第2話

「ぐ――っ! なんていうプレッシャーだ!」


 これがかつて<正義の体現者>とまで言われた【トーヨー・スイサン】の絶対エースと相対した圧力か――!


「いいだろう、<赤いきつねスカーレット・フォックス>の名を継ぐ聖剣の担い手よ。我が愛しき一番弟子よ。正義と悪が雌雄を決するのに、これほどふさわしい相手はいない。我が愛刀・菊一文字正宗の力、文字通りその身体に刻み込んでくれようぞ──!」


緑のたぬきエメラルド・ラクーン>がスラリと正宗を抜いた。

 鞘から出た瞬間から強烈な威圧感を放ち続けるエクスカリバーと対照的に、それは凪の湖面のごとく静かなままで、振るわれる瞬間をただじっと待っている。


 しかし間違いなくそれは、正義を志す仲間たちを幾人も葬ってきた業物であり。

 その静謐なる姿に俺の本能が死の予感を感じ取り、思わず後ずさりしてしまいそうになる。


 だがしかし!

 俺の正義はそんなもので怯んだりはしない!


「やれるもんならやってみろ。俺はあなたを倒して、俺の正義を体現する!」


「言うようになったな。もはや問答はいらぬ。さぁ来い<赤いきつねスカーレット・フォックス>!」


 その言葉を皮切りに。

 俺のエクスカリバーと<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>の正宗が激しくぶつかりあった!


 キンキンキンキンキンキンキンキン!


「なっ、俺の必殺、下段八連突きがいともたやすく防ぎ切られるなんて!?」


 必殺の連撃でもってしかけた電光石火の先制攻撃を全て防がれてしまった俺は、思わず驚愕の声をあげてしまう。


「舐めるな! この程度の攻撃なぞ、私にはわずかたりとも通用せぬわ!」


「くっ──!」


「次はこちらから行かせてもらうぞ! はぁぁぁっ!」


 裂帛の気合とともに、<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>が神速の踏み込みで鋭く斬り込んでくる!


 キン!

 ギンッ!

 ギャキィン!


 目にも止まらぬ<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>の連続攻撃!

 俺は聖剣エクスカリバーを巧みに操り、必死にかわしてさばき、いなしてしのいだ。


 しかし文字通り防戦一方に追い込まれてしまう。

 <緑のたぬきエメラルド・ラクーン>の放つ圧倒的な剣技の前に、俺は命からがらギリギリの綱渡りの防御を強いられていた。


「くっ、やはり尋常じゃなく強い! さすがは俺に戦いの全てを教え育ててくれた人だ!」


 しかもただ強いだけでない。

 その太刀筋には、得も言われぬ美学が込められているのだ。


 様々な姦計でもって世界中に悪をばらまいてきた姿からは微塵も想像できないほどに。

 <緑のたぬきエメラルド・ラクーン>の剣技は今も昔と変わらず正義を体現しているようだった。


 それは時に厳しく、時に優しく。

 毎日のように俺に正義の何たるかを教え諭してくれた昔の師匠そのままで――。


 だけど。

 いやだからこそ。


 俺は許すことができなかった。

 昔のままの剣を振るいながら、なのに悪の道に堕落してしまった<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>のことを。


 俺は絶対に許すことができなかったのだ――!


「どれだけ強くとも! ここで必ず! 俺は<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>を倒す――!」


 キンキンキンキンキンキンキンキン!

 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 俺と<緑のたぬきエメラルド・ラクーン>は鋭く激しく、命を燃やして苛烈に激烈に打ち合い続けた。


 剣と剣を。

 心と心を。

 なによりも己の魂と魂を!


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