第21話 アイドル
「共同攻略?」
「ああ。Aランクダンジョンの攻略を、一緒にやらないかって持ち掛けられたよ」
「どこだと思います?」
凛音が楽しそうに、俺の顔を覗き込んで聞いて来る。
何処かと聞かれても、正直どこでもいい――と言うか、どうでもいいってのが本音だ。
「グリードコーポレーションか?」
取り敢えず頭に浮かんだ名前を答えておく。
確か以前勧誘して来た山田って奴が、そこの所属だったはず。
「ぶっぶー。外れ!」
「まあグリードからも申し出はあったんだけど、そっちは秒で断ってる。あそこは評判があんまりよくないからな。この前の不正の件もあるし」
まあこっちはそのお陰で大儲けできた訳だが、だからといって不正する様な奴らに感謝して好感を持つわけもない。
「実はですね……な、なんと!共同攻略の話は、あの天下の姫宮グループからの話なんですよ!!」
凛音がテンションを上げ気味に説明してくれるが――
「知らん」
俺は素っ気なくそう返した。
いやまあ、名前はネットでちょろっと見た事があるので、全く知らない訳でもない。
ただダンジョン攻略してるって所だって事以上は知らないので、実質知らないと同じ様なもんだ。
「おいおい。姫宮グループは、日本に5人しかいないレベル6を3人も抱えてるダンジョン攻略のトップだぞ」
「へぇ……」
「あんまり興味なさそうですね、蓮人さん」
「まあぶっちゃけ……ゲーム以外は果てしなくどうでもいいからな」
大手だろうがレベル6が3人いるだろうが、俺には関係のない事だ。
それを知った所で得る物などない。
「ひょっとして、蓮人さんってツインスターも知らなかったりします?」
「名前だけなら知ってるよ。人気アイドルだろ?」
どんな奴らかまでは知らんが、偶にネットの纏めなんかに出て来る名だ。
以前興味半分でページを開いたら、気持ち悪い書き込みが羅列してあったのを覚えている。
その時は迷わず即閉じした訳だが。
ほんっと、アイドルオタクって気持ち悪いよな。
同じオタクでも、常に有用な情報を共有するゲームオタクとは天と地程に差がある。
俺の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい気分だ。
「そのツインスター――
「大人気アイドル兼、ダンジョン攻略者なんですよ」
「なんだそりゃ?」
二足の
ああでも、アニメとかだとアイドルが変身して世界平和のために戦ったりするから、そう考えるとそこまで不自然でもないのか。
「強くて可愛いが売りの、姫宮グループの広告塔みたいなもんだ。すっげー、可愛いんだぜ」
「ふーん」
「興味なさげですね」
どんなに可愛くても、現実の女には興味が湧かない。
昔はそうでもなかったんだが、異世界での経験から、生身の女性との恋愛にどうしても忌避感が湧いてしまう。
何せ、「勇者様ぁ~」とか甘ったるい声で俺の胸に飛び込んで来る女のほぼ全てが、その手に毒付きのナイフを握ってたからな。
鼻の下を伸ばすたびにそんなもんで刺さされそうになったら、そりゃそうなるわ。
「俺はゲーム一筋だからな」
まあ漫画やアニメも許容範囲ではあるが、やはり能動的に関われるゲームが最強だ。
「お前はぶれねぇな。ま、という訳で今度の仕事は姫宮との合同のAランクダンジョン攻略だから。頼んだぜ」
「いや、断れよ。なんで俺が知らん奴と組んで仕事せにゃならんのだ」
こっちは身分を隠してやってるんだ。
他人と仲良くダンジョン攻略なんて冗談ではない。
「嫌か?」
「嫌だ」
「けど、報酬は相当なもんだぜ。なんせAランクはBランクの数倍以上稼げるからな。今回の仕事の報酬、向こうさんは5億を提示してるぜ」
「マジで!?じゃあオッケーだ!」
5億と聞いて、掌をくるんと引っ繰り返す。
知らない奴らと一緒にってのは正直面倒くさいが、億単位の報酬が貰えるなら話は別だ。
俺の最強ギャルゲー計画には、とにかく金が必要だった。
郷間から既に4億は振り込まれているが、正直それでは全然足りない。
何せ半分近くは、税金で取られてしまうからな。
出来れば今の倍――いや、3倍は稼いでおきたい所。
「決まりだな。じゃあ攻略前に記者会見もあるから、そっちもちゃんとやってくれよ」
「うわ……めんどくさ」
まあ5億――半分は会社の取り分だから2,5億だが――の為だ。
我慢するとしよう。
―――姫宮ドーム―――
国内最大級の収容率を誇る、姫宮グループ所有の巨大ドーム。
それが姫宮ドームだ。
そのステージには眩いスポットライトが集まり、二人の人物の姿をきらびやかに照らし出していた。
