第37話 柳兄弟

「日本のレベル7の方々は、随分と仲が宜しいんですねぇ」


台場と疲れるやり取りをしていると、背の高い痩せた男が声をかけて来た。


「貴方は?」


男は不自然な程その両手が細長く、布で口元をしっかりと覆っているため顔はハッキリとしない。

しかも頭部は禿げあがった辮髪べんぱつで、これでもかと言うぐらい怪しい風貌をしていた。


明らかにお近づきになりたくない感じの人物だ。


更にその背後にも、同じ様な見た目の男が経っていた。

吊り上がった目元がよく似ているので、たぶん兄弟か親戚の類だろう。


「エギール・レーンさんですね?私は中国から来たレベル6の、柳・りゅう毒指どくし。後ろは弟の――」


鉄針てっしんだ」


「柳兄弟か。久しぶりだな」


「お久しぶりです。台場さん」


どうやら台場とは顔見知りの様だ。

しかし、中国人とは思えないほど日本語が流暢だな。

訛りが全くない。


「それに姫宮さんに、衛宮さん方も」


「お久しぶりです」


「あんた達、中国にもダンジョンが出たでしょうに。なんで日本のに参加してるのよ」


衛宮玲奈が不機嫌そうにそう尋ねる。

どうもあまり好きな相手ではない様だ。


けど……言われてみればその通りだよな。

中国人なら、そっちを優先しそうなものだが。


「くくく……政府は見栄を張って外部にはお金をばら撒きますが、内部には渋いのですよ」


ああ、金銭の問題か。

そういや俺が協会から提示されたのも、2000万とかいうありえない額だったな。

何処の国も、どうやら同じ様な事をやっている様だ。

ふざけた話である。


「愛国心で国に命を賭ける同胞も多いですが、こちらも命がかかってますからねぇ。それなりの物を頂けないと。それに……こちらにはレベル7が5人もいらっしゃいますから。成功率も考えれば猶更です」


姫宮、衛宮姉妹、台場と視線を動かし、柳毒指は最後に俺を真っすぐに見つめる。

それはまるで何かを探るかの様な目つきに見えた。


「時に……皆さんはほとんど同時にレベル7に上がられたそうで?もしよかったら、私達兄弟にもその秘訣を教えて頂きたい物ですな」


「はっ!そんなもん、あねさ――ぐぉっ!?」


余計な事を口走ろうとしたので、俺は素早く台場のすねを蹴り飛ばす。


「す、すいません。姐さん」


蹴られて失言に気付いたのか台場が俺に謝って来るが、まあ相手が余程の馬鹿じゃない限り今ので勘づかれたろう。

レベル7に関して、俺が何らかの影響を及ぼしている事に。


郷間と言い。

台場と言い。

男の知り合いは総じて口が軽いから困る。


「私達のレベルアップはたまたまタイミングが重なっただけよ。変な勘繰りしないでくれる?」


「そうですか。これは失礼しました。まあとりあえず、今回の攻略は宜しくお願いします」


そういうと柳兄弟は一礼して離れていった。


しかしアレだな。

出で立ちのせいか、全ての挙動が不気味に見えて仕方がない。

まあ仮面を被ってる俺も大概だが。


「中国は人民への強制があるから……おかしい」


2人が去ってから、それまで黙っていた姫宮がポツリと口を開いた。

報酬の話についつい納得してしまっていたが、言われてみれば確かにそうだ。

あの国は国民に対する統制がきついって言うし、報酬がいいからなんて我儘はきっと通らないだろう。


となると――


「大方。レベル7が大量に出た事を不審に思って、スパイを送り込んだって所じゃないですか?あの国ならたとえ攻略が失敗に終わってダンジョンが顕現しても、それでレベル7への効率的な上げ方さえ分かればいいって本気で考えそうですし。さっきの質問なんてあからさまでしたから。まあもしくは、レベル7に上がったお兄ちゃん達の実力がどれ程か確認するためとか。レベル7の能力者の強さを考えると、軍事力的な意味でそれを把握しておきたいって考えるのは当然の事ですし。あっ!ひょっとしたら誰かの暗殺とかも考えていたりするかもしれませんよ。もしくはダンジョン攻略の妨害だってありうるかも!この国に損害を与えるつもりに違いないわ!なんてやつらなのかしら!攻略の失敗がどれだけ――」


「蘭さん。それぐらいで」


台場蘭が口を開いたかと思うと、マシンガンの様に喋り出し、内容が脱線し始めた所で山田が止める。

ほんとよくしゃべる子だ。


だがまあ、確かに彼女の言う通り、妨害の線も十分考えられるな。

レベル7の事を探りに来ただけなら問題ないが、一応あの二人に関しては少し気を付けていた方がよさそうだ。


邪魔されたからって失敗するとは思えないが、無駄に長引いても敵わないしな。

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