第20話 追加能力

「納得いかねぇ!」


郷間の奴が不満を口にする。


「俺に言われてもな」


限界突破は日を跨がせ、郷間と凛音にそれぞれ2回づつ施してある。

1回目より2回目の方が苦痛の時間がかなり長くなるのだが、郷間の不満はそこではなかった。

別の理由だ。


因みに、生物の限界突破の上限は2回と言われている。

それ以上の強化は出来ない。


――但し、俺の場合は話が別だが。


限界拡張に対する極端な適性。

それが俺にはあった。

そしてだからこそ、俺は異世界に召喚されたのだ。


通常の倍の限界突破による圧倒的なフィジカル。

そして召喚時に付与された、あらゆるスキルを習得出来る様になる能力。

この二つを持つ俺なら、魔王すらも打ち倒せる。

そう期待されて。


4回目はマジで地獄だったよなぁ……


苦痛は1回目は5分程度。

2回目は20分ほどだ。

だが3回目になると、一気に数時間まで伸びた。

更に4回目に至っては、丸1日苦しむ羽目になっている。


本当は3回目の時点で止めておくつもりだった。

余りにもきつくて。


4回目に踏み切ったのは、イフリートとの戦いがきっかけだ。

俺の無謀のせいで、多くの命が失われたあの戦い。

あの時、自分のために死んでいった人達の為に強くなると、俺は決めたのだ。


――だから4回目の限界突破に踏み切った。


思えば、俺が本気で世界を救おう考え出したのはあれからだ。

それまでは、心の底でどこか他人事の様に考えていた。


「せっかく二つ目の能力に覚醒したってのに――」


限界突破を行った二人。

郷間と凛音には、生物としての限界を押し広げた以上の効果が待っていた。

それは二つ目の特殊能力だ。


能力者の中には、稀に2つ目の能力を覚醒する者がいる。

どうやら郷間兄妹には潜在的な能力が秘められていた様で、それが限界突破によって覚醒していた。


凛音は水を生み出し、操る能力。

そして郷間の二つ目の能力は――


「何で俺だけ二つともサポート系なんだよ!」


結界だった。


「優秀な能力じゃない」


凛音の言う通り、悪くない能力だ。

ただ敵を倒すのには向いていないが。


「お兄ちゃんは結界で防御して、私の水の力で敵を倒す。コンビネーションとしては上々でしょ?」


「それだと俺のレベルが上がらねぇじゃねぇか!」


能力者のレベルは魔物を倒す事で上げる事が出来る。

逆に言うと、防御してるだけでは一切上がらない。

攻撃手段を持たないサポート系の凛音と郷間のレベルが――2人とも1――いままで上がっていなかったのは、そのためだ。


「まあ一月も訓練すればゴブリンぐらいは倒せる様になるだろうから、レベルは自力で倒してあげればいいだろ」


「いやいやいや、そんな短期間で倒せるようになる訳ないだろ。限界が増えたからって、別に直ぐ強くなれる訳じゃあるまいし」


「ん?直ぐに強くなれるぞ。暫くは成長速度が数十倍になるからな」


「え?」


「100メートルを15秒でしか走れない奴がタイムを1秒縮めるのは、それ程難しくないだろ?でも9秒台で走るアスリートは0,1秒縮めるのに年単位の努力が必要になってくる。それに近い感じさ」


生物の成長速度は、限界が近ければ近い程鈍っていく物だ。

逆に言えば、限界から遠ければ遠い程その速度は加速する。


今の郷間達は二度の限界突破で、その上限は通常の人間の4倍近い所に達しているからな。

その際の成長速度は単純な4倍ではなく、限界から遥かに遠い分数十倍にまで膨れ上がっている。


「マジでか?」


「只の15のガキだった俺が、たった5年で異世界の魔王を倒したのがいい証明だろ?」


異世界に飛ばされた時、俺は何の力も持たない非力な人間だった。

それがたった5年で魔王を倒すにまで至れたのは、限界突破によって尋常ならざる成長速度があったからに他ならない。


限界の高さから来る超成長能力と、全てのスキルを習得出来る召喚時の能力の付加。

この二つがかみ合う事によって生まれる戦闘能力を期待され、俺はエギール・レーンに召喚されたという訳だ。


「成程。確かに普通に考えりゃ、たった5年頑張ったぐらいで、今みたいな異常な強さになれる訳ないわな」


「そう言う事。因みに、帰って来てから1年間だらけまくったせいで死ぬ程鈍ってたりするけどな」


1年間バイトは分身にやらせ、俺自身はずーっと座ってゲームしてたからな。

全盛期を100だとするなら、今の俺の身体能力は80位にまで衰えている。


ほんと、動かないと人間ってすぐダメになるよな。

まあ鍛えなおせば、1ヵ月もあれば元に戻るとは思うが。


「鈍りまくってて、Bランクダンジョンを余裕でクリアかよ」


「ほんっと、蓮人さんって規格外ですよね」


「まあそれぐらいじゃなきゃ、魔王は倒せなかったって事さ」


正直言えば、それでもまるで足りなかったと言うのが本音だった。

俺がもっと強ければ、仲間達を失う事などなかったはずだ。

そう思うと未だにやりきれない気持ちになる。


「まああれだ。郷間は結界で防御しながら、直接攻撃するスタイルで頑張れ」


「おう!しっかり鍛えてくれよ!」


「ん?言っとくけど、教えるのはゲームの合間程度だからな」


俺はゲームに忙しいので、郷間達に付きっきりなどありえない。

鍛え方だけ教えるので、後はちょくちょく様子を見る以上の事をする気はなかった。


「おいおい。そんなんで本当に1月でゴブリンを倒せるようになるのか?お前から見たら雑魚でも、普通の人間からしたらあいつら化け物なんだぞ?」


「全く問題ねーよ。ま、お前がサボらず真面目に訓練すればの話ではあるがな」


「それなら安心してください。私がちゃーんと、お兄ちゃんを見張りますから」


「そりゃ安心だ。凛音がちゃんと見張ってくれるってよ。良かったな、郷間」


「うるせぇ。人がサボるみたいに言うな」


郷間がどこまで強くなれるかは、本人の努力次第だ。

流石にあんまり不甲斐ない様なら、本格的に俺がしごく事になるが……

まあ凛音が見張ってるなら真面目にやるだろうし、大丈夫だろうとは思う。


「取り敢えず、訓練は明日からだから。今日は二人ともゆっくり休むといいよ」


元気そうに見えても、限界突破の影響は少し休んだくらいじゃ回復しない。

今日はゆっくり休ませ、訓練は明日から行う。


「じゃ、また明日な」


用が済んだので、俺はさっさと帰途に就いた。

何せ家では、可愛い義妹が俺の帰りを待っているのだ。

早く顔を見せてあげないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る