【短編】転生勇者の勧誘方法

GATA

勧誘

「ここが魔王の幹部がいる部屋だな!! 覚悟しろ!!」


 魔王様が鎮座する玉座までに続く部屋に私は立っていた。私の任務は魔王様に近づく者たちの排除だ。


「よく来たな。勇者どもよ。ここから先には行かさないぞ」

 私は勇者達に正対する。


「こいつは俺に任せてくれないか」

 プレイトメールを着込んだ戦士が私の前に進み出る。

 

私は両手を広げて微笑みを浮かべながら言う。

「まぁ、そうせくな。すこしおもてなしをさせてくれないか」

「なに?」

 戦士が声を荒げる。

 私はそれを無視して、「例のものを」と部下に声をかけた。段取りは決めてある。


「わかりました」

 そいって運ばれてきたのはテーブルと、その上に乗った山盛りの料理だった。

 勇者パーティーの一行の喉がなったのを見逃さない。


「君らの世界では、これは唐揚げというものらしいね。どうだい。一つたべてみないか。なかなか旨いぞ」

「そんなもので俺たちを懐柔しようなんて・・・」

「まぁその通りだな。私もむやみに戦いたくないしな」

 勇者一行が言葉につまった。


「お。そうか。毒が入ってるかを気にしてるのか。まぁ安心しろとは言えないな。一緒にたべてあげよう。おかわりもあるからな。遠慮しないでくれ」

 目が釘付けになっているが、まだ動かない。

「お、そうそう。飲み物がなかったな。持ってこさせよう」

 部下に命令する。

「あれは。。。コーラ?」

「コーラもどきだね。味は保証しかねるが、試飲したところなかなかの美味であったぞ」

 勇者パーティーの面々が釘付けになった。こちらの飲み物は水と酒くらいしかないからだ。

「そうそう。そちらのお嬢様方はこちらのほうがいいかな」

 部下に新たな料理を運ばせる。

「ケーキ?」

 魔法使いと僧侶が同時につぶやいた。

「そう。ケーキだ。これも味は保証しかねるがね。試食したところなかなかの美味であったよ」

 そういうとケーキを口に運んだ。




 10分と立たずに彼らは私のおもてなしを受けてくれた。

「つまり、ある日突然こちらに飛ばされたんだな」

「そうなのよ。いきなり連れてこられて、『勇者様たち!化け物と戦ってください』ってひどくない!」

 魔法使いの少女がケーキを口いっぱいに詰め込みながら憤慨してた。

「で、『勇者様方、無理にとは言いませんがお力をお貸しください。帰る方法は魔王が知ってるとおもわれます』とかなんとか言われたと」

「そうなんだよ。おっさんよく知ってるな」

 戦士が口いっぱいに食べ物を飲み込んだあとにしゃべる。

「まぁ、奴らの考えそうなことだな。ちなみに帰る方法は魔王様もしらないぞ」

 そういうと勇者一行の動きが止まった。

「でも君らの世界とを繋ぐ研究は進んでいる。君らの目の前にあるのがいい例だ」

「では。これはどのように持ってきたんですか?」

 僧侶の少女が右手に唐揚げをつかみ、左手にケーキの皿を持ちながらしゃべる。


「持ってきたのではないな。このくらいの穴をあけることには成功したんだよ」

 そういって両手の親指と人差し指で四角形を作った。

「それで、この穴から板状のこれを持ってきた。君らの世界ではスマフォというんだっけ?」

 何度目かの沈黙

「あとはこのスマフォとやらを解析して、それをもとに魔道具を作成。情報が欲しい時だけ小さな穴をあけてやり取りを行った。それで、その結果が君らの目の前あるそれってわけだ」

 私は説明をしながら、唐揚げを口に運んだ。


 勇者が何やら顔を下に向けると、ハッとして顔をあげて、身を乗り出した。

「ちょっとまってくれ。穴っていったよな。もしかして人が通れる穴があけられるとでもいうのか?」

「明日やれというのは無理だがね。近いうちにあけることはできそうだな」

 勇者一行が顔を見合わせる。

「返してくれるのか?」

「君らが望むなら」

「条件は?」

「ここから先に行かないこと。あと戻ったらなんか送ってくれ」

 沈黙


「しかし、王様たちとの約束もあるし・・・」

 勇者がつぶやく。それを見て私はもう一押しすることとする。

「君ら平和な世界に住んでいた普通の人間だったはずだ。それをいきなり連れてきて『やれ戦え』というのどうなんだい?」

「それは・・・」

「無責任だろ。筋道が通ってない。呼ぶ前に聞く。呼んだらサポートする。呼んだ張本人が先頭にたって戦う。生死がかかわるならなおさらだ。ちがうかね?」

「それはそうだけど・・・」

「無理やり連れてきて、無理やり戦わせて、褒美は元の世界に帰します。これが誠実なのかね?君らのいうヤクザと変わらないのでは?」

「・・・・・」

 勇者パーティーが黙りこくってしまった。


「まぁ、早急に結論は出ないと思うがね。君らに風呂と部屋を用意した。じっくりと考えるといいよ。なんなら穴があくまで滞在してもらってもかまないよ」

 そういうと、シャンプー(もどき)とリンス(もどき)とボディーソープ(もどき)を渡した。

 彼らの目が見開いていた。





 それから半年後。こちらの世界とあちらの世界をつなぐ人が通れるくらいの穴が完成した。といっても常時あけておくのは無理なので、片道分の時間しか開けられないが。


「お世話になりました」

 勇者が握手を求めてくる

「おっちゃん。ありがとう」

 戦士が片手をあげた。

「おじさん。またね」

 と、魔法使い

「ありがとうございました」

 僧侶が頭を下げた。


「あ、またな。連絡くれよ」

 私は手をふる。


 穴が開き終わり、彼らが一歩穴をくぐると歓声があがった。どうやら無事に帰れたみたいだ。

 その歓声を聞くと、穴を閉じるよう命令を出した。

 

 私の任務は達成されたのだ。

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