研究室前

「いい加減にしなさい!!!!!!」

 眼鏡の男があいつがいるという部屋のドアを開けた直後にそんな怒鳴り声が聞こえてきた。

 何事かと部屋の外から様子を伺うと、白衣を着た女が書類が山のように積み上げられた机に向かって怒鳴り散らしているところだった。

「もう何日も寝てないでしょう!!? いいからさっさと寝なさい!!」

「そーだそーだ!! いい加減死んじゃいますよ!!」

「いいからさっさと休め!! 頼むからもう寝てくれ!! あとさっさとそのカフェイン剤を手放せ!!」

 女の近くにいる白衣を着た研究者達が女に同意するように叫ぶ、その声には悲痛な響きがあった。

「あ、室長……と、誰?」

 そーだそーだと女に同意していた若い男がこちらの存在に気付いて、俺の顔を見て訝しげな顔をする。

 知らない顔だった、多分あいつの後輩かなんかだろう。

「あ、室長!! プランAの実行を手伝ってください!! このままだと十塚ちゃん、本当に死んじゃ……」

 女が眼鏡の男にそう叫んで、俺の顔を見て硬直した。

「……おい十塚、今日こそそのくらいにしとけ? お迎えもきてるし」

 眼鏡の男は一瞬頭痛を抑えるような顔をした後、書類の山に向かって声をかける。

「……はあ? 私にお迎え? 親でも来ましたか? 追い返してください。まだまだ終わらないんで」

 書類の山から気怠げな声が聞こえてきた。

「いや、ご両親ではないよ。お前が会いたがってたやつ」

「はあ?」

 眼鏡の男がこちらに手招きしながら部屋の中に入る。

 俺も続けて部屋の中に入って、書類の山の前まで。

 書類の山に埋もれるように、小さな女がそこにいた。

 元から小さかったのにさらに縮んでる、絶対に気のせいではない。

 ぶかぶかの白衣の袖から覗く腕は枯れ枝のように細い、錠剤が三分の一程度残っている瓶を握りしめる手は骨と皮だけになっていて、思わず目を背けた。

 顔は白を通り越して青い、目の隈が本当に酷い、何日も寝ていないというのは冗談でもなんでもなく事実なんだろう。

 痩せ細ったせいで落ち窪んだ目がギョロリと眼鏡の男を見て、次に俺を見た。

 想像していたよりも何十倍も酷かったので、俺は何もいえずに呆然と彼女を見た。

 彼女は俺を見て一切の身動きを止めた、ひょっとしてたった今死んだんじゃないだろうなと思ったところで、彼女はボソリとこう言った。

「…………とうとう地獄から迎えが来たか」

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