第13話 偽装
「取り敢えず、手近な魔物の方に行ってみるか」
気配察知のスキルを発動させ、飛行スキルで真っ直ぐ反応のある方向へと向かう。
2時間という時間制限があるので、細い陸地をチンタラ歩いてなどいられない。
「この景色、炎のダンジョンを思い出すな……」
灼熱の世界を見下ろしながら、一人つぶやく。
溶岩地帯の続くこの世界を見ていると、かつてイフリートと呼ばれる魔人と戦った時の事が頭を
奴とは2度戦い。
最初の戦いは完敗に終わっていた。
あれは異世界に飛ばされて2年程の事だ。
当時の俺はまだまだ何も分かっていない未熟者で、選ばれた存在である自分ならなんでも出来るなんて、馬鹿な事を本気で考えていた。
――そんな時に、炎のダンジョンで出くわしたのがイフリートだ。
相手は明らかな格上だったにも
自分なら倒せるという思い上がりから。
結果は惨敗。
しかもそんな愚かな俺を逃すためだけに、多くの仲間が犠牲になる事に……
イフリートはその1年後に再戦し、倒しはした。
だが、死んだ人間は戻ってこない。
その事を思い返すたび、愚かだった自分をぶん殴りたくてしょうがなくなる。
「今回のは、見た事のない奴だな」
溶岩の中から、赤い蛇の様な魔物が頭を突き出していた。
その皮膚はまるで熱した岩石の様に見える。
異世界では遭遇する事のなかったタイプの魔物だ。
「まあでも、オークジェネラルと同じランクって事は雑魚か。ん?」
此方に気づいた蛇が大きく口を開く。
そして次の瞬間、俺の視界が真っ赤に染まり上がった。
◆◇ ◆◇ ◆◇
「ん?」
蓮人がダンジョンに入ってから、既に30分ほど経つ。
凛音や記者達と攻略終了を待っていると、車が二台此方へと近づいてきた。
「兄さんが呼んだの?」
「いや、知らん」
ここの権利はフルコンプリートで買い取っているので、誰も入って来れないはずなんだが?
警備の奴らはいったい何をしているんだか。
車が止まり、中から男が7人降りてくる。
鑑定すると、7人中6人が能力者だった。
俺はその事に警戒し、身構える。
「初めまして、高瀬と申します」
スーツ姿の男が話しかけてきた。
唯一能力者ではない男だ。
その胸元には、協会所属を示す徽章が付けられていた。
どうやら協会の人間の様だが……能力者なんて連れて来て、いったい何の用だろうか?
「郷間です。本日はどう言ったご用件で?」
「実はここのダンジョンなんですが、本来はあちらの方々が買い取られるはずだったんですよ。それが職員の手違いで、誤って郷間さんに販売されてしまった様でして」
「まさか譲れと?言っておきますが、うちの人間がもう中に入ってますから。いまさら無理ですよ」
手違いだろうがなんだろうが、既にこっちが買った権利だ――まだ金は払ってはないけど。
わざわざ記者まで呼んで攻略を始めている以上、今更他所に譲るなんて選択肢はない。
「あーあ、入っちまったのか?可哀想に」
男の一人が、憐れむかの様な声を上げる。
確かに灼熱のダンジョンは、普通なら厳しい場所だろう。
だか蓮人なら問題ない。
「クリア出来る目処があるから行かせたんだ。可哀想呼ばわりされる謂れはないな」
「目処ねぇ……ま、じきに答えは分かるさ」
男は何故か自信満々だ。
まるで此方の失敗を確信しているかの様に。
「まあ、でしたらこうしましょう。そちらが失敗したら、その時は此方に譲って貰うという事で」
協会の人間である高瀬も、まるで失敗する事を前提で話している様だった。
こっちは自信があって攻略しているのに、絶対に失敗すると確信しているかの様なその口ぶりに、違和感しかない。
――そこでハッと気づく。
「偽装……」
頭の中に浮かんだ言葉を思わず呟くと、その瞬間高瀬の目つきが鋭くなる。
「いったい何の話でしょう?根拠のない言いがかりは止めて頂きましょうか」
――クリスタルのデータ偽装。
前々から噂は耳にしていた。
それはダンジョンのランクを誤魔化し、規定額より遥かに低い値で特定の企業や団体に販売する行為だ。
当然関わっている者は、それに伴う
価格で言うと、Cランクは1億程。
Bランクの方は、本来5億を超えて来る。
その差額は約4億。
買う側は間違いなくぼろ儲けだろう。
何でそんな物が俺の所に回って来たのかは知らない――間違いなく何らかの手違いだろうとは思う――が、間違いなくこのダンジョンはBランクだ。
「だとしたら不味いな……」
Cまでとは違い、Bランクからはダンジョンの難易度が極端に跳ね上がると言われている。
能力者ならレベル5を中心に、サポートするレベル4が複数人必要なレベルだ。
蓮人も出鱈目に強いとは思うが、流石に単独じゃきついはず。
無理せず帰還してくれればいいんだが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます