第39話 レベル7(仮)
「敵です!」
探索の能力を持つ菊池が警戒を発した。
俺もそれとほぼ同時に、スキルで敵の気配を察知する。
……レベル5で、俺の察知スキルと範囲はほぼ同等か。
因みに特殊能力を2種類以上持つプレイヤーの能力レベルは、すべて共通だ。
身体能力レベル5の人間が別の能力を開花させると、その時点でその能力も先に習得していた物と同じレベルになる。
「ストップ」
全員が足を止め、皆の肩を順番に菊池が触って回る。
すると脳内にイメージ映像が浮かぶ。
それはこの周囲の地形と、魔物の位置や動きだった。
転写と言う探索能力の機能で、触れた相手に短時間だが、自分の能力で得た情報を共有する事が出来るという物だ。
同じ能力を持っている凛音には使えないので、レベルアップによる追加機能なのだろう。
「レベル6の私から見て、少し赤いですねぇ」
毒指が色を宣告した。
色は能力者のレベルから算出された、簡易的な敵との戦力差の指標だ。
基本は白で、適正レベルよりも相手が強ければ強い程色は赤く染まり、逆に弱いと青色になっていく。
まあ所詮レベルだけが基準なので、余り確実な物とは言えないが。
「レベル5の俺達は、かなり濃いめの赤です」
「レベル7のレーンさんはどうです?」
「青だ」
恐らく青だと想定して答える。
実は俺からは、無色の丸にしか見えていない。
まあ能力者じゃないので、レベルとかないからな。
当然の事だ。
……しかし、味方も同じ表示だな。
敵が無色なせいか、レーダー上では味方との見分けが全くつかない。
これを頼りにしてしまうと、混戦になった時困りそうだ。
基本無視して、気配察知スキルや目視で確認しながら動いた方がいいだろう。
「流石はレベル7ですねぇ」
「敵の数は11か。私が8匹始末するので、レベル6の3人は残りを始末してくれ」
「お任せください」
「ワカッタヨー」
俺の指示に毒指とグエンが返事を返し、鉄針は無言でうなずく。
どうやら弟の方は姫宮と同じ無口キャラの様だ。
まあこっちは全く可愛くないが。
「レベル5の3人は後方待機で。万一近づいて来た魔物だけ3人で力を合わせて対応してくれ。その際も、決して無理はしない様に」
レベルアップという観点で考えるなら、こいつらも戦わせた方がいいんだろとは思う。
だがまあ、ぶっちゃけフォローするのが面倒くさい。
そもそもこいつらのレベル上げを手伝う意味もないので、余計な事は気にせずサクッと終わらせる事にする。
「じゃあ行こう」
相手はまだ此方に気づいていない様だが、スルーすると言う選択肢はない。
ダンジョン内の魔物は、見つけ次第始末するのが
奴らは色々徘徊しているので、放っておくとどこか別の場所で鉢合わせる可能性があるからだ。
放置した結果、他の魔物と戦うのに手いっぱいの状態で寄って来られたら、惨事に繋がりかねないからな。
「ゴーレムですか。参りましたねぇ。私の毒は、無生物には効果が薄いんですが。まあ、頑張るとしましょう」
体長は3メートル程。
黒いその重厚な体つきは、如何にも耐久力がありますと言わんばかりだ。
その材質は恐らくダークミスリルだろうと思われる。
ミスリルよりも軽く丈夫な金属で、異世界だと魔物だけが精製する事の出来た闇属性の金属だ。
「迎え撃つぞ」
此方に気付いたゴーレムの集団が突っ込んで来る。
見た目から一見鈍重そうに見えるが、そのスピードは決して遅くはない。
ごつごつした足場にも拘らず、軽快な速度で向かって来る。
まずは俺が突っ込み、それにレベル6の三人が続く。
俺は魔剣を引き抜き、手近なゴーレムの腕を切り裂いた。
勿論、全力を出すような真似はしない。
俺はレベル7の台場が剣を上手く扱った状態を想定し、それに準ずる程度の力で抑えて戦う。
それでもまあ、問題のないレベルだ。
「ふっ!」
俺が8匹倒し終える頃には、レベル6の3人も戦闘を終わらせていた。
1人1匹計算だったが、毒指は最初に申告していた様に、相性が良くなかった事もあって単独では1匹も倒せてはいない――勿論相手の牽制などで役に立ってはいただろうが。
それを補い活躍したのが、ベトナム人のグエン・コン・ドゥックだ。
衝撃波を用いた高速機動に、相手に直接触れて放つその破壊力。
実力はこの3人の中だと、ダントツと言っていいだろう。
「すげぇ……本当にたった一人で8体も倒してしまうなんて」
「これがレベル7の力なんですね!」
「こんな強さの人が5人もいるんだ。こりゃ攻略したも同然ですよ!」
戦闘が終わり、レベル5の3人が駆け付けて来る。
レベル7――疑似だが――の力を目にしてか、彼らは少し興奮気味だった。
「まったく。頼もしい事この上なしですねぇ」
「スゴクツヨカッタヨー。ボクモハヤクレベル7にアガリタイネー」
「まだ初戦に勝利しただけだ。気を抜くな」
少し浮かれ気味になった雰囲気に、俺は早めに釘を刺しておく。
気の緩みは事故に繋がりかねない。
まあ、探索の能力もあるのでそこまで慎重になる必要もないとは思うが、一応念のためだ。
「じゃあ進むぞ」
高レベルの索敵能力には、マッピング機能も付いている。
それを埋めるべく、俺達は先に進む。
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