ。
だがコンパスの様な原始的な物は例外らしく、ちゃんと機能する。
まあ場所的に考えると、本当に東西南北を差しているかは怪しいのだが、指し示す方角自体は一定なので、大まかな向きを知ると言う意味では問題なかった。
「くくく。エギール・レーンさんとご一緒できるとは、光栄ですねぇ」
ここまで怪しいと、逆に実は何も企んでないとさえ思えて来るから困る。
能力的は毒指は毒を操り、弟の
どちらもそれ程強い力とは言えないが、この兄弟は武術の達人との事で、それと組み合わせる事で高い戦闘能力を発揮するらしい。
「ヨロシクオネガイシマス」
もう一人のレベル6は、ベトナム人のグエン・コン・ドゥック。
能力は衝撃波。
掌と足の裏からしか出せないらしいが、突進の推進力にしたり、ちょっと空を飛べたりと案外
――んで、残り3人は日本人。
「精一杯頑張ります!」
「頑張ります!」
「よろしくお願いします!」
小杉は凛音と同じ水を操る能力者で、菊池は探索持ち。
金山は別部隊とのやり取りの為の念話を持っている。
レベル5である事からも分る通り、菊池と金山は
でなきゃ、レベルなんて真面に上げれてないだろうからな。
2人のもう一つの能力は、揃って身体強化となっている。
菊池はトンファーによる接近戦を。
弓を扱う金山は、遠距離戦タイプだ。
「レベル5の3人は、魔物と遭遇しても出来るだけくっ付いて守りに徹して欲しい。Sランクのモンスターは強力だからな。レベル5だときつい筈。処理は可能な限り、他のメンバーで行う」
レベル5の3人を積極的に戦わせるつもりはない。
万一死なれでもしたら寝覚めが悪いし。
だから戦闘になったら、出来る限り安全な場所で防御に徹して貰う事にする。
「わ、分かりました」
「あの、荷物は本当にレーンさんでいいんですか?」
ダンジョン内での活動は、短く見積もっても1週間以上はかかる見込みだ。
飲み水は小杉の能力で何とでもなるが、当然その分の食料や
7人の10日分となると結構な量になる訳だが、それらは全て俺一人で背負っていた。
勿論普通の状態での携帯ではない。
ダンジョン産のマジックアイテムには、大量に物を詰め込める
異世界にもあった物で、荷物は全てそのアイテムの中に収納してあった。
このアイテムの収納量は大した物なのだが、これにはちょっとした欠点がある。
それは物を入れたら入れた分だけ、重量がダイレクトに増してしまう所だ。
まあ本来なら当たり前の事なんだが、マジックアイテムなんだからもう少し融通を聞かせて欲しいと思うのは贅沢だろうか?
ま、とは言え――
「ああ、問題ない」
この程度なら、動きに支障は出ないだろう。
200キロはないと思うし。
精々150キロぐらいか。
勿論言うまでもないと思うが、俺が荷物を持つのはそれが一番安全だからだ。
魔物の攻撃で破られたりしたら、目も当てられないからな。
その点俺が背負っておけば、その心配は一切無くなる。
「ポーション類が必要だと思ったら、遠慮なく使ってくれていい。その都度渡すから」
「「「分かりました」」」
「ワカッタヨー」
「では遠慮なく、ジャンジャン使わせて貰うとしましょうか」
そんな大量に入っている訳ではないで、ジャンジャン使われても困るのだが。
まあここは中国――毒指――流のジョークとして流しておこう。
「じゃあ出発だ」
「エギール。少数なんだから、あんたこそ無茶するんじゃないわよ」
「姐さん!俺が必要ならいつでも呼んでくれ!」
「ああ。わかった、わかった」
俺は適当に手を振り、衛宮達の部隊と別れて東へと向かう。
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