大三島から温泉へ

 まずは、道の駅多々羅しまなみ公園で腹ごしらえ。コトリは平目丸ごと唐揚げ御膳、ユッキーはマハタお造里定食にした。近藤君と土方君は値段見てビビってたな。学生の昼飯にしたらリッチやもんな。


「ガイド代として奢ったるで」

「その代わりは怖いわよ」


 でも一番安い水軍海賊丼にしよった。まあ、あれぐらい遠慮深い方が好感持てるで。そこからコトリがずっと行きたかった大山祇神社や。やっと参拝できたし宝物館もコトリは感激したで。


 ここの宝物館の何が凄いって、全国の国宝、重文の甲胄の八割があるんよ。それも名だたる有名武将のものずらりや。刀剣も目を剥きそうなのがゴッソリや。やっぱり画像で見るより目で見る方が百倍エエわ。次は伯方島やから伯方の塩が欲しいと思とってんけど。


「伯方島に製塩所はのうて、大三島にあるんじゃ」


 知らんかった。見に行ったら大三島に伯方の塩の工場がホンマにあったわ。展望スポットを効率的に回ってくれて助かった。どこもさすがの景色や。時間もだいぶ押してたから伯方島は通るだけにして、伯方・大島大橋を渡って大島や。ここも村上海賊ミュージアムは外せへん。見終わったら、


「行くよね」

「あたり前や」


 近藤君も土方君も初めてらしかったけど潮流体験や。行って知ったんやけど定時出発やのうて、潮の状態と乗船客の集まり具合の不定時出発やねん。ちょうど船もおってんけど、五人以上やなかったらガイドは付かへん言うんよ。


「それやったら五人分払うからガイド付けてえや」


 交渉成立や。潮がちょうど良かったみたいで、ありゃ川やで。ガイドさんが言うには、もっと凄いのも見れるそうや。潮流体験を満喫して、


「次の来島海峡大橋で終わっちゃうの」

「ちょっとだけオプションやろ」


 ここもコトリは試してみたかってん。


「へぇ、エレベーターで降りるんだ」


 そうやねん。途中の馬島には直接道はあらへんねんけど、エレベーターで下りれるんよ。


「四国に着いちゃったね」

「ちょっと時間が押してるけど今治城は寄らせてもらうで」


 さすがに欲張りすぎたか。そやけど今治城から一時間ぐらいで着くはずなんよ。


「今晩はどうされるんじゃ?」

「近藤君たちは?」


 聞くと友だちに藤田ってのがいて、そいつの親戚が経営してる旅館に泊まるらしい。これも良く聞くと、


「それって湯之谷温泉か」


 奇遇や。今夜はコトリたちもそこやってん。まあユッキーの希望でもあるわ。愛媛の温泉って言うたら道後温泉やし、コトリも何回も泊った事はあるねん。そやけど道後温泉もメジャー過ぎて今さらやんか。


 この辺はメジャーなところに顔出すとうるさいんよ。すぐに勘づきよる。そしたら社長が飛んできたりの挨拶が敵わへんねん。下手すりゃ市長まで出てきた時もある。


「知事が来た時もあったものね」


 こっちはプライベートでノンビリしたいのに、なんでレセプションやらなあかんのんよ。割り切って仕事で行った時はしゃ~ないけど、そんなとこまで押しかけられるのはエエ迷惑なんよ。


「だからバイクにしたのもあるのよね」


 そうやねん。飛行機でも気づかれることがあるからな。バイクやったら走ってる間はメットやし。まさか乗ってると思わへんやん。今日もそのためだけやないと思うけど、誰も気づかれへんかったで。


「有名人になるのも程ほどにしないとね。小山恵の時は世界中だったから往生したもの」


 ボヤキはさておき、宿を目指す道はわりとシンプルで今治城から今治街道を出て、ひたすら南下や。そしたら小松街道にぶち当たるから左折する。左手にJR予讃線を見ながら、伊予小松、伊予氷見と通り越して、


「石鎚山駅が見えたで」

「この辺よね」


 近藤君たちはナビとニラメッコや。事故せんかったらエエんやけどな。コトリたちを案内してるから見栄も張ってるんやろ。可愛いもんや。道を右に曲がって・・・あれやろ。


「ここなんだ」


 湯之谷温泉を秘湯と言えるかどうかは微妙やな。秘湯言うたら山の中の雰囲気あるもんな。ここは山の中言うより、山の麓やし街に近すぎるところはある。だってやで小松街道から三百メートルぐらいやからな。


 それでも知名度が低いし、一軒宿の温泉やん。これで建物に風情があったらやけど、う~ん、まあ、鄙びとることにしとこ。ユッキーは機嫌良さそうやし。チェックインしたら、コトリたちはさくらの間や。


「これって全部桜なんだって」


 こりゃ、こだわりやな。柱からテーブルまで桜かいな。贅沢なもんや。部屋やけど露天内風呂付もあってんやけど、内風呂は温泉やないんよ。温泉宿来て温泉入らんかったら意味ないやんか。


 近藤君たちはゲストハウスや。ここは相部屋で他の部屋に比べて格安らしいんや。お遍路さんとか、バックパッカーを対象にしとるらしい。


「近藤君たちのお食事は」

「素泊まりの予定でローソンに買いに行くって言うとったから誘といたわ」


 とりあえず風呂や風呂。これ入らんと意味ないで。


「かけ流しとは豪儀やな」


 そやけど風呂は秘湯の雰囲気薄かったな。どうもやけど、近くの人が銭湯代わりに来るみたいで、拍子抜けするほど現代風や。それと、ここは温泉やのうて冷泉らしいからな。


「敷地内から噴き出していて、薪で焚いてるだって」


 それでも気持ちエエお湯や。メシは食堂か、


「待ってたで」

「御馳走になります」


 緊張しとるな。とりあえずビールで乾杯やな、


「カンパ~イ」


 遠慮するな言うても無理やろな。今日会ったばかりの他人やもんな。ここは酒飲ませてほぐさんと盛り上がらんやろ。温泉の後のビールは格別や。そやけど懐石風やから、


「和食やから日本酒やな」

「石鎚と賀儀屋、日本心ってあるけど」

「全部飲むから関係あらへん。近藤君たちも遠慮せんと飲んでや」


 そのつもりやってんけど、ここからユッキーと歴史バトルになってもた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る