Film 8. 『スリー・ビルボード』

 2018年のアメリカ映画。1時間55分。

 ある田舎町で起きたつらい事件をめぐり、人々の感情が交錯する群像劇。


 ミズーリ州のある町で、一人の少女がひどい殺され方をした。犯人はいつまでたっても見つからない。

 業を煮やした少女の母親は、現場近くにある3枚の広告用看板ビルボードに広告を出す。それは、頼りない地元警察を厳しく批判する3行の言葉だった。

 この仕打ちに警官たちは怒り狂い、また住民たちも母親とその家族に嫌がらせを始める。けれど、母親は頑として広告を取り下げない。

 名指しで批判された警察署長のウィロビーは遺族に同情的だったが、実は末期ガンで死期が近かった。やむなくそのことを母親に教えることにするのだが……。


 ふしぎと元気になれる傑作!

 先に断っておきますが、昨日の『スウィーニー・トッド』ともまた違う意味で、かなり大人向けの映画です。

 あらすじから伝わってくるのは、およそヒリヒリとした暗い雰囲気。ハリウッド的なエンタメ作でもないため、わかりやすくなにかが解決するわけでもありません。

 しかし、この作品を観終えたあと、あなたの中ではなぜか、すがすがしく穏やかで、言葉にならないような心地がしていることでしょう。


 子供を失った母親。事件を未解決のまま去りゆかねばならない警察署長。その彼に心酔していて、批判を許せない警察官。

 主要人物の誰もが推して余りある感情を抱え、彼ら自身も抱え切れず不器用にあがいていきます。当然そんなやり方でなにかがうまくいくこともありません。むしろ悪い方へ転がることの方が多いでしょう。

 ただ、彼らはいつも懸命で、必死です。


 息を切らして立つようなその姿を、一つも取りこぼさないよう丁寧な群像劇として描いている。元有名劇作家だという監督のそのタッチに感じるのは、「人間そのものへの愛」のようなものでした。


 この映画をクリスマス向けに紹介するのは、クリスマスが「人の温かみを再確認する日」でもあるため。

 静かなようで激しく、時に粋な一面も見せる映画です。特にラストは映画史に残る鮮やかさ。ご予定のない方、お一人やご夫婦などでじっくりと映画を楽しみたい方にオススメです。


 さあ、あと12日! それではメリークリスマス!

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