いざ西へ

「行くでユッキー」

「あいよコトリ」


 今回はお泊り付きのロング・ツーリング。ドカンと西に進むで。出発は六時や。これだけ早く出るのは距離もあるけんど、神戸から西に一二五CC走るのは大変なんよ。クルマやったら山陽自動車道で終わりやけど一二五CCでは走られへん。


「姫路に行く時に往生したものね」


 あん時はコトリも油断しとった。山陽自動車道はアカンけど、加古川バイパスから姫路バイパスは走れると思とってん。そしたらアウトやねん。ナビ見ても平気で加古川バイパスや姫路バイパスに誘導するから参ったで。


「無料になってるからで良さそうね」


 ナビもどうしてもクルマ中心やから、有料道路を外して案内するはあっても、原付二種の走れへん道を分けよらへんのや。バイクやからどんな道でも走れる言うものの、加古川とか市川を一二五CCで渡れる橋を見つけるのも難儀やった。


「原付用のナビは高過ぎよ!」


 コトリもそう思たけど、需要が少ないんよ。これは淡路島のマウントおっさんの方が一理あって、ロング・ツーリングするのんは一二五CCじゃ苦しいねん。やっぱり二五〇CCは必要や。それこそ大きければ大きいほどエエのは間違いやない。


 さらにやで一二五CCのロードバイクなんかあんまり売れへん。売れるのはスクーターや。スクーターは通勤・通学・買い物用やからナビなんかいらんのや。一二五CCでロング・ツーリングする奴なんてホンマに少ないねんよ。


 それとやけどナビに頼り過ぎるのはコトリは好かん。仕事やったら必要やろけど、ツーリングは遊びやで。見知らぬ土地に行って、新しい発見をするのが楽しみやんか。道に迷うことで新しい発見をするのも旅やと思うで。


「それは言えるかも。旅ってトラブルがあった方が、かえって思い出に残るケースも多いのよね」


 まあ迷ってばっかりやったら、それはそれで困るんやけど、それなりに準備してても起こってまうトラブルも旅の楽しみになるし、そもそも一遍迷ったら次は間違わへん。


「でも今回は迷ったら致命傷になるよ」


 そやから今回はちゃんと教訓にしとる。まず明石までは淡路島行くときと同じや。そこから西明石まで行くんやけど、そこから国道二五〇号線を使うんよ。国道二五〇号線は国道二号線に対して海沿い走るから浜国道と呼ぶのもおるねん。それと加古川バイパスや姫路バイパスがパンク状態やから、中途半端やけど整備もしてある。


 西明石から高砂までは明姫幹線いうて快適な道で姫路バイパスの高砂西ICまで続いてるんや。そやけど姫路バイパスは一二五CCは走れんから、はりまシーサイド・ロードともいうけど、やっぱり国道二五〇号線を走るんよ。


 市街地走る道やからペースは上がらへんとこやねん。この道も御津のあたりからワインディング・ロードになってきて相生、赤穂と抜けてくんや。


「結構な道だったね」

「峠道もおもろいけど、まだまだ先は長いで」


 それでもやっとこさ兵庫県から岡山に入れた。目指すは岡山ブルーラインの入り口や、ここまでで神戸から百二十キロぐらいやねん。ブルーラインから岡山バイパスを快調に走り抜けて倉敷から今度は国道二号や。


「岡山県はあっさり抜けられたね」

「兵庫県抜けるのが大変過ぎたわ」


 岡山があっさり抜けられて広島県に入れたから、感覚的にもうすぐやってん。エエ加減くたびれとったし。ところがギッチョン甘かった。渋滞や。福山抜けるの一苦労やったし、尾道に入って喜んだけど、なかなか進まんかった。


 途中休憩をたっぷり取ったけど、それでも午後三時には目的地の尾道に到着や。九時間かかったな。


「まだあるの」

「ボヤくな、ボヤくな」


 尾道から向島に渡らんとあかんねんけど、尾道大橋もあるけど渡し船にした。


「これが今日の宿なの」

「一番安かった。だから早めに着くようにしたんや」


 名前はゲストハウスってなっとるけど、食事抜きの素泊まり宿。部屋は愛想もクソもない四畳半。でもこれで十分に雨風しのげるし、二人やから無問題。チェックインして荷物を運んで一服したら、


「尾道と言えば」

「尾道ラーメン」


 ユッキーもコトリも腹減ってたから、ラーメンにもりもりやきめし、餃子にレバニラ炒めまで食べたった。


「これ尾道市内のより美味しいんじゃない」

「あんだけ走ったからかもしれんけど・・・ラーメンもう一杯」

「わたしも」


 宿に帰って風呂入って寝たわ。神戸から二百五十キロぐらいやけど、よう走ったで。女神は歳とらへんし、体力落ちへんし、とにかくタフやからありがたいで。一晩寝たらスッキリや。


「しまなみ海道楽しみ」

「クルマとは、ちゃうもん見れるはずやで」


 ここまで無理して一二五CCで尾道まで来たのは、しまなみ海道を原付で走るためやねん。しまなみ海道は本四連絡道路やねんけど、ユニークなことに自転車でも原付でも橋は渡れるんよ。


 そやからしまなみ海道はサイクリストの憧れのルートにもなっとる。それとやけど、原付や自転車は橋こそ渡れるけど、橋と橋の間の高速道路は走られへんのよ。どうするかやけど、島の中の道走って次の橋まで行くことになる。


「島ごとの観光も楽しめるのね」

「そやな、クルマが特急やったらバイクは各駅停車や」


 クルマでもICごとに下りて島観光は出来るんやけど、原付や自転車は自動的にそうなるって事や。それにたぶんやけど、島の道はそんなに広ないはずやねん。クルマなら窮屈な走りになるかもしれんが、原付やったら余裕のはずや。


「駐車場も困らないしね」

「どこでも気が向いたら停めれるで」


 これまでも、しまなみ海道はクルマでは何回か走ったことはあるねん。そやけど島巡りをやったことはなかったんよ。そやから、是非やりたかったし、やるなら原付しかないやろ。自転車でも良さそうなもんやけど、


「さすがに時間がかかるものね」


 そうやねん。しまなみ海道は高速走っただけでも尾道から今治まで六十キロぐらいあるねん。その上に島巡りするからもっとになるやんか。一日で見て回るには自転車ではチイと厳しいんよ。そやから少々無理を重ねて神戸から愛車を引っ張って来たわけや。今回はフルで見て回るで。

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