谷真冬は秘めない



 うーんとね、前から思ってたんだけど、あたしにとって森山伊秋っていう人は、やっぱり運命の相手だと思う!

 なんかこう、フィーリングがまじバースト的な?

 こう声を聞くだけで、臍の下あたりがきゅるきゅるなって、姿を見てるだけで、頭の中がぽわぽわとしてくる感じ。

 これが恋じゃないなら、もうこの世に恋とかいう概念いらなくない!? ってまじで思う!


「オイ、茂木ィ。どう思うんだよ。答えろ。十秒以内に答えなきゃ、わかるよナァ?」


「えぇ……わ、わかるっすけど、わかりたくないっす」


 でも、でもでもでもでも! 最近ちょっちピンチかもしんないの!

 俗に言うライバル登場的な!?

 まあライバルっていうと少し変かも。

 なんかけっこう複雑な乙女スピリッツなんだよね。


「あの新人。お前はどう思うんだよ。ア?」


「いやだから、なんでハルちゃんの仕事ぶり聞くだけで恫喝口調なんすか……」


 と、いうわけで、このあたしのセンサーにまじで何も反応しない、ザ・ボンクラ男こと、茂木悟くんを居酒屋に呼び出して今は恋の相談中!

 なんでかわからないけど、こいつやたら女性客からの評判が良いんだよね。

 だから一応、恋バナはこいつに相談しとく!

 茂木くんはイケメンとか、話面白いとか、周りの人から謎に高評価。

 なにがいいんだろ?

 あたしからしたら、森山きゅんに比べたらアリンコだと思うんだけどな。

 気をつけないと踏み潰しちゃう的な!? ばくわら!


「てか、普通にいい子だと思うっすよ? 実際、ハルちゃんのおかげで、結構最近、うちの店、土日とかは予約でいっぱいになってるし。店の半分ギャラリーにしちゃったから席とか回転率とか下がったすけど、売上自体は伸びてるし。なんならすでにある意味エース級じゃないすか?」


「おい茂木コラ」


「え、なんすか」


「あたしが聞きたいのは、そんなことじゃねぇんだよ。頭ん中ケチャップでも詰まってんノカ? 叩き割って出してやるよ」


「比喩の使い方がスプラッターすぎる。やべぇよこの店長」


 もう! まじ茂木ばかなんだけど!

 ほんと、使えない。

 なんでこんな鈍感鈍男がわりとモテる感じの人生歩んでるわけ?

 仕事の売上なんてどうでもいいの!

 あたしが気にしてることなんて、ひとつに決まってんじゃん!


「森山だよ、森山。ふつうに考えたらわかんだろ。次わけわかんねぇこと言ったら給料減らすぞ?」


「いやいや、どういうこと? 話の脈絡自由すぎるっすよ」


「はい。ゼロ」


「即ゼロ! 減らし方の緩急が強すぎる!」


「なにピーチクパーチク騒いでんだよ。ほんとうるせぇだけで使えねぇなお前は」


 茂木くんと喋ってると、やっぱり森山きゅんみたいに、あたしの気持ちをなんでもわかってくれる人は、他にはいないんだってよくわかる☆

 あたしたちってやっぱり以心伝心♡

 他に代わりの相手なんていないんだあ。


「……森山と笹井だ。次にあたしにここまで言わせたら、マジでお前の臓器から給料さっぴくからな」


「おいおい、俺が働いてる店って、合法だよな?」


「ア?」


「なんでもないっす。それで、森山っすか? あいつとハルちゃんがってことすか?」


「腎臓」


「二つあるからって気軽に取ろうとしないでください。でもなるほどっす。それを店長は考えてるんですね。まー、たしかに。そうっすよね。店に入ってきた経緯も中々にドラマチックっすからねぇ。そういう問題がこの先、或いはすでに芽生え始めていても仕方がないところはあるっすよね」


 やっとこのボンクラは頭の細胞の一片を動かし始めたみたい!

 そうそう! 問題はあの笹井ハルとかいう子が、あたしの森山きゅんに惚れてるんじゃないかってこと!

 たしかに正義感マシマシの森山きゅんが、クソ男に捕まってるいたいけな女の子を放っておけなかったのはわかるけど、それはそれ、これはこれ!

 だからって、あたしとほぼ婚約同然の森山きゅんを自分のものにできると勘違いされたら困るわけ!


「恋愛問題っすか。まさかこのメトロポリターノでこんなことで悩む日が来るとは思わなかったっすよ」


 大した頭もないくせに、考え込むようなそぶりを見せる茂木くん見てると笑ってうっかり手が出そうなんだけどウケる☆


「しかも、森山とハルちゃん、二人の問題じゃないっすからね。プラス、もう一人、三人の問題っすもんね」


「オ、話が早いナ。さすがにお前みたいな間抜けでも気づいてたか」


「逆に店長気づいてたんすか?」


「何が逆なんだ?」


「え?」


「肝臓」


「致命傷すぎる。勘弁してください」


「レバー」


「言い方の問題じゃないっすよ!?」


 あたしが森山きゅんにお熱なことは、さすがに茂木のウスノロでもわかってたみたい。


「恋愛問題かー。今はまだ平穏ですけど、たしかに、いつかは問題になるっすもんね」


「残念だが、その時は実力行使だけどナァ」


「ってか、店長はどうなんすか? なんか前、ネタかよくわかんないっすけど、森山にきゅんみたいなこと言ってませんでした?」


「ア?」


「あ、すいません。なんでもないっす」


 うん? なに言ってんのこの馬鹿茂木は?

 あたしからの恋愛相談なんだから、あたしはどう考えても森山きゅんラブ一筋諦める選択肢はないに決まってるよね?

 殴る?

 蹴る?

 絞める?

 それかあ、折る?


「まあ、こればっかりは、なるようになるしかないんじゃないすか? 結局は森山次第っすよ」


「……チッ、使えねぇ。お前にきいたあたしが馬鹿だったわ。片耳で許してやるよ」


「いやいや、臓器じゃなければいいってことでもないっすよ!?」


 やっぱり茂木くんは見た目通り頭がからっぽだから、相談しても何の役にも立たない。


 あー、はやく森山きゅんに会いたいなぁ。


 あたしは、この恋の思いを秘めるつもりはない。


 いつだって全力投球。

 だから、もし、そこに邪魔が入るならあ、どんな理由があっても、排除しちゃうんだあ♡



 だって、あたしと森山きゅんの恋が実らないなら、この世界に恋なんて、存在する必要ないもんね☆

 

 


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