因島から生口島へ

「まず因島大橋ね」

「行ったらわかるはずや」


 向島の宿は尾道海峡大橋に近いとこやねん。そやから島の南まで走らんとアカン。アカンて言うほど気合もいらんやろけど、まずは西側に走って行ったんよ。海に突き当たったら海岸に沿って南に走っていくねん。


「見えて来たよ」

「さすがに大きいで」


 この辺に来たら案内標識があるはずやねんけど・・・それにしても雄大やな。


「入口まで一・一キロだね」

「そうや」


 橋見上げてて見落としとったみたいや。まだ一キロもあるんか。原付道の入り口の前にバイクを止めて、


「ここだよね」

「そう書いてあるからここやろ」


 こりゃウッカリしとると見落として通り過ぎそうやな。クルマやったらデカデカと案内出てるはずやけど、なんて遠慮深いんよ。遠慮深すぎる気がするわ。クルマのICとはエライ違いや。


 それと道の細いこと。クルマの一車線分ぐらいに無理やりセンターライン引いてるやんか。原付と自転車、後は歩行者しか通らへんのはわかるけんど、さすがにすれ違うんも怖いな。


 それとやけどクネクネ曲がりよるし、結構登るな。当たり前か、あの橋の高さまで登らんと入られへんもんな。なるほどこうなっとるんか、あれっ、料金箱があるはずやけどあらへんやん。まあ、ええか。


「自動車道の下なんだね」


 いやぁ、景色はエエけど柱多くてちょっと見にくいな。


「ここで払うんだね」


 料金箱は出口側にあったんか。ここから下りやけど、また曲がりくねってるな。出口や、これで無事因島に上陸や。えっと因島大橋記念公園に入って、あったあった、


「なるほど! 因島と言えば八朔だ」


 これはコトリも恥ずかしながら知らんかった。因島は村上水軍の根拠地の一つやねんけど、東南アジアまで交易してるんよ。向こうで柑橘類も食べるんやけど、種はペッペッやってんやろ。


 それを踏んづけて因島に持ち込んで育ったんもあったらしいけど、自然に交雑した末に出来上がったの八朔や。最初のが生えたんが浄土寺って寺で幕末の頃らしいわ。言われてみれば江戸時代に八朔なんか聞いたことあらへんかった。


 それはともかく橋見ながらはっさく大福や。大福やけど朝食代わりやから、はっさく甘夏大福、丸ごとみかん大福、豆だらけ大福、ジャンボいちご大福、ぶどう甘夏大福と制覇したった。


「豆だらけ大福って案外いけたね」


 そこから今度は白滝フラワーラインを登るで。登り詰めたら八合目駐車場。ここから歩きや。因島にも八十八か所があるんやな。ここも札所で八栗寺っていうんか。


「五百羅漢だね」

「加西のより立派かもな」


 白滝山の眺望も満喫したら八合目駐車場から少し下ってフラワーセンターの方に下りたんや。さすがにフラワーセンターはパスして、今度は因島水軍城や。さっさと見て回って駐車場で道の確認しとったら、


「どちらから来られたんじゃ?」


 学生やろな。二人連れの若い男の子やった。聞くと、しまなみ海道を四国に行くみたいや。まあナンパやねんけど、気の良さそうな二人やったから、


「ユッキー、コトリはかまへんけど」

「旅は道連れよね」


 ジュシュルはエエんかいな。まあ当分来そうにあらへんもんな。名前を聞くと、


「近藤です」

「土方です」


 沖田がおったら新撰組やんか。声かけて来た理由の一つはバイクも同じか。見た目だけやけどな、


「ブレーキがダブル・ディスクになっとるのを初めてみたけん」


 まあな。見た目はノーマルやけど、中身は化物やからしょうがあらへん。コトリたちの観光希望を言うと、


「精一杯がんばるけん」


 さすがは道知ってるわ、行きたかった本因坊秀策記念館もすんなりやし、大山神社ってところも寄ってくれた。


「自転車の神様だって」

「あれ狛自転車やろか」


 因島大橋の出入り口はちょっと手強い感じがしたから助かったかな。とにかく見たいとこ多いから、ガイド役がおったら助かるねん。あっさり生口橋にも乗れたもんな。自分で迷いながら探すんも楽しいけど、今日は欲張り観光やから、


「こういうのも旅じゃない」

「そやそや」


 生口島のメインはやっぱり耕三寺。


「耕三寺ってやっぱり」

「まあ、こんだけのものを個人で作ったんを褒めるべきやろ」


 それとこの島はあっちこっちにアートが置いてあるのが楽しいのと、とにかくレモンの島なんや。ジェラートもなかなかやってんけど、


「レモン鍋もレモン・ラーメンもあるんじゃよ」


 食べても良かってんけど、なんとなく取り合わせが強引やったからやめといた。平山郁夫美術館もちゃんと見たで。多々羅大橋渡ったら大三島や。

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