一人は赤いドレスを着た20前後の女性。
もう一人は十代前半の少女だ。
同じ様な顔立ちから、二人が姉妹だという事が分る。
今日は衛宮姉妹――アイドルツインスターのコンサートの日だった。
ドーム内は熱狂的な彼女達のファンで埋め尽くされ、会場内は異様な熱気に包まれている。
「みんなー」
「今日はツインスターのコンサートに来てくれて、本当にありがとー!」
そんな二人のコンサートは、丁度先程グランドフィナーレとなるデビュー曲が終わった所だ。
そして今、締めの挨拶が行われていた。
「「また私達に会いに生きてねー!待ってるから―!」」
姉妹の声が綺麗にハモり、二人が客席に向かって大きく手を振る。
「玲奈ターン!愛してるー!」
「聖奈ー!好きだー!」
「次も絶対来るから―」
観客席から思い思いの魂の雄叫びが投げかけられる中、二人のコンサートは幕を下ろした。
そして一仕事を終えた衛宮姉妹は楽屋に戻ると――
「きっも!きもいのよ!」
幼い少女――衛宮玲奈が鼻息を荒くして、楽屋の椅子を蹴り飛ばした。
「ったく!なんであたしがキモいアイドルオタ共に、愛想を振りまかなきゃならないのよ!」
「姉さん。ファンの皆は私達の事を応援してくれてるんだから、そんな風に言うのは――」
「あんたはいいわよ!普通に呼ばれてるんだから!あたしは‟タン”呼びよ!こちとらもう成人してるってのに!雑魚の癖にマジでキモイ!」
衛宮玲奈は見た目こそ幼いが、れっきとした成人女性だ。
見た目から聖奈の妹と勘違いされがちだが、実は彼女の方が姉だった。
「このささくれた気持ちを癒すには……姫しかないわ!マネージャー!姫はどこ!」
「姫宮様でしたら、今日は用事があってもう帰られました」
興奮気に叫ぶ玲奈に対し、眼鏡をかけた幸薄そうな顔をしているマネージャーの女性が冷静に返す。
「そんな……」
「姫宮さんは忙しいからしょうがないわよ」
「ぐぬぬぬぬ……こうなったら!」
玲奈は少し唸ったかと思ったら、テーブルに置いてある自分の鞄に手を突っ込んだ。
そしてなかから、携帯用のゲーム機を取り出す。
「これよ!」
「それって、姉さんが無理いって手に入れた……」
「そう!来月発売予定の携帯版『義妹を育てろ!エンジェルハニー♡完全版』よ!こうなったら、可愛い妹達に癒して貰うしかないわ!」
そう宣言すると、彼女はゲーム機の電源を入れた。
小さな画面の中に、愛らしい少女達が次々と現れては消えていく。
オープニングムービーだ。
それを衛宮玲奈は、至福の表情で見つめていた。
「姉さん……」
実の妹の前で、妹を攻略するゲームを堂々と始めようとしている姉に聖奈は引き気味だ。
そんな彼女の様子に気付いたのか――
「何よその目は!まさかそれじゃアイドルオタと変わらないとか、そんな風に思ってるんじゃないでしょうね!」
衛宮玲奈は、妹の考えを盛大に勘違いする。
「いや……別にそんな事は思ってないけど」
「あんなのと一緒にしないでよね!アイドルオタはオタク界最弱の雑魚どもよ!そう!ゲームオタクこそ至高!」
何が違うのか妹である聖奈にはさっぱり分からなかったが、姉の並々ならぬ情熱に気おされ黙り込むしかなかった。
それを納得したと判断した玲奈は、ゲームに意識を戻そうとするが――
「そうそう、お伝えする事があります」
それをマネージャーの女性に遮られる。
「ん、何?」
「フルコンプリートとの、合同でのAランクダンジョン攻略が決まりました』
「フルコンプリートぉ?どこよ?聞いた事のない名前ね」
エギール・レーンが世間の話題に上がっているとはいえ、弱小企業であるフルコンプリートの名を知らない者はまだまだ多い。
「姉さん。最近噂になってる、例の新しいレベル6の人が所属している所よ」
「ああ、エリンギだかなんだかって名前の」
「エギール・レーンです。玲奈さん」
「名前なんてどうでもいいわよ」
マネージャーが間違いを訂正するが、玲奈はどうでもよさげだった。
「仮面なんて付けてる時点で、不細工確定なんだから。私は興味ないわ」
彼女は綺麗な物や愛らしい物が大好きであり、そうでない者への関心は薄い。
「それに能力だって、どうせ大した事ないでしょ。調子に乗ってうちの合同攻略なんかにのこのこ出て来ちゃって。この際だから、実力の差を見せつけてあげようじゃない」
そう言うと、衛宮玲奈は不敵に笑う。
彼女はエギール・レーンを格下と決めつけていた。
だが彼女は知らない。
勇気蓮人が持つ、驚異的なその能力を。
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