異世界コンビニ開店

いろいろなことがあったけれど、ともかくコンビニ開店当日となった!

ててさんやイザベラさんはこの世界にできた初めてのコンビニに興味津々だし、

ソフィアさんも社会勉強だから開店日くらい見に行ってこいと(無理やり)言っていたし、

僕はててさんを頭に乗せてイザベラさんとコンビニに行く事となった。

コンビニは開店前だというのに人でごった返している。「すごいなぁ……マジでコンビニだよ……」

「あれまあ、人がいっぱいおりますわ~」イザベラさんは目を丸くして驚いている。

店の中ではアメリアさんが開店準備のために忙しそうに働いていたが、僕たちの姿を見て驚いた顔をして店を出てきた。

「弟弟子くん、それにイザベラさんまで……どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、見に来るのは当然じゃないですか、アメリアさん」

「そんなもんなの~?」「そりゃそうですよ!」

そんな会話をしているうちに店内の準備をしていたもう一人の店員らしい人が出てきた。

「アメリアさん、この人たちは……?」

「スーちゃん、ほら、この子があたしが言ってた弟弟子くんだよ!」

スーちゃんと呼ばれた人は僕を見て少し不思議そうな表情を浮かべていた。

「ええっと、私……御蔵数華(みくらすうか)といいます。アメリアさんと一緒に働くバイトです。よろしくお願いします」

「僕はクリストファー・アルンハイムです……クリスって呼んでください」

「わたくしはイザベラさんですわ~!そしてこの箱の人はててさんですわ~」「人の自己紹介を取るなよ、イザベラさん…」

「わあ、本当に異世界っぽい!なんだかここで働く実感、わいてきました」スーさんは興奮気味だ。

「スーちゃん、これから一緒に頑張ろうねっ!」アメリアさんはスーさんの手を握る。

「はいっ!よろしくお願いします!」

「……あ、まだ準備終わってないからまたね、クリス!」「あ、はい……」

アメリアさんとスーさんは仕事のため店の中に戻っていった。

僕はしばらく立ち尽くしていた。

「クリスさん、どしたんですの?」イザベラさんが僕の顔を見上げている。

「いえ、なんでもないです……コンビニ、並びましょうか」僕はイザベラさんの手をとり、歩き出した。



少し待つと、この世界で最初のコンビニはついに開店した。

店に入るためにもっと何時間も並ぶのかと思っていたけれど、この世界に現れた異世界の建物の姿を見てみたい野次馬がほとんどであったようだ。

それでも最後列に並んだ僕たちは中に入るのに20分以上もかかってしまった。

「これがコンビニか……!」僕は思わず感嘆の声をあげてしまった。店内には僕たちの世界では見られないものがところ狭しと並んでいる。

「とりあえずお昼を選ぼうぜ、クリス」「えぇ~、ちょっとくらいゆっくり見て回らせて下さいよ、ててさん」

僕はててさんをなだめながら、おにぎり・弁当コーナーに向かう。

「こういう所もちゃんとコンビニなんだなあ」ててさんは嬉しそうにそう言った。

確かに凄かった。種類も豊富でどれがおいしいかも分からなかったけど、とにかく色々な種類があることは分かった。

「今日はいろんなおあじを試してみたいのですわ~」イザベラさんも目を輝かせている。

レジをちらりと見る。アメリアさんが客の対応に追われているが、一生懸命頑張っている。

「大丈夫かな、アメリアさん……」僕がつぶやくと同時に大きな声が入り口から響いた。


「アメリアーーーーーー!!貴様こんなところで何をしている!!」

「え!?え!?」スーさんは状況を理解できず狼狽している。

「やめてよパパ……スーちゃんもイザベラさんも怖がってるし、何よりお客さんに迷惑でしょ!!」

現れたのはアメリアさんのお父さんだった。彼はアメリアさんをにらみつけ怒鳴りつける。

「何が迷惑だ!!お前はこんな下賤な者とこんな下賤なことをするような娘ではなかったはずだぞ!!」

「下賤!?まともに働かないで国からもらった年金で生活してる方が高貴だっていうわけ!?バカみたいな事言わないでよ!」

「違う!!お前は……あの忌々しい宮廷魔術師さえいなければお前は今だって女王だったのだぞ!!!」

「!!!」

「え、どういうこと?アメリアさんがソフィアさんの弟子だって話は聞いてたけど……クリスは何か知ってるのか?」ててさんが耳打ちしてくる。

「いえ僕はなにも……いいところの人だとは思っていたんですが……」

アメリアさん親子とソフィアさんの間に何があったのか?そしてどうして今のような関係になったのか?僕だってそんなことは聞いたことは無い……

アメリアさんはすこし黙っていたが、口を開いた。

「……私が女王だったのは小さい頃だったんでしょ……そんなつまらないことでこの国がバラバラになるようなことになるくらいなら、私は私がやりたいことをやっていたいんだけど」

アメリアさんは自分の父親に毅然とそう言い放った。

「私はこんなものを認めん……これ以上恥を晒すのなら私はお前を……」

「なんですかこの狂態は」わざとらしい口調で、聞き覚えのある声が割り込んできた。

そこにはいつものように、魔術装束に身を包んだソフィアさんの姿があった。

「なっ……貴様は宮廷魔術師!何故ここにいる!」

「恥を晒しているのはあなたですよ、『元』摂政」ソフィアさんは冷たい声で答える。

「今日の所はお引き取りください」

「な、なにを……ぐぅっ……」アメリアさんの父親は警備兵に連れて行かれてしまった。

スーさんがほっとした表情を浮かべる。ソフィアさんはレジのアメリアさんの方に話しかける。

「アメリアさん……懐中電灯の電池が切れてしまって。単三電池って、ありますか?」

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