第14話 ドラゴンモドキ

「びっくりしたー」


灼熱の蛇――ラヴァスネークと命名――が急にブレスを吐きかけて来たので一瞬面食らってしまったが……まあ大した事はなかった。

恐らく鎧を着ていなくとも、ダメージは殆どなかっただろう。


「ま、所詮オークジェネラル級だからなぁ」


見た目は強そうだが、所詮雑魚は雑魚だ。


「真空波!」


特にみるべきところもないので、スキルを発動させる。

投石じゃないのは、空を飛んでいるため石ころが落ちていないからだ。


「ぎゅううううう!」


俺の放った真空の刃が蛇を一瞬でばらばらにしてしまう。

細切れになった魔物は、そそのまま溶岩の中に沈んでいった。


「あ……」


倒してからとんでもない事に気付いてしまう。


「これってやっぱ……ドロップ全部溶岩の中だよな?」


魔力結晶は溶岩に浸かっても大丈夫な気はする。

だがそれ以外はダメじゃないか?

あと、溶岩に沈んだの拾いに行くの超面倒くさい。


溶岩に飛び込む事自体は全く問題ないが、探索してアイテム探しするのは果てしなく面倒くさい作業になる。


「まあ今回は運がなかったという事で」


次からはスキルで相手を浮かせるなりして、ドロップを回収できる様に努めるとしよう。

本当に面倒くさいダンジョンだ。

俺は小さく溜息をつき、探索を続ける。


「敵は2種類だけか」


ダンジョン内は溶岩帯と、細い陸地が延々続いている感じだ。

今の所出て来た魔物は先ほどの蛇と、全身から火を噴き出しているゴーレムの2種類だけである。

まあFとEのダンジョンではボス以外一種だけだったので、Cランクといってもそんなバラエティに富んだ構成ではないのだろう。


ドロップ品は魔力結晶を除けばゴーレムの落とす赤い鉱物と、蛇の落とす鱗と牙。

後は共通ドロップの青い瓶に入ったポーションだけだ。


鑑定用の魔法で確認した所、ポーション以外は全部不明と出る。

まあ使った魔法は元々異世界にある物質を鑑定する効果なので、この世界にしかない物を判定する機能が無かったためだろう。


「となると、郷間の鑑定を習得しなきゃならんな……いや、まあ別にいいか。面倒くさいし」


能力者の特殊能力は、習得難度が無駄に高い。

覚えようとすると頑張らないといけない訳だが……ぶっちゃけ、そこまでする価値が見当たらなかった。


知らなくても別に困らないしな。


金になるかどうかの話なので、その辺りは郷間が上手くやるだろ。

それすらも出来ない様なら、我が悪友は完全なポンコツだ。


「つうか……俺が延々ダンジョンを攻略するより、あいつ鍛えて自分で攻略できるようにした方が楽だよな」


ふと、名案を思い付く。

郷間が強くなれば、態々俺が頑張る必要などなくなる。

あいつ自身で攻略させればいいのだ。


「よし!決まり!」


育成のノウハウは、異世界で嫌という程身をもって体験させられているからな。

それを叩き込んでやるとしよう。


自分の会社を守るためだ。

それぐらいの努力をするのは当然の事、拒否権は与えない。

嫌がったら強制するまで。


「待ってろよ。郷間。俺が無理やりにでもお前を強くしてやるからな」


郷間が悲鳴を上げる姿を思い浮かべながら、機嫌よく魔物を狩りまくっていると、大きな気配に辿り着いた。

単にデカいだけではないのなら、恐らくボスで間違いないだろう。


「ドラゴンか。思ったより大物が出て来たな」


流石Cランクといった所か。

相手は目測で体長10メートル程のドラゴンだった。

奴はゆっくりと起き上がり、此方を睨みつける。


「しかし……ドラゴンにしては小柄だな」


俺の知るドラゴンは、最低でも大抵体長20メートルは超える巨体だった。

だが、目の前のドラゴンはそれに比べるとかなり小型だ。


子供のドラゴンだろうか?


だがまあ腐っても最強種だ。

子供であっても、ここまで相手して来た魔物とは流石に格が違うだろう。


多分。

恐らく。


「いやまあ、でもなぁ……」


俺は軽く首を捻る

異世界で遭遇した奴らとは違い、目の前のドラゴンからは威厳というか、オーラといった物が一切感じられない。

そのためか、どうしても弱っちく感じてしまう。

子供と言う分を差し引いても、アレな気がしてしょうがない。


ていうか本当にドラゴンか?

こいつ。


そんな考えすら頭に浮かんでしまう。


「ま、やってみりゃわかるか」


まあ相手がドラゴンでも、今の俺が負ける要素はないからな。

油断せず戦えばいいだけだ。


「真空波!」


「ギャアアアアア!!」


放った刃がドラゴンの片翼を切り落とし、ドラゴンが苦痛の雄叫びを上げる。


「え!?あたった!?」


間合いは100メートル程ある。

これだけ離れていたら、いくら高速の攻撃でも躱されるだろう。

そう思って放った威嚇の攻撃が、見事にドラゴンの片羽を切り飛ばしてしまった。

想像以上の反応の鈍さに逆に面食らう。


ドラゴンは巨体だが、その体躯に見合わない高速な動きをする生き物だ。

その素早い身のこなしに、どれ程手を焼かされた事か。


「やっぱドラゴンじゃないな。少なくとも、異世界のドラゴンとは別物か」


小型なのに動きまで鈍いとか、見た目が似ているだけの別物と考えて正解だろう。

確かCランクのボスは1ランク上のBランクらしいので――郷間情報。

この様子ならBランクの魔物も大した事はなさそうだ。


ま、進んで攻略しに行く気はねーけど。


何せ、ここからは郷間を鍛えないといけないからな。

ゲームと特訓で手一杯だ。

ダンジョンを攻略している暇などい。


「ガアアアア!」


ドラゴンモドキが怒りの咆哮と共に、閃光の様なブレスを放つ。

声だけはいっちょ前に大きい。


「さっさと終わらせるか」


特に必要は無い様に思えたが、一応ドラゴンモドキのブレスを躱しつつ、俺は反撃する。


「くたばりな!真空波!」


「ギシャアアアア!!」


スキルで無数に生み出した真空の刃が、その巨体を八つ裂きにする。

バラバラになった奴の体は消滅し、魔力結晶と赤い短剣へと変わった。


「武器って、当たり外れが凄いんだっけか?」


武器類を攻撃として使うのは、身体強化の特殊能力者だけだ。

それ以外は込められた特殊な能力を目当てに使う訳だが、大抵は糞の役にも立たないゴミだと、ネットに載っていた事を思い出す。


ま、俺が使う訳でも無し。

どうでもいいか。


兎に角、ダンジョンクリアだ。

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